6th.Match game1 《いざ! 星和市長杯》

「今日と明日は試合形式の練習を行う。AチームとBチームの6ペアは総当たり戦。CチームとDチームは同じく総当たり戦だが成績順に昇格・降格を決めるからな。」
 午前の練習が終わり、休憩を挟んで午後からは実戦形式の練習となった。
 俺は宮奥さんとペアを組むことになった。
 …………。
 何かそこはかとなくフラグが立ってる臭いがするが、努めて意識しないようにしよう。
「よっし渡瀬ちゃん、頑張っていきまっしょ~。」
「はいっ。ヨロシクお願いします!」
「ん。じゃあとりあえず、相手のセカンドサーブの時、サイン出してね。レシーブする方向を決めたらさ、左からグー・チョキ・パーって感じで。それに合わせて動くからさ。」
「了解です。」
「後は試合中にお互いの連携を確かめる感じでいこっかね。」 
 俺たちが一通り作戦を立てたところで、
「1番コート、永野・岩崎ペアと渡瀬・宮奥ペアは試合を行ってください。2番コート、松木薗・内門ペアと坂元・東ペアは……。」
 マネージャーからコールがかかった。
 コートに入る。 
 ネットを挟んで、目の前にはキャプテンと副キャプテンが立っている。
 すごい雰囲気だ。何とも強そうなオーラを感じる。
「1番コートは私がみるよ。本番のつもりでしっかりやんな。3ゲームで行くから、うかうかしてたらあっという間に終わっちゃうからね。じゃ、礼!」
「「よろしくお願いします!」」
 トスの結果、サーブからになった。
 久しぶりの実戦、しかも相手は星和で一番強いペアだ。
 初めて高校のレベルを実感する。
「3ゲームマッチ、プレイ!」
 先生の合図で、俺はボールを高くトスした。

 試合は、相手のペースで進んだ。
 永野さんの打球は正確で、かつバックライン際に深く返球してくるためとても打ちづらい。
 甘くなるとやられてしまう。
 そして、岩崎さんがこれまた厄介な存在だった。
 ポジション取りがすごくうまいのだ。
 永野さんの打球コースにさっと対応して動き、俺の返球を逃さずボレーしようとしてくる。
 俺はリズムを乱してしまいミスを重ね、第1ゲームを2-4で落としてしまった。
「やっぱ強いね。でも渡瀬ちゃんしっかり打ててるから、もっと攻撃的に行こう。」
 コートチェンジしながら、宮奥さんが励ましてくれた。
 一緒にプレーしてわかったが、宮奥さんは試合に入ると集中力が一気に高まる。
 前衛だが、ストローク力は後衛になんら引けをとらないし、読みも鋭い。
 ゲンキと一緒に試合してるみたいに違和感無くプレーできている。
 よし、このままじゃ絶対に終わらせないぞ。
 1ゲーム失ったが、俺は落ち着いていた。
 
