Neetel Inside ニートノベル
表紙

Cyborg Neet
第八話『she's a sort of fukin sweets』

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「―――――――シッ!」




俺のすぐ目の前を、“鈍く光る銀色”が紙一重で通り過ぎてった。

「ちょ、あぶな!!」

振り向いて距離を確認する暇すら与えられない。

「男の癖に、逃げるんじゃないわよ!!」

それは、追尾弾のように何処までも追いかけてくる。

「うっせぇ、追ってくんじゃねぇ!!!!」

何処までも、何処までも、追いかけてくる。

ガンガンガン、と激しい音を立てながら猛スピードで俺は階段を駆け上がる。

その音に遅れて別の音が延々と続いていく。

「あんた何か―――、絶対に――――、認めないんだから!!!」

背後から怒声が反響して響く。

「だから――――、勝っただろうが!!」

もうマジうざい、この女。

俺は、息をきらしながらもひたすらに逃げていく。

「あれは、お遊び! 今からが、本番なの!!」


「ラリってんじゃねぇよ、くそスィーツが!」


皆さん、こんにちは。  新人です。

僕は、今マジキチな女から命を狙われています。




事の顛末を話そう。

―――――――数時間前の事である。








*****************************










――――――まぶしい

うぅ と唸る。気がつけば、眩い程の光が目の前にあった。

「―――――っ」

自身を容赦なく照らす白い光に目を細めた。

その光に何かのデジャブを感じる。

目が慣れて、ようやくぼんやりとしていた視界がハッキリとする。

「あ――――え?」

起き上がって辺りを見回す。

「・・・・・・・・・・・・・。」

色んな機材やら、部品がそこら中にあって散らばっている。

覚醒して間もないがこれだけは理解した。

「・・・・戻ってきたんだな。」

俺が数年眠ってたらしい研究室のベッドに俺は寝かされてたらしい。

――――戻ってきた?  いや、それはおかしい。

俺の家は、此処じゃない。

つか、待てよ。 今、俺の家どーなってんだ?

姉貴は、記憶上数年以上音信不通で親父は、天国に旅立っている。

親戚は、いないし・・・・。

「まぁ、此処に居ても仕方ない・・・・な。」

ベッドから立ち上がり部屋の奥にある扉へ向かう。

俺は、この先にある光景を見た事が無い為

この扉の向こうがどうなってるのかは全く分からない。

常識的に考えて、ここで大人しく待っておくのが最善なのだろう。

俺もこの年になって、迷子にはなりたくはない。

―――――――だが、俺はとりあえずこの部屋を出たかった。

何故ならば、目が覚めたらお前はもう死んでいると告げられ、

罵倒された事に怒ったら金玉を殴られて気絶させられ、

気がついたら、いきなり炎上するビルへと空から放り投げられたのだ。

その無茶苦茶な経験が俺を突き動かしていた。

―――――ここに居たら何か危険な事が降りかかる気がする!

