自室のドアを開けるその間際、自身の数秒後の未来を予想していた正にその通りに、肌に触れてくる廊下の生温かい空気は一気に俺の気持ちを悪くさせた。確か9時過ぎまで部屋には冷房が入っていたので仕方がないとは言え、1年で1番暑いこの時期、やはり廊下は絶賛リアルな真夏の熱帯夜だ。
 蒸す。後ろに半歩戻って楽園に帰りたい。と言うか、女性陣。3人とも薄手ながらよく長袖を着れるもんですね。痛みに耐えてよく頑張った感動した。あ、ノースリーブですみません。 
「ん、今何か言った?」
「えっ、や、別に。何も喋ってないですよ?」
「そう? 変ね……今何か……」
 いつの間にか下らない夢想が脳みそからあふれてしまっていたようだ。気をつけよう。 
 
 前を歩いていた先輩は恵姉の部屋の前に着くなりこちらへ振りかえった。何か言いたそうに見えたので黙って頷いて先を促す。先輩は何か考え込むように視線を宙に泳がせていたが、少しだけ間を置くとひとつ空咳を吐いて「一応聞いておくんだけどさ」と切り出した。
「なんですか?」
「うん。あのさ、功一くん。なんて言うか、こうやってある意味勝手に恵ちゃんのお部屋に入るのって初めて?」
「え? あ、いいえ。何度も入ってましたよ」
「ました?」
「ました、ですね。ぶっちゃけかなり久しぶりめです、今日」
「ふうん……そっか」
 言われて考えてみると、そうだったことに気づく。小・中学校前半のころはまだ鉛筆を使っていた。だから、1日に何回かは必ず削りにこっちに来る必要があった。一家に一台、それに年功序列とあらば、是れ即ちしょうがなかったのである。彼女が1階にいようが2階にいようが、俺は堂々と部屋に行っていた。中学校に入ってしばらくしてからは流石に思春期男女特有のアレやアレでアレなもんだったから、今のように彼女の了解を得て入室する流れに自然となっていったわけだけど。
「あ、どうぞどうぞ。汚い部屋ですが」
「ふふ。じゃあ、失礼しまーす」
 コンコンと無人のドアにノックをして、さながら学校の職員室に入室するかの風情をかもす先輩の後ろに続くと、昼間のうだるような熱気の残りを恵姉の部屋はまだ残していた。改めて夏の盛りを感じる。