Neetel Inside 文芸新都
表紙

適当を前提にお付き合いください
I'm loving you now.

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 シャカシャカシャカ・・・・・・
 ワタルや達也は無事なのだろうか。俺はスピードこそ出ていたもののただの転倒だったから、受身さえ取れれば骨折等もしない。
 だが、ワタルと達也はコンクリートの塀に「激突」したのだ。
 シャカシャカシャカ・・・・・・
 おそらく、130~140km/hは出ていたと思う。それぞれの体重が70kgと60kgだからその衝撃は……
 シャカシャカシャカシャカ
「おい、いい加減シャカシャカポテト振るの止めろ」
 人が真剣に考え事をしているというのに、目の前にいるこの女はさっきから能天気にシャカシャカポテトを振りまくっているのだった。
「いや、味が偏ったらいやじゃん?」
「愚か者め、その味の偏りを楽しめないようではマッカーとは言えんな」
「は?マッカー?」
「マックを極めし者にのみ与えられる称号だ。こんな時にマックに入ろうなんていいだすから、どんだけマッカーなんだと思ったら・・・・・・」
「あー、あれか。なんかりょっちのPCでテラマックとかいうやつ?メガマック何個分だっけ?ああいうことする人?」
 そう言われて、俺の眉がピクッと引きつった?
 なんだと・・・・・・?テラマックを作ったヤツラがマッカーだと・・・・・・?
「おいコラ。あんなものマッカーだなんていわないんですよ」
「は?」
「マッカーというものは、コレだけ積む」
 そういって、俺は両手を使って「7」という数字を作る。
「7個?なんかそこまで凄くないような・・・・・・」
「否、七拾也」
「・・・・・・は?」
「70個だ。我々マッカーはハンバーガーを70積むっ!それもっ!ありとあらゆる種類のハンバーガーを使いっ!」
「・・・・・・」
「その名もっ!ランドマックタワー!マッカーだけに作ることと食べることが許された至高のジャンクフードだ!」
 ふふん、とユウを小馬鹿にして見下した目で見てやる。
 しかしユウは怯むことなく。
「タダの馬鹿じゃん。しかもランドマークタワーは70階だけど地下にあと3階あるよ。それは?」
 ええい、無駄な知識ばかり豊富な小娘め、小癪なり。
「そんなことはどうでもいいんだよ」
「自分から話振ったくせに」
 この際無視だ。
「お前、結局腹が減ったから病院を目の前にしてマックに入ろうなんていいだしたんだよな?いい加減ハラペコキャラ定着するぞ」
 ハラペコキャラ、という言葉に一瞬しかめっ面をするが、すぐに言い返してきた。
「お腹は空いてたけど」
 やっぱりそうなのか。
「けど!アンタがあんまりにも情けない顔してたから、飯でも食いながらインターバルを取ってあげようと思ったのよ」
「失敬な。このイケメンを情けない顔呼ばわりか」
「もともとイケメンじゃないしね。見てるこっちが情けなるくらい、情けない顔してたわよ」
 モグモグとメガマックを食いながらユウは言い放つ。
「結構重傷みたいだけど、別にアンタがぶつかったとかそういうわけじゃないんでしょ?なんでそんなへこんでんのよ」
 何でこう、コイツには色々と喋りたくなってしまうのだろうか。
 智恵と付き合っていた時は、確かに情けないところを曝け出すことはあったが、本当に自分の卑しい部分までは曝け出さなかった。
 嫌われるのが怖かったとか、そんな理由だったと思う。
 じゃぁ今は?
 嫌われても構わない・・・・・・つまり、『適当が前提』だからだろか。
 自分の卑しい部分も何かも曝け出して、否定なり肯定なりをしてもらうことが怖くない。
 あぁ、でもコレは恋愛感情とは別物だからなのだろうか。よくわからない。状況が状況だし。
「俺さ、智恵に振られた時、もう何もかもがどうでもよくなっちまったんだよ」
 例によって、気付くと俺はポツポツと喋りだしていた。
 大分今と関係ないような話のようなのに、ユウは黙って聞いてくれた。
「それでもまぁ、なんとか普通に生活は続けてたんだけど、なんか日常に違和感を感じ始めたんだよ。
