Neetel Inside 文芸新都
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夏、過ぎ去ってから
第十三話『The end of daily life.:佐藤啓太』

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「えー、これにより戦後の日本は国民総生産、つまりはGNPが著しく上昇することとなった。現在では世界第二位だな。でー、最近ではGDP、国内総生産。GNI、国民総所得も――」
 社会科の教諭――古雅原先生だな――がやる気のなさそうに授業を続ける中、俺は窓の向こう、どんよりとした空を見つめる。昨日までの暑苦しさはどこへ消えたのか、肌寒さをも感じるほどの外。天気予報では晴れと言っていたのに、この様子だと昼には雨が降りそうだ。
 一番後ろ、窓際の席。余所見や考え事をするには打ってつけのこの席は、かなり重宝している。……教諭一人の声が響き、鉛筆の音がカリカリと鳴る教室。独特な空気を醸し出している中で、俺はどうしようもなく悩んでいた。
 それというのも全ては昨日。杉林さんの主張や本堂とのいざこざなど、一日に起こるにしてはやけに重量過多だった。この二つの内、一つだけならばゆっくりと考えて、“今まで通り”にすることも出来るだろう。しかし、二つの事、二人――三島も入れるのならば三人か――ともなると話は別だ。俺の頭も体も一つしかない。どうしたって放課後、裁縫部の活動をする際に“みんな笑顔で”というわけにはいかないだろう。ただでさえ裁縫部自体があやふやなのに、これ以上の不確定要素が増えるだなんて。さすがにどうしようもない。
 カツカツ。黒板に日本経済に関しての事柄が書かれる。……教科書さえ読んでおけば平均点は取れるので、今日はノートなんて後回しだ。考えなければいけない。今日一日、放課後までに出来ることを。
 極論で言ってしまえば、全てを無視する事は可能だ。俺への風当たりが悪くなるのはこの一年と半年の間で慣れている。“目的”が無ければそれが一番楽な方法だろう。だが、“目的”がある以上、それに直結する佐藤への影響は極力抑えなければいけない。今際の際というわけでもないのに、佐藤の病気が知られてしまうのは避けなければ。佐藤は“今まで通り”の生活を送るためにわざわざ寿命を縮めてまで学校に来ているんだからな。
 考えよう。まずは杉林さんのことからだ。佐藤が杉林さんに好意を持っているのは第一の前提。これによって杉林さんへの解決案である“要求をのむ”は無し。かと言って断れば、本題である裁縫部に支障を来たすかもしれない。……イエスかノーで解決できるのなら苦労はしないんだよな。
 右斜め前、黙々とノートに黒板の内容を写している杉林さんを見る。……頼られるのは俺も人間だし、嫌というわけじゃない。杉林さんは可愛いし、少しばかり鼻も高くなるというもんだ。
 右横、ちょうど反対側の席に座る佐藤を見る。一番の理想は、杉林さんが依存する対象を佐藤にするということ。これならば嫌な思いをする人は誰もいない。……そうするにはどうしたらいい。
 否定する事は簡単だ。答えを考えなくていいのだから。頭に浮かんだ案は一つだけ、不確定過ぎるが、佐藤の病気を杉林さんに話し同情を誘い、佐藤の傍にいて欲しいということを促す。病気のことを話し、杉林さんに少しでも反応があれば何とかできそうだが、そこで無視を決め込まれたり“関係無い”と言われてしまえば終わり。……佐藤には“本堂には言わないでくれ”としか言われていない。屁理屈になってしまうが、これしかない。
 杉林さんの件が一段落したところで、俺は目の前で黙々とノートを写している本堂を見る。……そうなんだよなあ、席、近いんだよなあ。
 本堂は昨日あんなに怒りまくっていたくせに、今朝は顔を合わしても何も言ってこなかった。俺が立ち去った後に何かあったのか、それとも単に無視しているだけなのか。どっちかはわからないが、扱いにくいことこの上ない。……そう、本堂は佐藤に関することには感情的になるが、基本は頭がいい。行動も嫌になるほど理論然としたもので、“メガネ”のあだ名は伊達じゃないといった風だ。だからこそ、俺が少し大人な態度で話を持ち出せば、本堂も効率の悪い事はしたくないだろう、嫌々ながらも和解まで持ち込めるはずだ。佐藤の為、とでも言えば嫌でも表面上は仲良く出来るだろう。
