Neetel Inside ニートノベル
表紙

Cyborg Neet
第三話『ドゥロガード』

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「・・・・めて・・・・・・・や・・・て・・・・・・・・」

世界に亀裂が走った。

―――――――あぁ、『現実』に戻されようとしている。

誰だ、誰だ  この俺を、『現実』へと引き戻そうとしている奴は。


「・・・・・・止めて!・・・・・来ないで!!来ないでってば!!」

女のヒステリック気味な悲鳴が、俺の耳を劈く。


止めて?―――――――何のことだ 意味がワカラナイ。

それは、こっちのセリフだ。  止めてクれ。

俺の世界が―――――――壊れていく。  止めテくれ。

ほら、見ロ! あぁ、目玉が形づくってるじゃねぇか!!

待ってくれ!!頼ムから!!

視界が元に戻る。  世界から【俺】が、切り離されていく。


「ぁ―――?ぐぁっ!?か―――――――ハ」

出来上がったばかりの目玉からの視界は、ぼんやりとしている。

目の前は、赤色で 殆どが覆い尽くされているのが何とか分かった。


以前、トリップした時につけた右腕の傷がジクジクと

思い出したかのように疼き始める。


―――――――あぁ、『現実』に戻ってきたのか


そこで、ようやく意識が完全に覚醒したのを感じ取って、

自分が現実へと戻ってきた事を俺は『理解』した。

ぼんやりとしていた視界が、ハッキリとなって

目の前に、広がる赤色が燃え盛る炎だった事を知らす。


「あぁ、そうだった  俺は――――――ごッ!?」

げぇええ

同時に、胃の奥から湧き上がった物を

何の躊躇いも無く吐瀉してしまった。

ビチャリ、と

コンクリートの床の上に、色の殆ど無い嘔吐物が

撒き散らされていくのが分かる。

薬の副作用ではない。

恐らく急に、現実へと引き戻された恐怖と焦りが

自身の消化器官を蝕んだのだろう。


ひとしきりの嘔吐を終え、コンクリートの地面に

手をついて息を荒げている自身へと言い聞かせる様に

男は口を開いた。


「そうだ  俺は、あの糞野郎のガキを処刑するんだった。」


―――――忘れてはいけない、忘れてたまるか あの屈辱を!

誰が、無能だと!?誰が、とんでもない事をしてくれただと!?

ふざけるな―――――――ふざけるな、ふざけるなァッ!!

あれは、俺の失態じゃない!!御前達じゃないか!!

俺の責任じゃない!!なのに、何だ? 全てを擦り付けやがって

何故だ―――――――何故だッ!?何故、俺が責められる!?


「まぁ、いい―――――――だから、こうしてやってやったんだ。」

眼前に、広がる燃え盛る炎を見て男は哄笑する。





――――それで、御前は十分なのか!?満足なのか!?





何処からか幻聴が、俺を焚き付けるかの様に叱咤する。



「あぁ、だからあのクソガキを処刑するんだろう?

この俺の手で、裁くんだ。 ―――――――悪を。」



そうして 男は、幻聴に応えながら、ごそごそ と

予備に携帯していた粉薬の袋を取り出して開封し、

その中にある白い粉を スゥっと、吸い込んだ。







ああ、来た来た来たよヤバイヤバイよってこれ!!すげぇ!!

脳味噌の右側だけがバクバクと破裂しちゃうんじゃないかって

思うほどに、唸ってやがる。

此処には、全てがある。俺の脳味噌の中に全てが揃ってやがる。

俺は今、この世の全ての真実に辿り着いた。


―――――――世界は、元々全てが一つだったんだ!

ほら、見ろよ!  天井も、燃え盛る炎も、地面も、

この俺も、全てが溶け合って一つとなっていく。

俺は今、世界そのものになろうとしているんだ。

ハハハ、すげぇ!!すげぇよ!!何が凄いって、俺がすげぇ!!

―――――――『最高』だ。

それ以外にこの状態を形容できる言葉などあるものか。

すげぇ・・・・今なら何でも俺はできる。俺は今、俺を越えた!!

全てを超越した!!俺は、『世界』なんだ!!!!!

だから、今の俺なら何だってできるんだ!!


何だって、何だって、何だって――――――――――。。。

     

























嗚咽を上げながら、只ひたすらに私は走る。

只、アイツから逃げる為だけに燃え盛る炎の中を走る。


「嫌だ、嫌だ、嫌だ!!死にたくない、死にたくない!!!!」


―――――――どうして、父さんは私を置いて一人逃げたんだ!

全部、父さんのせいだ!!父さんが、私をこんな所に呼んだから

こんな目にあったんだ!!! 最悪だ!!!!

「―――ハッ、はぁっ――――――ひっ、」

そんな事を思いながらも、私はやはり走る。

―――――――恐い。

死ぬのが、恐い。 あの男に捕まれば、殺されてしまう。

目の前で、殺されていった人達のように無残にも殺されてしまう。



「ハハハ、どうして逃げるんだい!?

――――待ってくれよ!お兄さんが、君を助けてあげるからさぁっ!!」


背後から、哄笑混じりに狂気染みた声が パチパチ、と

燃え盛るこの建物の中に、響くのが聞こえた。


「――――――嫌ぁッ!!来るな、来るな、来るなァッ!!」


脇目も振らず、只 走り続ける。

こうやって、悲鳴を上げる事によって相手に自分の居場所を

わざわざ教えている事も分からずに、悲鳴を上げて逃げる。





―――――――ドンッ!!


「――――――ッ!?」

何かに、ぶつかってその場で尻餅をついてしまう。

その瞬間、声にならない叫びが口から出る。

分かっていた。 何かではない。 誰かに、私はぶつかったのだ。

じゃあ、誰なのか?  そう聞かれれば、答えは一つしかない。



―――――――アイツだ。  あの殺人鬼だ!!!



ガクガク、と震えながら 自分の前に立つ『誰か』を見上げる。



「お願い!死にたくないの!!!命だけは!!

ほら、身代金なら 私のお父さんがたっぷりくれる筈だから!」


嗚咽混じりに、私は 必死に叫んだ。



「あ″ー? アンタ、何をとち狂ってんだ?

恐さのあまり、幻覚でも見てたのか? ほら、立てよ。」


だけど、 殺人鬼は 素っ頓狂な声で返してきて、

尻餅をついたまま懇願する私に スっと、手を伸ばしてきた。


「え?」


「はい?」


一瞬の沈黙。


そして、それを打ち破るかのように背後から



「みぃーつけーたぁ

尻餅何かついちゃって、動けないのかなぁ!?

今、助けに行ってあげるからねー!!」


獲物を見つけて歓喜する 殺人鬼の声が、再び響いた。

しかも、近い。  恐らく、振り向けば直ぐ其処にいるだろう。

だけど、足が恐怖で竦んで全く動かない。


「お願い!!助けて!!!あいつに、殺される!!殺されるの!!」


近づいてくる殺人鬼を見ている目の前の男の足に、

縋り付いて必死に声を荒げながら私は叫んだ。


だけど、男は 何だ、ありゃ? 同業者か? と呟きながらきょとんとして

突然言われた事に何が何なのか と

全く分かっていないような顔をして、私を見下ろしていた。


「はぁ?何、言ってんだ? そんな訳ないだろよ

ちょっと、落ち着けって!大丈夫か? あんたよぉ―――ッ!?」




瞬間、ぱぁんっ と 渇いた銃声が、辺りに響いた。




同時に、ピチャリ と 地面に血が落ち、


「―――――――ぁあっ?って、撃たれた?俺、撃たれたのか!?

っつか、待てよ!何か血が出てるって!!トマラネェって!!!」


目の前の男は、そんな事を言いながら腹部を押さえながら瞠目している。




ぱぁん、    もう一度、渇いた銃声が背後から聞こえた。


腹部を押さえて、前を全く見ていなかった男はそのまま

もう一度、撃たれ  悲痛で、顔を歪ませる。



「邪魔だ―――――――誰だか、知らないが死ね」



すぐ背後から、私を追う殺人鬼の声がした。

それと同時に、銃で撃たれて くの字に身体を曲げている男へと

蹴りが、繰り出されて 吹っ飛ばされた。


そこで、私は 絶望を確信した。

―――――――終わりだ、私は間違いなく死ぬ。殺される。


「―――――――!!」

あまりの恐怖でもう何も声を発する事ができない。

口をパクパクさせて、何時の間にか失禁している私へと

くるっと、殺人鬼が振り向いて ニヤリ、と嗤った。


「駄目じゃないか  こんな所まで逃げて手間とらせちゃってさぁ

―――――――大丈夫 助けてあげるよ  此処から。」


嘘だ、御前はさっきの男の様に私を殺すんだ!!

嫌だ、嫌だ―――――――死にたくない、シニタクナイ。


只ひたすらに嗤い続ける殺人鬼を見て、ガチガチと震える。

「―――――――ッ!?」

ガシっと、髪を乱暴にも掴まれて上へと持ち上げられる。

「解き放ってあげよう―――――――此処から。」

殺人鬼は、訳のわからない事を言いながら


そのまま持ち上げた私の首に手を伸ばし、ギュっと力を籠めた。


「―――――――!!」

意識が遠くなっていく。

―――――――苦しい、クルシイ。クルシイ。クルシイ。

必死に、じたばたもがくが 殺人鬼にとっては、

そうして、少女が苦しむ光景は『愉悦』を感じさせる物であった。


「恨むなら、御前の父を呪え。ハハ、ハハハハハハ!!!」































哄笑する。

非常に気分が良い。

嗤いながら、早く死なないかな とさらに、力を籠めてみようとする。


―――――――とんとん、


そう試みようとすると、自分の肩を誰かが軽く叩いてきた。

叩かれて、このような状況にも拘らず つい 後ろを向いてしまう。

今、この場に居るのは  この少女 と 自分一人 の筈なのに

誰かに肩を叩かれた という事を可笑しいとも思わず

反射的に、ついつい 後ろを振り向いてしまった。

そして、殺人鬼は驚愕する。




―――――――当然だ。

其処には先程殺した筈の男が満面の笑みで居たのだから。





「あーーその、何だ。



一瞬、意識が飛んだじゃねぇか、クソタレがァッ!!」






怒号と共に、殺人鬼へと 固く握られた拳が

勢いをつけて放たれ、ベゴォッ と 鈍い音を上げた。

       

表紙

塩田悦也 [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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