 その違和感っつーのが、最初はよくわからなかった。いや、分かろうとしなかった。
 俺って無駄に勘がいいから、気付かなければいいようなことすら気付いちまうんだ。
 俺と智恵が別れてから、なんだか達也の様子がおかしかったんだ。
 急に付き合いが悪くなって、普段なんていっつも部屋に引きこもってるから、メッセンジャーは常にオンラインだし、ブログも暇があれば更新してるような奴なのに、その日からメッセはオフライン、ブログの更新もたまにしかしなくなった」
 そこで、俺は一息付いて、冷めて更に不味くなったコーヒーを一口飲んだ。
「その達也の変化って、俺が智恵と付き合い始めた頃にそっくりだった。
 俺は自分の部屋じゃなくて、智恵の部屋に居候みたいな感じで居座ってたし、あいつの部屋にはネットに繋がってるパソコンは一つしかないから、アイツがいる時はネットが使えないからそういう風になるんだ。
 だから、俺ワタルに電話してカマかけたんだ。
『アイツら、俺が振られたとたんあれだもんな。やってらんねーよ』って。
 アイツらってだれなのか、あれってなんなのか。何も明示しなかったけど、ワタルはこう言ったんだ。
『お前、やっぱ気付いてたんだ』
 それで全部繋がっちまった。
 どうやら、俺以外の友達は皆知ってたみたいな。俺が振られてすぐ二人が付き合い出したこと。
 それを隠して、知らない振りをしながら俺は励まされてたのかと思うと、もう死にたくなってな。
 電話をそのまま放り投げて、バイクでどっか行っちまおうと思ったんだよ」
 煙草を取り出そうとして、煙草を入れていたジャケットは達也にかけたままだったことに思い至った。
「まぁ、それで俺はあのバイクに跨って由比ヶ浜に向かったんだ」
「何で由比ヶ浜?」
 そこでユウは口を挟んできた。
「んー、まぁ俺の乗ってるバイクはカタナっつーんだけど、このバイク乗りにとってはバイブルともいえる漫画があってだな。それが丁度近くに置いてあって、それを見て」
「あー、それでその漫画の中で、そのバイクと由比ヶ浜になんか因縁があるわけ」
「そ、漫画ではコーナーでバイクが故障して、駿河湾に落っこちるんだよね。まぁ、死ぬ気はなかったんだけど、とりあえず由比ヶ浜にでも行こうかなって」
「馬鹿だね」
「今思えば、な。まぁ、それでその時は深夜だったってこともあって、信号とかガンガン無視して由比ヶ浜まですっ飛ばしてたのよ。それで、あともう少しでその件のコーナーだったんだけど」
 その時のことを思い出して、俺を少し笑ってしまった。
「後ろのほうからなんか爆音が近づいてくんだよ、そしたら、いきなりアメリカンバイクが俺の前に飛び出してきて、無理やり俺を止めたんだ。
 そいつは、ワタルだったんだ。
 バイクに跨ったまま呆然とする俺を、アイツはヘルメットの上から殴ってきて、静かに言ったんだ。
『落ち着け』
 お前が落ち着けって感じだったよ。
 何すんだ、って言ったら。
『え?お前自殺する気だったんじゃねーの?』
 って。どうやら心配になって、俺の部屋まで来てくれてた見たいね。それで、座椅子の近くにその漫画が置いてあったのをみてわざわざ由比ヶ浜まで飛ばして俺の自殺を止めに来てくれたらしい。
 その後、二人でぼーっと由比ヶ浜の日の出見ながら、唐突にワタルがバイクチームを作るつもりなんだって言い出した。お前にも入ってもらいたいって。チームに入る条件はただ一つ。死ぬまでバイクに乗ること。ただし、その死ぬの定義は老衰のみ。事故ったり自殺とかなんかで死ぬのはダメなんだと。
 お前はいつまでバイクに乗れる?そう聞いたワタルに俺は『無論、死ぬまで』って答えて、どんな爺になろうが、孫に呆れられようが、俺たちはずっと走り続けるんだって約束した」
「良い話じゃない」
「ああ、ワタルは良い奴だし、ここまではいい話だ」
 普段はただのバイク馬鹿のダメ人間、でも友達のためならどんなに面倒だろうが、大変だろうが捨て身で助けに来る。それが宇津木ワタルという男だ。
 そんな友人に助けられたのが俺だ。
 だというのに
「俺は、さっきそんな友人を犠牲にして、自分のために利用しようとしたんだ」
 