 ……こうまで考えても、結局は運任せになってしまった。所詮俺はこの程度でしかない。でも、“この程度”で考え得ることは全て考えたつもりだ。


『The end of daily life.:佐藤啓太』


 午前最後の授業が終わり、教室の中が騒がしく席を立つ音で包まれる。ここからが頑張らなければいけないところだと一人で意気込んでいると、俺の傍に立つ奴が一人。
「……武田君は今日もコンビニかお?」
「あ、ああ」
 内藤だった。
 見れば例の如く自分の弁当箱を持っている。そうか、またもコイツは俺に対して充実した昼食事情を自慢するつもりなんだな。……ん? よく見れば少し大きめの弁当がもう一つある。と、その二つ目の弁当箱が急に俺の目の前へ差し出された。
「だったら、これ食べてみて欲しいんだお!」
「……これは?」
「みてわからないのかお。お弁当だお」
「……うん」
「中身はボクのと一緒だけど、心はこもってるお! お口に合えば嬉しいんだお!」
 そんなことを言いながら、内藤は恥ずかしそうにどこかへ走り去ってしまった。……なんで内藤から弁当を恵んでもらわなければいけないんだ。俺は疑問しか浮かばない頭で、一応弁当の中身を確認する。
 ――タコさんウィンナー、半熟を保っている玉子焼き、ナポリタン、小さめのグラタン、ほうれん草のおひたし、カットトマト、玉子ふりかけが眩しい白米。
 な、なんて気合の入れようなんだ……とてもじゃないが、これを男からもらっただなんて認めたくない。俺はぞわぞわしたものを感じながら、弁当のフタを閉める。そこで気付いた。……内藤って男だったっけ? 理解不能な顔で誤魔化されていたが、制服は女子の物を着ていたような……いや、学ランだった気もする。いやしかし、恥ずかしげに走り去っていく姿はまるで萌えキャラ然としていたではないか。
 内藤が真のヒロインだったのか……。
「はっ!」
 いかんいかん、内藤という存在に対してゲシュタルト崩壊を起こしかけた。気を取り直し、ありがたく弁当を頂戴して教室を出る。
 さて、どうするか。いつも通りゆっくりと廊下を歩きながら、視線を右に。廊下に設けられた大きなガラス窓の向こうは、水滴が邪魔してよく見えない。……雨が降っている。
 俺の予定では昨日と同じく屋上に行くつもりだった。杉林さんは屋上に来るという、不可解ながらも確信に到る何かがあったからだ。だが、さすがに雨が降っていてはその確信も露と消える。生憎とこの学校の屋上は強化プラスチック張りなどという快適な場所ではない。雨が降ればもちろん濡れて、雪が降れば立ち入り禁止。至極当然の屋上。……まあ、普通に考えて、今日は屋上じゃないだろうな。
 今になって授業が終わった後、すぐに追いかけなかったことを悔やむ。元々他人の行動なんて気にしなかった手前、まさかこんなところで仇になるとは……いやはや、今は考えていても始まらない。とにかく探さないと。
 俺はひとまず自分のクラスに戻り、談笑しているクラスメイトに杉林さんの行方を聞く。
「杉林さん、どこに行ったかわかるか?」
「……」
 瞬間、さっきまで柔らかかった空気が凝固する。机を向け合って弁当を食べていた二人組みの女子は箸を止め、訝しげな顔で俺を見る。
 そうか、俺はこんなことも忘れていたのか。
 急に居た堪れなくなった俺は、一言“ごめん”と残し、教室から逃げるように立ち去る。
「くそが」
 自然と自分の口から漏れ出た言葉に、自分で嫌になる。そんな悪循環に気付いていても、俺はあの空気から逃げ切ることで精一杯だった。
 佐藤達と“会話”出来るようになったと言っても、他の奴から見た俺は以前と変わっていない。変わるはずがない。そんなことにも気付かないくらい、俺は舞い上がっていたのか。
 一瞬、杉林さんのことを忘れてしまう。……ダメだ、早く探さないと。


「――そういえば杉林さんは屋上にいたね――」


 そうだったっけ。……いや、何を納得しているんだ、俺は。周りを見渡すが、人の気配は感じられない。妙に静か過ぎる。
 ……多分、俺は混乱しているのだろう。妙に耳に残っている幻聴まがいの音を無視しながら、よく考える。多少の常識を持つ人ならば、雨に降られながら昼食を摂るなんて選択肢は出るはずが無いだろう?
