Neetel Inside 文芸新都
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 恵姉が風呂を済ませる頃には無事に料理も出来上がりを見ることができ、悔しがる彼女を尻目に安堵のため息をつける幸せに俺はひたれていた。草原先輩はと言うと、結局サラダをわずか5分ほどで仕上げてみせて特級厨師ぶりをアピールし、その手馴れた包丁さばきにはただただ感心することばかりであった。そうそう、コップやらお皿やらを並べていただいた寺岡先輩にも感謝感謝、と。
 夕食は俺の入浴の後行われ、寺岡先輩の挨拶にはじまり女性陣のおかわり攻めにも遭いながら、しかしとても楽しくすごす事ができた。味のほうもなんとかご納得をいただけた様で、ほっと胸を撫で下ろす思いだった。その後腹ごなしにベランダで開催された、少し早めのプチ花火大会も大好評の元に行われ、寺岡先輩に点火した花火を向けられ追い掛け回されたりもしたが、なかなか充実した時間をすごす事ができた。
 しかし。しかしだ。幸せはそう長く続きゃしねえとはよく言ったもので。
「あー、そこその定理使うんだ。なるほどねえ」
「多分だけどね。いづみちゃんの解き方も合ってると思うけど、こっちの方が早いかも」
「うーん、さっすが図書委員にしてクラス5本の指に入る女傑。よっ、清夏ちゃん!」
「いづみ、その囃しヘタすぎ」
「あは、こりゃ失礼」
「あははっ」
 再び始まってしまった勉強会。しかも会場は再び俺の部屋となれば、勿論参加は強制だ。新出漢字の書き取りをやりながら、ひょっこり顔を出した心地よい眠気とのリターンマッチに俺は追われていた。とにかく眠い。隣にブラックコーヒーを置いてはいるものの、期待していた睡魔撃退効果は一向に現れてきてはくれない。
「功、起きてる?」
 それに、時折こうやって恵姉に安否の確認をされるので、否が応でも反応しなくてはならない。前門の睡魔、後門の鬼姉とはよく出来たフレーズだよまったく。
「なんとか」
「とにかくどこかにゴールを決めて、そこまでやったら寝ていいから。でもまだ始めて30分しか経ってないんだから、しっかりしな」
「ふぁ」
 小言を言われてももう受け入れるだけの意識がない。返事すら億劫だ。今日は範囲分の書き取りを済ませて記憶したらそれでゴールにしよう。覚えられてる実感ないけど。

       

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