 第2ゲームが始まった。
 永野さんはファーストサーブをネットにかけてフォルト。
 (センターに深く打ちます!)
 宮奥さんにチョキのサインを出す。
 セカンドサーブが来た。
「ハイっ!!」
 声を出して思いきり振り切ると、ボールは狙い通りコートの中央へ。
 相手は一瞬どちらが返球するか迷ったみたいで、岩崎さんが苦し紛れにロブをあげる。
「うりゃっ!!!」
 あらかじめややネットから後ろに構えていた宮奥さんが、それをスマッシュ。
 バッチリ決まった!
「よっしゃー!」
 先輩とハイタッチ。
 二人の連携でポイントを取り、こうして喜びを分かち合えるのもテニスの醍醐味だ。
 試合はその後デュースまで縺れたが、俺たちは惜しくもセットを失い試合が終わった。
「ゲームカウント2-0で、永野・岩崎ペアの勝ちです!」
「「ありがとうございました!」」
 試合終了後、先生は改善点を指摘してくれた。
「渡瀬くんはちょっと前衛を意識しすぎだね。君はボールに力もあるんだし、もっと後衛とラリーしていいわ。前衛を狙う姿勢は悪くないけど、まずはじっくり打ち合いなさい。」
「はい!」
「宮奥くん、期待の新人はいかがでしたか?」
「渡瀬ちゃんは上級生相手でも全然物怖じしてなくて、組みやすかったよ。それからひとつひとつのボールにこうしたい、って意図がちゃんと伝わってきて、動きやすかったしね。」
 そう言って、宮奥さんは親指を立ててくれた。
「よし。後はじゃんじゃん試合してもっとお互いの連携を高めること!」
「「分かりました!」」
 その後、合計5試合を一気に行った。
 俺たちは鬼木さん・江副さんペアにファイナルゲームのデュースまで粘ったが破れ、残りの試合に勝って3勝2敗だった。
 まだサーブに安定感が無かったが、スタミナが続くようになったことでショットの安定感はグッと増した気がする。先輩たち相手にも十分打ち合えて、自信も少しついた。
 よし、手ごたえは悪くないぞ。
 明日もガンガン打ちまくって、そして試合で大暴れだ!
 そう意気込みながら、俺は日が落ちて暗くなったコートにブラシをかけていた。

 次の日も、同じように試合形式の練習をこなした。
 昨日より宮奥さんの動きにも慣れてきて、先輩の動きの意味が分かってきた。
 向こうも俺の動いてほしいポイントを理解してくれてきたみたいで、息の合ったプレイも何本かできるようになった。今日はキャプテンペアから1ゲームとれたし、鬼木さんたちには宮奥さんが大爆発して勝つことができた。
「明日は星和運動公園コートに7時集合。組み合わせ次第では8時台に試合がある可能性もあるから、遅刻しないようにね。それから……。」
 帰りに、先生が明日の注意事項を伝えている。
 うわー、今からワクワクだ。
 試合は緊張するけど、やっぱ楽しいもんなー。
 しかも運動公園は芝のコートだし♪ 芝イェーッ!!!
 そんな妄想に俺がひとりニヤニヤしていると、
「コラ! ちゃんと聞いてるか? 渡瀬くん、ちょっと今私の言ったことリピートして。」
 やべ! 先生に目ざとく見つかってしまった。
「えー……、明日は絶対優勝してね、とか?」
「……バカ!」
 やっちゃいました。
 みんな大笑いしてます。
「まー、間違っちゃいないわね。とにかく、皆明日は自分の力を精一杯出しなさい。団体戦は皆で応援して、個人戦は全員出るから自分の試合まで時間が空いてる人が、出てる人の応援にまわるようにね!女子も同じ時間だから、お互いにしっかり応援しなさいよ!」
「「「ハイっ!!!!」」」
 恵姉の応援もちゃんとしよう。
 助けてもらってばっかだし、自分の練習休んでまで看病してもらったんだから。
 俺は女子の方に目をやった。
 恵姉は先生の話を聞いていたが、俺に気づいてニコっと笑って、小さくピースした。
 よし、とにかく明日は完全燃焼だ!!!!!
 茜色の空に負けないくらい、俺の心は熱くたぎっていた。