 ほら、今も雨はガラス窓を濡らして――。
「……なん、で」
 見れば、外はこれでもかと言わんばかりに晴れ渡っていた。先程までガラス窓を濡らしていた水滴は、後も残さず消え去っている。まるで俺がおかしいのだと言いくるめられたような、そんな感じ。
 わけがわからない。混乱していた頭が一周して、逆に冷静になってしまった。……だが、今はこの幻聴と幻覚に感謝するしかない。今しがた聞き、見たものを完全に信じるわけではないが、現実として外は晴れている。
 屋上へ行こう。



 天気予報に慌てて合わせたような空。遠くに入道雲が見える夏らしいこの場所、そんな場所に、彼女は“いつも通り”立っていた。長い栗色の髪を揺らしながら、彼女はフェンスの向こう側を見ているようだ。
 背後で特有の金属音を鳴らしながら、扉が閉まる。……彼女は振り返らない。気付いているのか気付いていないのか、俺にはわからない。だから声をかける。
「杉林さん、“やっぱり”ここにいたのか」
 遠慮がちとは言えない、この雰囲気に対して配慮の無い言葉。それでも彼女は振り返り、別段嫌な顔を向けるわけでもなく。
 昨日の一件を思い出しているのか、既に興味がないのか。数瞬の沈黙が過ぎ去った後に、フェンスに指をかけたまま俺を見据え、口を開く。
「どうして来たんですか、武田さん」
「どうしてもこうしても、昨日の答えをまだ言ってない。……イエスでもノーでもないことが、俺の答えだ」
 日差しとは正反対の涼しげな風が二人を撫でる。
 杉林さんは答えない。まるで時間そのものが遅れているような錯覚。俺は若干のイライラを感じながらも返事を待つ。俺が返事をしたのに、返事を待つというのも変な話だ。……まあ、“イエスでもノーでもない”なんて、返事とは言えないかもしれないが。
 緩々と時間が過ぎる。無駄な時間は浪費できない。これは無駄な時間なのだろうか。結果を求める際の過程に含まれるとはいえ、焦燥感が募る。そんな沈黙に俺は負けてしまい、杉林さんの答えを待たずにまくしたてる。
「確かに俺は誰かに依存することをすすめた。けど、俺にはその対象に成ることは出来ない。助言した本人が言うのもアレだが、俺はそういう深い関係は嫌なんだ」
「……そう、ですか」
 理由を聞いて納得したのか、杉林さんは若干陰りのある声で返答した。……まだこれで終わりじゃない。
「なあ、杉林さん。今日は裁縫部の活動があるっての、聞いてるか?」
「そういえば、そうでしたね」
「佐藤のことは知ってるよな。……出来れば、アイツに“依存”してやって欲しいんだ」
 俺の言葉を最後まで聞いた杉林さんは、その最後の最後で理解できない言葉があったからなのだろう、“何故”という表情で俺を見つめる。
 ここからは慎重に話さなければならない。たぶん、下手をすれば俺は“好かれてしまう”。上手くいくことへの条件として、俺は嫌われなければならないのだから。
「今から聞くことは他の奴には言うなよ。それと言うのも、佐藤の奴、もう余命が一ヶ月も無いんだ」
「え?」
 今まで現実感の無い、呆けた表情を浮かべていた杉林さんが“初めて”驚く。
「だってのに笑えるだろ、アイツ学校に来てるんだぜ」
 我ながら白々しい。過剰なボディランゲージを交えながら、俺はわざとらしく佐藤を貶す。
 だが、杉林さんは黙っているだけだ。……もっと必要か。
「しかも裁縫部なんて作ってさ。その理由も笑えて、杉林さんに好かれようと必死に――」
「……っ!」
 ぱぁんと。少し間の抜けた、それでいて乾いた音が頭に響いた。遅れてくる痛みと、生理反応で溢れる涙。……杉林さんの平手が震えながら宙を舞っていた。