     

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「利用しようとしたって?どういう意味よ」
 一緒に事故にあったって言うのが、コイツのモトカノの今の彼氏―――ややこしいな―――と聞いたので、大方予想はつくが、ここで全部ゲロっておかないとこいつは何をしでかすか分からない。
 アタシは完全な聞き手に回ることで、コイツをとりあえず落ち着かせようと思った。
 しかし、そこに丁度入り口から誰か入って来た。
 白衣を着ている。ナースだろうか?どうやら、アタシたちの目的地である病院の人みたいだ。夜食でも買いに来たのだろうか?
「・・・・・・いや、そろそろ病院のほうに行こうぜ。飯も食い終わっただろ」
 そのナースを見て、りょっちはどうやらここに来た本来の目的を思い出したようだ。
「行っても無駄よ、顔から血ダラダラ流してたんでしょ?手術してるだろうからどうせずーと待たされるわよ。話を聞くくらいの時間ならたっぷりあるはずよ」
 間の悪いナースである。話の腰を折らないで欲しかった。一息に吐いてしまったほうが楽なのだから。
「・・・・・・そういうモンなのか」
「そういうモンよ。いいから続けなさい」
 詳しくは知らないけど。大方外れてはいないはずだ。
「利用しようとした・・・・・・というか、見捨てようとしたというのが正しいかも知れない」
 まだ少し取り乱しているのか、何度も言葉を選びなおしたり、言いよどんだりして分かりにくかったが、だいたいりょっちの話をまとめるとこうだ。

 りょっちは、最初に達也の様子を確認したようだ。
 その時、本人に確かめたところ、どうも足と背中の骨を折ってるように思えた。
 寒いというので、自分のジャケットをかけた時に、達也の足から結構な量の血が出ていることに気付いた。
 本人は脳震盪のせいか、状況に追いつけていないのか、それに気付いていない。
 ワタルも大きな怪我をしていた。
 りょっちはその時自分が居る場所の住所を知らなかった。
 パニックのせいか、そのまましばらく呆然と突っ立っていたらしい。
 そこに、音に駆けつけた近所の人が来て、何とか応急処置をし、救急車を呼んでもらった。
 何も問題がないように思える。
 しかし、とりょっちは言った。
 本当は、近所の人が来なくとも応急処置くらいは出来たはずだ、と。詳しい場所が分からなくとも、自分が走ってきた道のりを説明すれば大体の場所は救急車に伝えられたはずだ、と。
 そうしなかったのは、無意識下で「達也ってこのまま放っておけば、出血多量で死ぬんじゃないか?」という考えがあったかもしれない、そう思っていたからではないかと。
 事故扱いにしたら、ワタルの免許に傷がつくんじゃないかとか、イキナリのことでパニックになっていたといえば、自分に責任はないんじゃないかとか、そういう言い訳を自分にして、ワタルに達也を殺させるつもりだったのかもしれない。
 そもそも、その言い訳だって穴だらけなのだ。事故で怪我をさせた、そんなことよりも事故で人を殺した、そんな状態のほうがワタルにだって都合が悪いに決まっているのだ。
 自らを省みず、自分を助けてくれたワタルに対し、殺人の罪を着せようとした。
 それが、恩人・宇津木亘に対する、白石亮介の裏切り。

「死ぬまで一緒に走る―――そう約束してくれた友人に対して、俺は―――」
 今にも、泣きそうな顔である。
 しかし、だ。
「あのさぁ、さっきから聞いてればさぁ」
 私は呆れたようにジュースのストローを咥えたまま言う。
「かもしれない―――できたはずだ―――こうしていれば―――ああだったら―――たら、ればって、てめぇでもわかってねーよーなことでへこんでんじゃねーですよ」
 ズズズ、と飲み物がなくなり、僅かな水滴だけを吸い込む空しい音が響く。
「結果だけ見ろ。もう終わっちゃったんだし。事故ったのはそのワタル自身の不注意なんだし、二人とも死ななかったらりょっちはもう(・ε・)キニシナイ!!」
 明らかにふざけたアタシの態度に、あっけに取られたような顔をするりょっち。
「だ、だとしても、俺は―――」
 なおも食い下がろうとするりょっちに対し、アタシはストローをプッと噴出してりょっちの額に飛ばして遮っていった。
「それでも罪悪感を感じるんだったら、後々事故を起こした罪悪感にさいなまれるであろうワタルを、あなたが救ってあげなさい。それでいいでしょう」
 これでこの話は終わり。というように言い切る。
 さて、またこの男が何か言い出す前に移動するとしますか。
「そろそろ手術も終わるんじゃない?ほら、病院に行くよ」
「あぁ―――まったく、お前には適わないな」
「それ褒めてるの?」
「いや、まったく」
 グーで殴ってやった。

