Neetel Inside 文芸新都
表紙

雨女とぼく。
自称雨女

見開き   最大化      

「いい天気だねぇ」

「そう、かな?」

「雨の方が好きなんだっけ?」

「好き」

「ふうん」

よく晴れた午後、僕は布団の中から窓の向こうに広がる空を見上げた。
最近咳がひどく、体調も良くない。ついでに熱も平均よりちょっと上だったりして。
何よりこの部屋は湿っぽい。湿りすぎでキノコが生えているのを昨日発見した。
とはいえ、建て方が悪いとか部屋が汚いとかそういうことではないので勘違いしないでもらいたい。
いくら僕が独身だからって部屋の片づけぐらいはちゃんとできるし、
馬鹿みたいに安いアパートに住んでいるわけでもないのだ。

原因は、隣で呑気に林檎をかじっているこの女の子。
妖怪・雨女こと すーちゃん。

雨の日のこと、びしょ濡れの彼女に傘を差し出したところ、
とても嬉しそうに微笑んだので思わず笑い返したら………。
昔読んだ漫画に書いてあった通り、死ぬまで取りつくタイプの妖怪だそうで。
オプションで湿気とか陰気とかがついてくるらしいのだけれど、
湿気はまぁともかく、陰気にはなっていない。
もともと免疫がなかったせいで風邪をこじらせてしまったみたいだけれど
よおく考えてみるとただ単に風邪引いたような気もしなくもないし。
全部が全部すーちゃんの所為じゃないような気がする。

「ってその林檎僕のだよぉ!?」

もぐもぐ。と口いっぱいに頬張りながらすーちゃんは
もごもご。と何かつぶやいたけれど、何を言ってるかわからないぞ。
食べ物を口にいれたまましゃべるんじゃありません。
すーちゃんはごくん、と林檎を飲み込むとうれしそうに口を開く。

「みんなで食べてくださいねってみねやんが言ってたもん」

それって社交辞令って言う奴じゃないのかな?
っていうか人の母親をみねやんとか変な渾名で呼ぶんじゃない!

「いいじゃんいいじゃん。ゆうゆうは寝てればいいの」

「ゆうゆう言うな」

ぶつくさと文句いいながらも林檎を切って渡してくれるすーちゃん。

「じゃあすーちゃん言うな」

「やーだよー」

ぽすっと布団の上に転がるすーちゃん。重。

「いま重いって思ったでしょ?」

「んな馬鹿な。綿あめみたいだぜ」

ふわふわーとか言ってるテレビCMを斜めに聞き流しながら
布団から這い出る。ごろん、と落ちるすーちゃん。
うう、なんて言いながら睨みつけてくるが
僕には聞かないんだぜそんな視線攻撃。
目を合せないで会話するタイプなのだ。えっへん。

「熱はー?どれどれ?」

そう言いながらおでことおでこをくっつける。
ぼぼぼぼ、僕は、はずかしくなんてないんだぞおおお。
とかわけわかんないこと呟いてみる。スルーされるのは当たり前か。
しっかしこの雨女。

「いつになったらおうちに帰るのかな?すーちゃん」

ぎくぎく、という音が本当に聞こえてきそうなほどに
焦り始めるすーちゃん。

「なななな、なにいってんのゆうゆう。私妖怪よ?帰る家なんてないの………」

そういいながらもビクビクと震えている。
いや、そんなに図星だとは思いませんでした。
そんなに冷や汗かかなくても別に追い出したりはしないんだけれどなぁ。
ただ家出っていうのは、親御さんに心配かけるわけで。
まぁ(自称)妖怪にだって親はいるのだろう、多分という予想の元だけど。

「まぁ私は、ゆうゆうの優しさに惚れて憑いちゃったわけだし?
 それってゆうゆうの所為でもあるんだよ?
 それにこんな可愛い妖怪そばに置いておいて今さら出てけなんて………」

すーちゃんはそこまで言うと、しっかりと僕の目を見つめて
「言わないよね?ね?」と問いかけてくる。
僕は無言ですーちゃんの頭を手元にあった新聞紙で殴った。

「痛っ!」

なにすんの!とか人でなし!とか(自分も人でないくせに)
罵声を浴びせ続けるすーちゃん。
ついにポカポカと殴り始めたけれど、全然痛くない。

「まぁ、嘘はよくないよね。ウソキライ」

というのが嘘なんだけど。でも嘘はよくないよのところは本当。

「う、嘘なんかついてないんだから!私は妖怪・雨女!
 ゆうゆうみたいなお人好しにとり憑いて殺しちゃう怖い妖怪なんだ!」

とかいいつつまた林檎食い始めてるしこの野郎。
別に家に居るのは良いんだけど、食費どうするのさ。
一応僕も学生なんで結構シビアだったりするんだけれど………

あう~なんて言いながら寝転んだら、天井に雨漏りしている箇所を見つけた。
すごく安いアパートではないが、安いアパートであることには変わらないんだな。
溜息をつきながらも、湿気の原因を突き止めるのであった。

「やっぱりすーちゃんうそつきじゃん」

       

表紙
Tweet

Neetsha