Neetel Inside 文芸新都
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サクっと読めちゃう作品集
今日は誕生日

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 今日は楽しい誕生日。
人々は祝いのご馳走と今年は豊作だったブドウで作ったワインをテーブルに並べる。
そう、今日は誕生日だ。

 今日は楽しい誕生日。
並べられたご馳走やケーキに胸躍らせる子供達。
今にここは大道芸やダンスパーティーで賑やかな笑顔で満たされるだろう。
そう、今日は誕生日さ。

 しかし、一人の男がふと疑問をもった。
「ところで、今日は誰の誕生日なんだい?」
その疑問にみんな言葉が詰まった。
これは迂闊だった。
よくよく考えてみれば。
ここにいるみんなは誰の誕生日なのか知らずに準備をしていた。
いや、憶えていなかった。と言うべきか。

 そこで、ある人は太陽に尋ねてみた。
「今日は誰の誕生日なんだい?」
お日様はこう答えた。
「答えるまでも無い、己の胸に聞いてみな。」
その人は自分の胸に聞いてみた。
しかし胸からは何も返ってこない。
ある人は月に聞いてみた。
「今日は誰の誕生日だったかな。」
お月様はこう答えた。
「それは、皆様がよく知っているはずです。ご自分の胸に聞いてみなさいな。」
その人も自分の胸に尋ねてみた。
やっぱり何も返ってこない。
そもそも胸には口が無いじゃないか。
その人たちは馬鹿にされていると思い腹が立ってきた。
しかし月は。
「おやおや、あなた方はとんだ勘違いをしている。」
勘違い?ますます解らなくなってきたようだ。
人々はさも観念したかのように嘆いた。
「わからん、一体誰の誕生日なんだ?教えてくれ。」

 太陽と月は答えた。
「“その者”は空、海、風、森、・・・」
「森羅万象に宿っている・・・いや、存在しているのですのです。無論私達の中にも。」
「全てに絶対平等に与えられる“それ”。」
「過去、現在、そして未来にも。」

 一人の男が気付いた。
「解ったぞ、“それ”はここだ!」
男の言葉に皆の視線がそこに集まった。
「ここ? こことはこの場所のことか?」
一瞬の沈黙の後、隣の人が口を開いた。
「いいや、そんな小さなものじゃあ無い。」
「では何だ?」
隣の人はなんとも煮え切らない表情をしている。
「この世界。さ  そうだろう?」
両手一杯広げながら、男はさも得意げに太陽らに聞き返した。
「その通り、今日はこの世界が生まれた日。」
「この世界の誕生日と言う訳です。」

 そう、今日はこの世界の誕生日。
何故今まで気付かなかったのだろう。

 男がポツリと呟いた。
「どうやら俺達は目先のことばかりに囚われていて、もっと大きな、肝心な事を見失っていたようだな。」
その言葉は皆の心に重く染み込むように響いた。

 今日は楽しい誕生日。
人々は祝いのご馳走と今年は豊作だったブドウで作ったワインをテーブルに並べる。
そう、今日は誕生日だ。

 今日は楽しい誕生日。
並べられたご馳走やケーキに胸躍らせる子供達。
今にここは大道芸やダンスパーティーで賑やかな笑顔で満たされるだろう。
そう、今日は誕生日さ。

 誰の誕生日かって?
それはこの世界さ。
記念日じゃない、誕生日さ。

 さあ祝おう。
ご馳走にワインにダンスを踊ろう。
なんたって、今日は誕生日なのだから。

       

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