緑の地球

 中東S国の研究者アーキル博士が品種改良に成功したその植物、高度乾燥・塩ストレス耐性マングローブは、素晴らしい生命力を持っていた。その根は網の目のように絡みながら地中数十メートルに達し、水分を確保すると同時に強固な地盤をつくりあげる。砂漠のど真ん中での育成はさすがに難しかったが、それでも砂漠化進行中の地域では十分な効果を発揮し、環境保全に大いに役立った。この「アーキル・マングローブ」の発明は瞬く間に世界中に知れ渡り、砂漠化に悩む各国はこぞってこの木を使って植林を行った。これによって地球の砂漠化に有史以来初めて歯止めがかかり、アーキル博士はノーベル賞を授与された。

 問題は数年後に起こった。増えすぎたアーキル・マングローブを処理するために各地では伐採が行われていたのだが、残された根からまた新しい芽が出てきて、ほんの一月ほどで元の大きさまで生長してしまうのである。これには皆困ってしまった。隣同士の木と絡み合って深度数十メートルに達する根を、完全に取り除くのは不可能であったからだ。遺伝子組み換えによ耐性が与えられている除草剤も効果が薄い。アーキル・マングローブが市街地にまで根を張る段になって、さすがに焦った人々は、再び砂漠化が進行するのも省みずにこの植林地を焼いた。しかしなんと、これもうまくいかなかったのである。地中から水分をたっぷり吸い込んだマングローブ林にはなかなか火がつかず、また苦労して焼け跡にしても、地中深くで生き残った根から簡単にもとの林の姿を復元されてしまう。こうなるともはや、人々になすすべはない。新薬の開発、とち狂った某国政府による自国への枯葉剤散布などは一定の効果はあったものの、アーキル・マングローブの爆発的な繁殖力にはまったく追いつけなかった。

 かくして2XXX年、地球は緑に包まれた。大地を這うように張り巡らされたアーキル・マングローブの根によって、交通機関も水道も、電気もガスも完全に破壊され、人々は原始の生活に戻っていった。あるとき、そこに住む少年少女が、こんな会話をしたという。
「僕、大きくなったらサバクに行くんだ」
「サバク? それ、なあに?」
「そこではさ、この地面を埋め尽くす木が一本も生えてなくて、いつも明るいお日様がさしてるんだ」
「わあ、すごい。それって夢みたい!」
sage