 俺は痛みで熱くなる頬を押さえながら、杉林さんを見つめる。対する向こうは、なんともまあ、男の俺でも恐いと思えるくらいに怒りの表情を浮かべていた。普段は何も考えてないような顔なのに、怒る時はやっぱり怒るんだな、なんて考えてしまう。
「見損ないました、武田さん。“やっぱり”クラスのみんなが言うように、最低なんですね」
 そう言って、杉林さんは足早に屋上から走り去っていった。緊張の糸が切れたように、俺は一つのことが終わったのだと確認する。
 佐藤と杉林さんを強引にくっ付けるには、杉林さんが対象としている俺自身を嫌うように仕向ければいい。だが、それだけでは佐藤に向かうことはないだろう。そこに“余命一ヶ月”という要素が絡むことで、彼女の、佐藤に対する関心を高める。あとは同じ部活動をやる仲だ、勝手にくっ付くだろう。これで終わったんだ。
 一つの終わりを確認したところで、最後に放たれた言葉が延々と頭の中を回っていることに気付く。……“やっぱり”、か。
 杉林さんと佐藤をくっ付けることには成功したんだろう。それは喜ぶべきことだと思う。しかし、懸念すべき事柄が減ったというのに、俺の心は軽くならない。……考えても無駄なことだと瞬時に悟った俺は、無性に残酷なほど青い空を見たくなり、屋上の中心で倒れるように仰向けになる。
 俺の気持ちと相反するように青すぎる空には、傷をつけるように一筋の飛行機雲。……わからない。急に自分のやっていること、やりたいことがわからなくなり、無気力感に支配される。正しい正しくないで二元化出来るほど簡単じゃないのはわかるけど、俺のやったことは正しいのだと信じたくなる。
 何かにすがりつきたい気持ちを抑え、俺は勢いをつけながら立ち上がる。そうだ、まだ終わっていない。今日という日を終わらせてから、ゆっくりこの事を考えればいい。
 ――下を見れば妙に伸びている影があり、影を追えばいつもの女の子。視界の端に住み始めたのは、はて、いつ頃からだったか。



 キーンコーン、キーンコーンと。いままでに何度聞いたかわからない、少し間の抜けたチャイムが教室に鳴り響く。今日最後の授業が終わりを告げる。
 担任はやる気の無さそうに教壇にある資料をまとめると、これまた気だるそうな足取りで教室から出て行った。それと同時に、教室が一気に騒がしくなる。
「武田クン、今日裁縫部あるけど、来る?」
 椅子を引きずる音で耳を塞ぎたくなる中、それに紛れて三島さんの声が聞こえてきた。声がしたほうを向くと、気まずそうな顔をしている三島さんが立っている。
 俺は一瞬考え、昨日あったことを思い出す。そういえば本堂のことはまだ何も解決していなかったな。思い出し、俺は少し考えた後に返事をする。
「ちょっと本堂と話があるから、佐藤と杉林さん、二人をつれて先に行っててよ」
「昨日のこと?」
「まあ、そんなところだ。俺は本堂と違って殴る蹴るは好きじゃないから、そんな大事にはならないさ。文字通り、ちょっと話すだけ」
「ならいいんだけど。……昨日はごめんね。わたしが興味本位で本堂君をそそのかしちゃったから」
 少しの間を置いて、三島が俺に謝ってきた。確かに原因は三島にあるのだろうけど、別に謝るほどのことじゃない。どっちみち、“最後”にはわかることなんだし。
 俺は別にいいよと軽く流し、先に行くことを促した。三島はまだ昨日のことを引きずっているようだが、まあ、三島だし大丈夫だろう。教室から出てゆく三島を見届け、まだ鞄に教科書を入れている本堂を確認。
 放課後とは言っても、まだ教室にはクラスメイトの姿も多い。ここで話すようなことじゃないよな。……椅子から立ち上がり、それとなく本堂に近付く。
「よお」
「……」
 案の定無視か。
「佐藤のことで話があるから、屋上に来てくれ」
「佐藤の?」
「ああ」