俺は、本能が赴くままに部屋を出ることにした。

そうして扉のドアノブを握ろうとした瞬間

ガチャ、と扉が突然開かれた。

「お、おぉ?」

驚きと警戒混じりで後方へと後ずさって扉を開けた人物を見る。

「ふむ、もう体は大丈夫なのかね? 新人君」

そいつは、満面の笑みで俺の名前を口にしてきた。

「え・・・あぁ、はい。 大丈夫みたいっすけど・・」

誰だか分からないが見るからに10歳以上年上っぽい

方のようなのでとりあえず敬語を使う事にした。


「あぁ、失敬。 申し遅れたが僕は君の雇い主。
名前は、甲斐谷 涼。好きなように呼んでくれて構わない。
長い付き合いになると思うから宜しくね、新人君。」


「あっ、はい。 宜しくお願いします。
って、雇い主ってこたぁ社長さんじゃないですか!」

失礼にあたってる事なんて、お構い無しに俺は驚いた。

あの【JOAT】の社長がこんな優男だ何て事に只、驚いていた。


「ははっ、よく驚かれるよ。
さてまぁ、私も忙しい身だからパパっと用件を済ますとするよ。
えーっと、まずは・・・・・・。」





甲斐谷さんは、俺の仕事、住まい、給料 その他色々

俺が聞きたかった事の大体の事を教えてくれた。

例えば、図師家が幽霊屋敷のまま放置されている事とか、

色々な事情で俺は家に帰れない事とか、帰れない事とかとかとか。

一番最悪な事実は、定期的に俺の体をバ開発してくれちゃってる

糞女のメンテナンスを受けなきゃならない事なんだが・・・。


「え、俺の仕事って決まってないんすか?」

「うん、何でもできるって聞いたから色々やらせると思うよ。」

―――――ニートには、戻りたくないので頑張ることにしよう。


「まぁ、基本的には鈴音君と三木君との三人で
依頼が入ったら色々とやって貰う事になるかな。」

「はぁ。」

「後で二人に挨拶しに行くといい。
とりあえず、道が分からないだろうから受付に・・・・」


どうやら、俺にはこの前の時とは違って仕事仲間がいるらしい。

地味に嬉しい。 もう一人であんな所に行くのは勘弁だ。

「うん、こんな所かな。
それじゃ、僕は事務仕事があるから戻るよ。」

「あっ、はい。 わざわざどうもっしたー。」

深々とお辞儀をする。

久々にまともな人と出会えて俺は妙に嬉しかった。

「あぁ、それとだ。」

「はい?」

「初仕事、お疲れ様!」

踏み止まったかと思えばそれだけ言い残して

甲斐谷さんは、立ち去っていた。

「――――!」

何ともない一言だが、俺は心の中で二度目のガッツポーズをとった。











*************************



甲斐谷さんに言われた通り、俺はこれから一緒に

仕事をやっていく仲間に挨拶をしに行く事にした。

受付に行き、まず「鈴音」という未だ見ぬ仲間の居場所を聞く。


まぁ、会社内が広すぎて「鈴音」なる人物に出会うまで

小一時間かかった経緯は割愛しよう。


受付の人が「鈴音ちゃん」とか言ってたから

「あぁ、女の人なのね」とは思ってたが

サイボーグと一緒に仕事ができるやり手のゴリラ女

とてっきり俺は今の今まで思っていた。


「えーっと、あんたが「鈴音」さん?」


しかし、俺の予想を大いに裏切り目の前に居るのは

俺と同い年ぐらいでショートカットの少女だった。

黒いスーツの上下を纏っており、足には軍人が履くようなブーツ。

そんなごわついた印象を相手に与える服装に対しては、

顔の容姿がマッチしておらず、例えるならば

何だか少女が背伸びしてるように見える。

「はい?私が鈴音ですけど何か?」


「んっと、その、俺 図師って言うんだけど
いやまぁ、なんつーか 甲斐谷社長からあんたが
「これから一緒に仕事やってく仲になる」
って言ってったから挨拶にしにきたんだけど・・・」


―――――――やばい、小っ恥ずかしい。

そもそも俺は、社会不適合者で人との付き合いが苦手なんだ!
アイマス的に言うと、常に『バッド コミュニケーション』な
人生を歩んできた俺には辛いものがある。


そうして俺が自分の「コミュニケーション能力」に落胆していると
彼女は、ニッコリと笑ってくれた。


「ねぇ、ちょっと二人きりで話があるんだけどいいかな?」


―――――――いや、ホント これが原因で俺はニー・・・
って、えっ!? 今、なんつったよ? オイ!


「えっ、ここでじゃなくて?」

「うん、ほら こんな所じゃ邪魔が入るじゃない? だから、ね。」

ちょwwフラグ立ってるだろ、これww 



『 グ ッ ド  コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン !!』



これが、モテ期という奴なのだろうか?

いや、何ていうか色々あったけど就職もできたし万々歳だね!

輝かしい未来が俺を待っているんだ!!!

期待を胸一杯に俺は促されるままにホイホイとついていった。









*********************










「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
俺は『二人きりで話がある』とか言われてフラグ立ったww
とかwktkしてホイホイ着いて行ったら
いきなりハイキックを繰り出されていた!!!
な・・・ 何を言ってるのか  わからねーと思うが
俺も只、反射的にハイキック仕返すしかなかった・・・」


目の前に無残にも返り討ちにあった愚か者の倒れこんだ姿が見える。

「あんた・・・・やるじゃないッ!!」

愚か者 いや、鈴音さんがとてつもなく怖い笑みを浮かべながら
立ち上がって俺を睨んでいる。


ってか、何でこんな事になってるんだろう?