     

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 先ほど運ばれた宇津木が事故った時に一緒にいた者です。
 そう受付の人に説明すると、簡単に事故の状況を聞かれた。
「いいですか、ここは病院です」
「? ハイ、わかります」
「事故の時どのくらいスピードを出していたか分かりますか?」
 これは、素直に答えていいものだろうか。この証言が後ほど本人の言ったものと食い違ったりしたら、色々と面倒になるのではないだろうか?
 そんなことを考えていると、もう一度同じ説明をされた。
「いいですか、ここは病院です」
 なるほど、別に警察に言ったりはしない、そういうことを言いたいわけか。
「およそ、130~140くらいだと思います」
 その後も、倒れていた位置、ぶつかったもの、火傷の原因など質問をされ、しばらく待っているように言われた。
 待合室には、ユウがちょこんと座っていた。
「そういえば、アンタも怪我してるんでしょ?ちょっと見せなさい」
「いや、あいつらに比べればこんなの―――」
「いいから見せろ」
「ハイ」
 なんで途中から強引になるんでしょうか。
 ユウカバンに入れてきた、どうやら俺の部屋から勝手に持ってきたと思しき消毒液とガーゼを取り出していた。
 チクショウ、いつかこいつをギャフンと―――
「ギャフン!」
「あちゃー、まぁバイクでこけたなら火傷っぽくなるよねー、これ治り遅いし傷跡残るよー」
「別ニィィイイイ、はぁはぁ、傷跡とか、男だから、関係ナァアアアアアアアイテエエエ!!!」
「男なんでしょ、我慢しなさいよ」
「いや、でも、コレは」
「あいつらに比べればこんなの大したことないんでしょ」
「テメ、それ、俺、最後まで言ってアアアアアア!!」
 受付の人がつめたい目で見てくるが、他に患者がいないからなのかどうなのか知らないが、注意されなかった。
 注意して欲しかった。
 その後も、しばらくユウの乱暴な治療は続いたのだった。

 治療が終わってしばらくして、受付の人が声を掛けてきた。
「手術、終わりましたよ。少しですけど話が出来ますけどどうしますか?」
「お願いします」
 俺がそういうと、ユウはいってらっしゃい、とでも言うように手を振った。
「アタシが行く意味分からないしね」
「それもそうだな、行ってくる」
「あいあい」
 それだけ言うと、受付の人は少し奥の通りに案内してくれた。
 ワタルはそのまま入院するようで、部屋まで行くためにエレベータに乗るそうだが、そのエレベーターが来るまでの間なら会話が出来るそうだ。
 何を言うべきか、何を言ったらいいのか、結局何も思いつかないうちに手術室の扉が開いて、ワタルを乗せた移動式のベッドみたいな奴が来た。
「よう・・・・・・」
「あれ、りょっち何やってんの」
「何やってんのって、心配で待ってたんだよ」
「そうかー、シャドウはどうなった?」
 一瞬言葉に詰まってしまう。言うべきか、誤魔化すべきか。
「バイクのことより自分の体の心配しろよ」
 結局俺は誤魔化そうとした。
「大丈夫だよ、それより、シャドウは?」
 誤魔化せそうになかった。
「・・・・・・フレームが割れてた。タンクも割れてた。エアクリもどっか吹っ飛んでた。ハンドルも意味わかんない方向に曲がってた」
 一息にバイクの状態を告げると、ワタルはなんともいえない顔をしながら確認した。
「麻酔のせいかなー、頭がよくはたらかねーんだよ。一言で分かりやすく言ってくれ」
 正直に言うのは辛かった。恩人に、まるで死の宣告をする気分だった。
「シャドウは、廃車だ」
「そう、か。・・・・・・達也は?」
「わからん。俺が見た感じだと、足と背骨がイッてた」
「・・・・・・」
 少し沈黙が流れる。エレベーターはどうやら遅いらしく、まだ一階に着かない。
 医者達も口を挟まない。

