天国コンサルタント

 私は死んだ。トラックの車輪が私の骨を砕く音をはっきりと覚えているから、それはおそらく間違いない。ならばやはりここは、死後の世界というやつだろうか。しかしこれは――私は改めて辺りを見回した。薄汚れたビルディングに、人気のないアスファルトの道路。どこにでもあるさびれた田舎町にしか見えない。どうしたものか、途方に暮れていたそのとき、一枚のビラが風に吹かれて飛んできた。そこにはけばけばしい文字でこう書かれていた。
              「天国コンサルタント」

            あのヒットラーを天国に送った
            実力派コンサルタントが
            貴方の天国行きをお約束します!

 なんとまあ、胡散臭い。だが他に行く当てもない私は、とりあえずそのビラが示す方向へ歩いた。目的の場所にあったのは、二階建て白塗りの、これまたありふれたビルディングだった。しかし中に入ってみると、年齢も人種もさまざまな人々で、案外にぎわっている。部屋の奥にいくつかのブースに区切られたカウンターがあって、それぞれ担当のコンサルタントが一人ずつ来客の悩みを聞いてくれるらしい。まあ、ハローワークのようなものか。私は比較的すいていた右端のブースに並んだ。

 私の二人前は、黒いヴェールで顔をすっぽり覆ったアラブ人の女性だった。私はアッラーの御許へ行けるのでしょうか、と不安がる彼女に、小太りのコンサルタントは眼鏡を拭きながら言った。
「大丈夫ですよ。貴女ならきっと」
「本当ですか」ぱっと顔をかがやかせる女性に、コンサルタントは更に頷いてみせた。
「ええ、本当です。イスラムでは今、聖戦で亡くなった男性一人につき、七十人もの美女を用意しなければなりませんから。女性は大量募集中ですよ」
 女性は憤慨して帰ってしまった。もっともなことだ。

「私はイラクで戦死した兵士なのですが、この経歴は天国行きに有利になりますか」
 私の前に座っていた大柄な白人男性が尋ねた。男はいかにも自信満々といったふうだったが、コンサルタントは少し首をかしげてこう言った。
「最近そういう方は増えていまして。そうですね、何かもうひとつアピールになりそうなエピソードがあるといいでしょう。例えば、銃弾に打ち抜かれても十字架を握り締めていた、とかね。なに、神様だって全部が全部私たちのことを見ているわけではありませんから、多少の誇張くらいは許容範囲ですよ」
 なるほど、そうするよ、と満足そうに笑って男は去っていった。

「さて、次の方――あなた、中国人?」コンサルタントは値踏みをするように私を見た。
「いいえ、日本人です。私はこれまで宗教とは無縁だったのですが、そうするとやはり天国には――」
「日本人!」コンサルタントは突然頓狂な声をあげ、そして笑い出した。
「何がおかしいんです。確かに生前の私は不信心者もいいところでしたが、別段悪いこともしてないのに地獄行きなんてまっぴら御免ですよ。」私はさすがにむっとして言った。
「いやいや、地獄なんてとんでもない。あなた方は世界一恵まれていますよ」コンサルタントはようやく笑いを抑えて言った。「あなた、何か特技は?」
「・・・特にありませんが、強いて言うなら高校野球でセカンドを守っていました。それがどうしたっていうんです。」
「素晴らしい!」
 予想外の反応に怒りのやり場をなくしとまどう私をよそに、コンサルタントは言った。
「だったらあなたはご自分でベンチャーを起こして、セカンドの神様にでもなればよろしい。ヤオヨロズの神々、というんでしたか。きっとあなたも受け入れてもらえますよ」