「えーっと、今何で門曲がった瞬間俺をキックしにいったの?」

とりあえず、訳を聞いておく。

これが、「仲間になる洗礼」だとか「誰かに言われてやってみた」
とかだったらまぁ、只のおふざけだしと納得してやらんでもない。


「生憎、私のパートーナーは決まってるの。
甲斐谷さんが、何度誰を寄越してこようが私の体術にすら
敵わない人と一緒に行動を共にする何てできない。」

おいおい、何か構えてるし。

「フシュー・・・・ッ!!!」

フシューとか言ってるし。

つか、お前 足に何か仕込んでるだろ。

さっき蹴り合った時 変な音がしたぞ。


「はぁぁああッッ!!」


俺の胸目掛けて飛び掛ってくる彼女。

字体だけじゃ、dkdkする展開なんだけどなぁ・・・。


・・・・どこで、接し方を俺は間違えたんだろう。








**********************





「――――もしもし、康平かい?」

「あぁ、今の所何も問題はないよ。 そっちは、どうだい?」

「そうか、分かった。 あ、うん? 鈴音?」


「何だ、やっぱり心配なのか?  
漸く、御前の後釜が現れたっていうのに」


「うん、まぁ 色々と手を焼く事になるだろうけどね。」

「ははは、違いない。違いない。」




***********************



「はあぁッ!!」

次々と繰り出される蹴撃の嵐

それを一つ、一つ捌いて行く。

その鋭い一撃、一撃は確かに目を見張る物なのだが

これを遥かに凌駕する蹴りの持ち主の相手を

していた経験がある為か苦も感じない。

強いて言えば、攻撃を受け続けてかれこれ数十分が

経過してる辺りに苦を俺は感じる。

――――――というか、そろそろ俺も我慢の限界だ。

「いい加減に倒れな―――ッ!?」

左方から顔面目掛けて飛んできた足を掴みそのまま後ろへと引く。

いきなりの反撃に戸惑ったのか、反応する事もできず

矮躯な少女の体が宙を浮き。


「北 斗! 剛 掌 波 ー ッ!!!」


それに合わせる様にして右掌を脇腹へと叩き込んだ。

メリメリッと鈍い音がしたと同時に、綺麗に後方へと吹っ飛んで行った。

「――――ッ!!」

コンクリの壁にそのまま叩き付けられ声にならない悲鳴をあげる。

フェミニストが見たら発狂しそうな光景である。


「ぬぅぅん、腹にも何か仕込んでいたようだが
我が北斗剛掌波の前では、無力ッ!!
俺の覇道は、何人たりとも止める事はできぬ!!!」


因みに、全スロッターに絶望を与えた奥義よ!!

つか、間違いなく 俺やり過ぎた。

「・・・・・・・・ッ!」

息をきらし、壁にもたれながら彼女は相変わらず睨んで来る。

「いや、もういい加減分かっただろ。
何だかしらねーけど体術じゃ負けないって。」

「そうみたいね・・・・敵わないわ」

おぉ!?ようやく、理解してくれたのか!

「試してたんだかしらねーけど俺も今日の事は気にしないからさ。
だから、今俺があんたに手を上げた事も大目に―――」

――――ビュオンッ!!

「は?」

右頬に何か違和感を感じる。

「ちょwwww」

触って見ると、頬から血が流れてるのが分かった。

「確かに敵わないわ。 体術じゃね・・・ッ!!」

よく見ると背後の壁に俺の右頬を裂いたと思われる

“鈍く光る銀色”が漫画みたく突き刺さっていた。

「さっきのは、お遊び。 これからが本番。」

立ち上がった彼女の手には、“鈍く光る銀色”

ペーパーナイフでもない、カッタナイフでもない、

それは、明らかに人を害するために作られた大振りのナイフ

「さぁ!!本気で殺り合いましょう!!!」

言い終わったと同時に、マジキチ女がナイフを構えて向かってくる。


「や、やるわけねぇだろが!!!」


サイボーグ宜しくの脚力で全速力で逃げる俺

脇目もふらず考えも無しに行き着いた先のドアを
躊躇う事なく開け、中に逃げる。

ドアの向こうは、非常灯のみが場を照らす冷たい空間。

ドアの開く音が大きく響く。 どうやら、非常階段のようだ。

―――――――引き返す事何てできない。

すぐにも、殺人鬼が俺を殺しに来る。

そのまま俺は激しい音を立てながら上へと登っていく。



ぶっちゃけた話、闘ってもいいんだがそれはしたくない。

入社して間もないのに、社員と殺し合い何かしたら

「あの人、あの頭のおかしい女の人と殺り合ってた人だわ!
関わらないでおきましょう!」

何て囁かれて俺のこれから始まるビジネスライフが

早くも終了してしまう!!

「待ちなさい!!何なのよ、あんた!!」

飛来してくる無数の銀色の凶器達。

「御前こそ、何なんだよ!!!!」


人間という生き物の追い込まれたの時の行動は、
後々冷静になって考えてみれば大体が客観的に見て
馬鹿で愚かな行動に出てるものである。










それを俺は、屋上に行き着いて理解する事になった。

       

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塩田悦也 [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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