「廃車になってよかったのかもな、俺はもうバイクに乗るべきじゃないのかもしれない」

 ワタルが、意味の分からないことを言った。
 コイツにはバイクしかないのだ。
 何があったのかは知らないが、ある日から急に無気力になったワタルが、バイクに興味を持ち始めてからは活き活きとするようになったのだ。
 それから、本当にバイクバカとしか言えない様な、こいつからバイクを取ったら何が残る?といわれても、答えられない、そんな奴なのだ。
 彼女作る気ねーの?と聞けば、人間にはエンジンがついてないじゃないか、なんて頭の悪い返事を返す、そのワタルが、なんといった?
 俺はコイツに借りがある。
 だから、コイツをバイクに乗せてやらなければならないのだ。
 多分、コイツからバイクを取ったら、ただの死体しか残らない。そんな気がするのだ。

「偽善者ぶるなよ」
 気付くと、俺は呟いていた。
「は・・・・・・?」
「今更偽善者ぶるな、って言ったんだよ。」
「なんだよ、偽善者って。俺はダチに大怪我させちまったんだぜ?当然だろ」
「当然なら、なんで先に自分のバイクの心配してんだよ?そんな奴が今更善人ぶったって、地獄行きはかわんねーんだよ」
 俺のあんまりな言い分に、ワタルも何も言い返せないし、医者ですら何か口を挟もうとしていた。
 しかし、一緒についてきた受付の人が止めてくれた。受付の人グッジョブ。
「お前は死ぬまでバイクに乗ってろ。つーか人をチームに誘っておいて、先に下りるとかありえねー。死ぬまで走る、それが俺らだろ」
「りょっち・・・・・・」
 そこまで言ったところで、エレベーターが到着し、ワタルはエレベーターの中に運ばれた。
 閉まる間際、俺は親指を立てて、そのまま下に向けて『地獄へ行け』のジェスチャーをしながら、もう一声だけかけた。
「死ぬまでバイクに乗って、そのまま地獄に行けよ。『俺たち』の最後のツーリングの目的地はそこだ」
 聞こえたのか、麻酔で上手く動かない体を無理やり動かし、ワタルも同じジェスチャーを返してきた。
 恩人を裏切ろうとした俺、友人よりもバイクを取ろうとしたワタル。
 共に地獄行きなら、一緒にバイクに跨ってツーリング気分で行けば、地獄もそこまで悪いもんじゃないかもしれない。
 そんな感傷に浸っていたら、受付の人がニヤニヤしてこっちを見ていた。
「君、やるじゃん」
「ど、ども」
 は、恥ずかしい!今思い出すと俺いますっごい恥ずかしいコト言ってた!!アッー!
「フフフ、マックで話は聞いていたわ。一緒に地獄にツーリングに行けるといいわね」
 クスクスと笑いながら、受付の人はトテトテ歩いていってしまった。
 やべー!やらかしたー!しかも受付の人良く見たら可愛かったから余計恥ずかしいわチクショウ!
 そんなことを思いながら受付に戻ると、ユウがなんか苦しそうな顔してプルプルしてた。
「どうした?」
「ぎ・・・・・・ぎ・・・・・・」
「なんぞ、はだしのゲンみたいな擬音だして」
「ギップリャ!」
 ・・・・・・またどこでそんなネタ仕入れて来やがった。
「いや、グ○グ○は元々読んでたって」
 だから心を読むのをやめろっつーの。
「まぁ、和んだでしょ?」
 正直、ギャグで勝手に心を読むのを止めて欲しい―――だって
「まぁ、ありがとうよ」
 こうして、素直に感謝するのすら省きたくなってしまうではないか。
 俺がそう感謝すると、ユウはきょとんとした顔をした後、少し頬を赤らめてそっぽを向いていった。
「べ、別にアンタの為にやったわけじゃないんだからね!ご飯係がしょぼくれてご飯が出てこないのが嫌なだけなんだから!」
「コラ、建前が本音になってる。それじゃツンデレじゃないだろ」
 あーだこーだと騒ぎならがら、結局いつものようにして俺たちは部屋へ戻るのであった。

       

表紙

鮭王 [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha