Neetel Inside 文芸新都
表紙

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「シャンプーはそこだから。え?うん、狭いしさ。俺は後にするよ」
――現実は厳しい。
この世の男は二種類に分けられる。即ち、据え膳を前に飛び込めるか、足踏みをしてしまうか。
俺は前者だとばかり思っていたが、それはエロゲの中だけの話だったらしい。
厳密に言えば、極度の緊張のためか、俺のアレがアレしてくれなかったのだ。
さすがにそんな情けない姿を自分より年下の女の子、しかも神調教だのベテランだのと吹聴してしまったチサトに見せるわけにはいかない。
男の股間、じゃない、沽券にかかわる問題だ。
そんなこんなで、おれは泣く泣くせっかくのチャンスを投げ捨てたのだった。

「この展開は考えてなかった」
コタツの中。ゴロン、と体を伸ばしてつぶやいた俺の一言は、すぐにシャワーの音でかき消された。
あせることはないんだ。携帯の時計は、まだ19時になったばかり。
チサトの持っていた、あの大きなスーツケース。さっき持ってやったら結構重かったじゃないか。
きっとあれには着替えとかが入っている。エロ雑誌の家出少女によくあるパターンだ。
体目的の男と、宿を求める少女との利害関係の一致。
つまり一晩は猶予がある。猶予どころか、今強引に押し入ったってチサトは断らないかもしれない。
3月といってもまだ夜は寒い。今からほっぽりだされて行くあてなんて、あいつにはないはずだ。
きっとチサトだってその点は重々承知の上で、自分から誘ったのだろう。
なのに男が二の足を踏んで後退してしまった。内心で笑われたのが容易に想像できる。

「…くそっ」
自分のふがいなさ、さっきから牛耳られていた様。全てに憤って、俺はどうすることもできず寝返りをうった。
だんだん、チサトにも腹が立ってくる。そういえば景気よくシャワーの水が垂れ流されているようだ。
あの程度の男だ。遠慮なんて要らない。なんでも使えるだけ使ってしまえ。
そんな風に考えてるんじゃないだろうか。
そろそろ飯の時間だ。あの様子だとチサトもまだすませてはいないだろう。
それも俺が用意すればしたで、感謝もなく食い散らかされるのがオチ、か。

「…プレイプ」
「レイプレイプレイプレイプレイプレイプレプレイプレイウレーイプ!!!」
覚醒した!多少舌は噛んだが覚醒した!
俺は某デスメタル神の呪文を10レイプ/秒のペースでとなえつつ全裸になって立ちあがり、4足歩行の構えを取った。
野獣と化したのである。この姿勢からの突進は空気摩擦で火花が散るほど凄まじい。この前格闘漫画で読んだから間違いない。
体中がギンギンになっていくのが分かる。
覚悟しろよチサト。無防備な状況に自分を置いたお前が悪いんだ。大人の怖さってやつをたっぷり教え込んでやる。
そもそもM奴隷に墜としてやる約束だ。詫びさせる、跪かせる、命乞いをしろ、小僧から石を(ry

――デムッ!
決意を秘めた俺の後ろ足が、豪快に、かつ下の住人から文句が出ないくらいの微妙な力加減で床を蹴った。
何もかもを貫く勢いで浴室のドアを開け、

「なんだよ…その跡…」
立ち上る湯気に隠れることもなく。
「麻縄、ですけど。」
はじめてみたチサトの裸。
それはその年の少女が負えそうにないほどの、深い、ふかい傷。
日常的に行われてきただろう虐待の印が、そこにはあった。

       

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