 
 そしていよいよ星和市長杯ソフトテニス大会当日を迎えるに至った!
 希さんに送ってもらい俺と恵姉が運動公園コートに到着すると、もういくつか他の学校の連中も来ていて、辺りはワイワイと活気づいていた。
「いつも思うんだけどさ、他校の連中ってみんな巧そうに見えるんだよなー。」 
「そんなの、戦ってみないコトには相手の実力なんてわかんないでしょ。いちいち気にしててもしょうがないって。」
「そりゃそうなんだけどさ……。」
「余計なこと考える暇があったら、足引っ張らないようにさっさとアップしちゃいな!」
「へいへーい。」
 恵姉に辛口チェックを受けていると、先に着いていたゲンキがこっちに駆け寄ってきた。
「おはようございます恵さん!! 今日は頑張ってください!」
「ありがと。ゲンキくんも頑張ってね。」
「あ、ありがとうございますっ!!! もー死ぬまでガンバります! ってか死にます!」
 死んだらダメだろ。
 っつーか、一応俺も隣にいるんだけど……ムシっすか……。
「こら! なんか俺にもエールよこせ!」
「あ? いたのか? コーイチは勝手に試合してればいーの。で、恵さんは一体どんなタイプの男性がお好みで……。」
 オイ、つめてーよ元相方。
 などと俺たちがバカをやっていると、
「こっちですよー!」
 とマネージャーが集合場所を案内してくれた。
「おはよう渡瀬。もう運営本部前にトーナメント表が出ているぞ。幸田も見てくるといい。」
「「ハイ!」」
 キャプテンに勧められ、俺たちは本部前に向かった。
 本部前は他校の生徒で埋め尽くされていて、すぐに表の場所は見つかった。
「おい、あったぞ!」
 ゲンキが指差していた場所は、第1シードのすぐ傍だった。
「ゲンキ、この城西高って強いのか?」
「この辺では毎年優勝候補だってよ。全国からエリートを集めてるらしいぜ。」
 うわっ、マジか。
 星和が順調に勝ち上がれば、ベスト8入りをかけて争うことになる。
「まずは城西戦まで勝ち上がることが至上命題ってことか。」
「だな。頑張れよ、コーイチは俺たち1年の代表だかんな!」
「オウっ!」
 そう言って、俺たちはいつものように握りこぶしをゴツっと合わせてエールを送りあった。 

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「これから、星和対掛川北の試合を始めます!」
「「「お願いしまーす!!」」」
 1回戦が始まりました。
 1番手は永野・岩崎ペア。うちの看板ペアです。
 私はベンチで公式戦初めてのジャッジペーパーをつけました。
 相手校が初心者の方の多いチームだったので、先輩たちは苦しむ場面も無くゲームを進め、ストレート勝ちしました。
 2番手の鬼木・江副ペアも順当に勝って、いよいよ渡瀬君の出番がやってきました。
 ちなみに今大会は1回戦は勝敗に関係なく3ペアとも試合を行います。2回戦からは2ペア続けて勝った時点で試合終了になります。
 ……誰に喋ったかはさておきまして。
 えーっと、渡瀬君たちはというと……。
 うん、とても順調な試合運びでしたー!
 やっぱり渡瀬君のフォームはとても綺麗で、ラケットの軌道が他の人とまるで違いました。
 宮奥さんとの連携も良くなっていて、最初の頃のぎこちなさが大分改善されていたし。
 相手との力の差が開いていたので、プレッシャーのかかる場面の動きが見れなかったのがちょっと不安ですけど、1回戦は上々の勝ち上がりでした。
「よしっ、2回戦進出!」
「マネージャー、次からが本番だから、応援よろしくねー!」
 私が小さくガッツポーズをしたのをチェックしていたのか、渡瀬君と宮奥さんは笑ってそういうと私を真似てブンブン! とガッツポーズの仕草をやってます……。
「もう、恥ずかしいから真似しないでくださいよ~!」
「あっははは! そうださゆりっちー、女子は今試合やってるの?」
「えっと……、あ! これからです、宮奥さん。」
「よっしゃ、じゃ見に行きますか。渡瀬ちゃんも行く?」
「はいっ。」
 女子は1回戦からイキナリ強豪校となんです……。
 実力で劣っている分、皆で声を出して応援してチームの士気を上げるよう頑張らなくちゃ!
「オーイ、女子のコートは何番だっけー?」
「はーい、今案内しまーす!!」
 皆が呼んでるので、この辺で失礼しまーす。
 以上、新人マネージャー鵜飼さゆりの1回戦ショートレポートでしたっ。
 って、誰に言ってんだ私……。