 やはりというかなんというか、“佐藤”が絡むだけで反応する本堂。だが、反応さえあればあとはこっちのものだ。
「先に行ってるから、さっさと来いよ」
 本堂の返事を待たずに教室を出る。そのまま気持ち早めに足を動かし、屋上へ向かう。ここまでは予定通り。本堂に限って、佐藤のことをちらつかせているのに来ないというのはありえない。問題は話の内容、どのようにして納得させるか。
 屋上の扉を開く。夏だからだろう、依然として赤らむことのない真っ青な空が俺を出迎える。……さて、考えよう。このタイミングで病気のことを話してしまうのはまだ早い。かと言って、それ以外に納得させる理由があるかと言われれば、ああ、無いに決まっている。ではどうするのか。問題点は、佐藤が気兼ねなく楽しめる状況を用意するということ。事、俺と本堂に関しては佐藤も目ざとく気がついてくる。些細な“ひび”でも、気にしてしまうだろう。
 建前だけでも仲良くするというのが結果。そこに到るまでの過程を今考えなければならない。
 ぎい、と。背後で扉の開く音が聞こえ、振り返る。目論見通り、そこには不機嫌そうな顔をした本堂が立っていた。何も言わずに近付いてくる本堂に牽制するように、俺は口を開く。
「昨日殴られた事はもう忘れた。だから本堂、お前も忘れろ」
「やはり昨日の一件か。……わざわざこんな所に呼び出したのだ、納得のいく言葉をもらえなければ気が済まんぞ」
 “忘れろ”という部分を意図的に無視したのだろう。どうやら向こうも話すことはわかっているようで、ストレートに聞いてくる。
 俺はそう焦るなと手で制止し、ゆっくりと息を吐く。……考えがまとまっていないが、さて、どうするか。
「昨日言われた言葉を借りるのならば、お前が聞きたいのは“俺が佐藤のなんなのか”、ということだよな」
「その問いは今も変わらん」
「なら答えは簡単だ。お前は納得しないかもしれないが、俺にとって佐藤は幼馴染に近く、友達にも到っていないという関係に過ぎない」
「幼馴染、か」
「そうは言っても小学校の頃以来会うことは無かったし、大した関係じゃないんだがな。……それで、俺が意図するしない関係無しに、佐藤から俺に近付いてきたんだよ」
 一呼吸。
「……確かに本堂、お前の言う通り、最近になって俺と佐藤はよく話す仲になったよ。けど、それも佐藤からやっていることだ。同じクラスのお前ならわかると思うが、俺はクラスの奴らからあまりいい目で見られていない。それを佐藤が“不憫”に思ったらしくてね」
 不憫。屋上で佐藤が病気のことを告白した際、佐藤はそんな目で俺を見ていた。それがたまらなく嫌で、俺は一度佐藤を拒絶したんだ。……今でもそれは変わらない。俺は自分のことを一度でも不憫だとは思ったことが無いからだ。俺にしてみれば、わけもわからない内に勝手に同情されたようなもの。気分のいいものではない。
 それでも俺が佐藤を受け入れたのは、皮肉なことに俺も佐藤に“同情”してしまったから。そう考えると、俺に対しての同情も納得は出来ないが理解は出来る。こういうものなんだな、と。
「それが答えなのだな」
「ああ、俺が言えることはこれで全部だ。お前が俺を嫌うことは別に構わないけど、それを佐藤の前でやられるのは困る。今以上に佐藤に近付かれるのは俺としても嫌だからな」
「……わかった。安心しろ、佐藤の前ではこんな失態を晒すつもりはない。今まで以上に、お前を嫌いになったがな」
 そう言って、本堂は背を向ける。俺はそんな本堂になにを言うわけでもなく、同じくなにも言わずに屋上から立ち去る本堂を、ただ見つめていた。





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