Neetel Inside 文芸新都
表紙

我が闘病
第7話

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自由が欲しかった


足枷の重さに泣いたこともあったよ


心配はいらないよ


痛みを感じない強さじゃなくてね


痛みの分かる強さが欲しいから






-第7話-


5時限目が何の授業だったか知らないが、僕はベルの音で意識を取り戻し、PC/AT互換機を机に乗せた。


目覚める度に拭っていた、口元の奇妙な気泡も気にならなくなった。


そうだ、この機器に名を与えよう。ファイルを再生する度、僕をゼロ時間へと運んでくれるこの扉に、相応な名を。


「時空の扉」


今からお前は、時空の扉だ。僕はPC/AT互換機にそう告げた。


またも、たった9分47秒だが僕をゼロ時間へ導いておくれ。さあ、時を超えよう。僕はヴァリエール嬢が猫に扮し、使い魔と化す瞬間を激写するという、破壊力の最も高い”銀(しろがね)の降臨祭”を再生しようとした。その時、悪魔が耳元で囁いた。


「腸(ひろし)君、次は体育だよ。」


僕は生前の”体育”に関する記憶を取り戻した。


体育…運動は嫌いではない。ただ、これから体操着に着替え、その9分35秒後には運動場で待機していなければ、体育教師の西田に暴行を加えられる。


それくらいならちっとも構わない。時空の扉をどうすればいいんだ。安易にこのセキュリティー意識の無い教室に放置するわけにはいかない。たかしくん達のような不良が、この時空の扉を狙っている危険もある。


とにかく、僕は即刻体操着に着替え、時空の扉を体操着の腹部に収め、襟元からイヤホンを出し、”ホントノキモチ”を再生しながら運動場に向かった。


おそらく、今日の授業はマラソンだ。マラソンとは、運動場をぐるぐる走り周るやつのことだ。


通常の室内授業(座席着)でさえ、釘宮イオンが不足し、泡を吹いて気を失ってしまう僕が、そんなものに耐えられる訳がない。



少し早めに運動場に辿り着いた僕は、遅刻者という名の反乱分子に暴行を加える為に待機していた西田に申請した。イヤホンを襟の中にしまい。



「すいません、今日は見学させてください」



「どうした?体調でも悪いのか?」



「はい。釘宮病が…」



「釘宮病??」



「天使の声に魅了される不治の病です」





西田の拳が僕の脳天を直撃した。



腹部を犯られなくてよかった…。僕は腹部の時空の扉を擦った。本当よかった…。DVを受ける妊婦の心境なのだろうか。



しかし、これから待ち受けるオフロード。僕はいったいどうすればよいのだろう。



5分程の準備運動を終え、今まさに魔羅損(まらそん)がスタートした。僕は既に激しい眩暈に襲われていた。運動は促進を早める。



ああ、地獄そのものだ。苦しい…今にも意識を失いそうだ。お願いだ…声を聞かせておくれ…それだけで僕は走りだせるから。


薄れゆく意識の中、ヴァリエール嬢の横顔を思い浮かべていた。もう、そのまま倒れる寸前のことだった、まさに紙一重のその時、僕のペニスに何かが当たった。




…時空の扉だった。


ずれ落ちてきた。


ジャージ(体操着)というものの、柔軟性に優れている特性が裏目に出た。


僕の股間は四角く盛り上がっている。まるでエロ本を万引きした中学生のように。



ほんの些細な刺激のせいだろうか、ほんの僅かばかりの意識を取り戻した。



だが、もはや立っていることすらままならない。



唖然呆然立ちすくす僕の元に、西田が近づいてくる。



「おいコラ、ティンカスが。お前、体操着の中に何入れてんだコラ?」



病人相手に何を…だが闘わなければ…時空の扉を奪われるわけにはいかない…絶対に…ああ、よりによってこんな時に…悔しい、負けたくない…この莫迦犬って、それさえ聞けたなら僕は不死鳥の如く蘇れるのに…



涙が止まらない。



僕はとうとうひざまずいてしまった。そして叫んでしまった…



「助けてください、助けてください」



意識を振り絞った叫びに、全ての足音が止まった。




そして、次の瞬間だった。



「先生、クリトリスの侵害です」




僕と西田の間に、立ちふさがったこの男は……禿頭にカッチューシャを装備しているこの後姿は…クラス一の不良の…高木たかしくん



おそらく…プライバシーの誤りだが…

       

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