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「皆良く頑張ったよ。第2シードにあと少しで勝てるってトコまで行ったんだから。まだ個人戦も残ってるんだから、反省点はそこで活かしなさい。しっかり気持ちを整理して、午後に備えるようにね。」
 坂下先生はそう締めくくると、
「でもアンタ達上手になってきてるよ。来月始めの高校総体でこの悔しさをぶつけなさい!」
 と発破をかけた。
 女子は1回戦で優勝候補の昂徳学園に1-2で惜しくも敗れてしまった。
 1-1で迎えた3ペア目、恵姉たちのペアは先にマッチポイントを握りながらも、相手に凌がれて逆転負けを喫してしまい、大番狂わせとはいかなかったのだった。
 試合後、俺は何て声を掛けようかと悩んでいると、それに気づいたのか恵姉は悔しそうな顔をしてこっちにやってきた。
「惜しかったね、後一本だったのに。めっちゃめちゃ応援したんだけど……。」
「まー何ともふがいない試合だったわ。途中まで出来過ぎだったから、ツイ舞い上がっちゃった。もー超悔しーい!」
 恵姉は唇を噛んだまま試合の終わったコートをしばらくじいっと見つめていたが、
「でもまだ個人戦もあるし、落ち込んじゃいられないわ。今日は調子イイみたいだし、絶対功より勝ち上がって見せるんだからね!!」
 と言って、こっちに振り返ってニッと笑った。
「で、アンタ体調はどうなの? 無理してないでしょうね?」
「大丈夫だって! 絶好調↑ それに”幸運のハチマキ”もあるんだし。」
 そう、達也につけてもらったこのハチマキがある。
 1試合目の直前に達也はうちの応援席にやってきて、着けてくれた。
 怪我をした左足はまだ包帯が巻かれていて痛々しく、達也は少し足を引きずっていたが、無理をおして来てくれたのだ。
「そう。じゃ、次も勝たなきゃね!」
「オフコース! 次の相手は確か鈴宮高と春日高の勝者だったな。どれ、偵察に行ってきますかね。」
 恵姉と別れ、俺は女子コートから鈴宮対春日の試合が行われている3番コートに向かった。
 コートに着くともう既に試合は始まっていて、どうやら3番手の試合らしかった。
 スコアボードはファイナルゲームを示していて、5-5と全くの互角の様子。
 こりゃ面白い場面に来れたかな、と一見物人として胸を高鳴らせていたのだが。
 鈴宮の後衛がダブルフォルトをして、5-6。
 そして最後は春日の前衛のレシーブがネットに当たってポトリと鈴宮側のコートに落ちて、何とも接戦に水を差すクライマックスとなってしまった。
「まあ何はともあれ、次は春日だね。渡瀬くん、1番手で行く?」
「えっ!?」
 後ろからイキナリ声がしたのでびっくりして振り返ると、坂下先生が立っていた。
「1番手って大事よー。もし負けたら2番手に余計なプレッシャー掛けちゃうでしょ。」
「ですよね。中学の時は1番手を任されることが多かったので、後ろに楽にプレーしてもらうためには俺たちは絶対負けちゃいけない、って思ってましたから。」
「ふむふむ。でね、私この試合本部から見てたんだけど、春日の1番手はかなりやるわよー。前衛はめちゃくちゃ背が高くて、リーチが長い。後衛はちっちゃい子なんだけど、とにかくよく動く!」
 なるほど。それは聞くからにやりづらそうな相手だこと。
 要は、俺たちを捨て駒にして残り2つで勝とうって策か。
 まあそれなら別に負けてもいいし、精神的には楽なんだけ―――。
「でも渡瀬くんたちなら面白い勝負になるかなって思って。本当よ! 先生見てみたくなっちゃった。だから、決して捨て駒じゃ無いんだからね。負けてもいいや、とか考えるなよっ。1番手なんだから、絶対に勝ちなさい。負けたら許さんぞっ!!!」
 うひゃぁ、何という鋭いご指摘だこと!
 こうして、俺は先生の思いつきで2回戦の1番手を任されてしまった。
 試合までは、おおよそ40分ほど。
「……アップしますかね。」
 俺は1番手を任されてしまった不安と、先生に期待してもらったことへの嬉しさが入り混じった頭のまま、ゆっくりと壁打ち場に向かった。