Neetel Inside 文芸新都
表紙

SometimesFiction
8月 祭りの日に

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『えー、まぁ、そんな感じであいさつとさせていただきます』
『それでは、本編をお楽しみください』

 在りし日の雄雄しき姿も、今では暗闇にまどろむのみ。
そんなとある閉校に、祭りがやってきた。

  ここに記された物語は事実の側面もある。しかし創作の側面もある。

  とある日の出来事も、淡い思いが紡ぎ出す。 いうなれば、SometimesFiction。

*

 夏の終わり。今年は残暑見舞いもいらないほど、すぐに暑さは影を潜めた。
半月前はまだ薄明るかった時間だが、曇天あいまって夜のそれであった。
仮にも夏祭りだというのに、半袖で寒いとは思っても見なかった。

 例年、この時期に劇団が公演を行う。
いいタイミングと思って来たのだろうが、閉校跡地でわざわざやるのも如何なものか。
まぁ実際、感傷に浸りにきて釣られている奴もいるわけで。

 幕開けにはもう少し。屋台も並べてあるが、夕飯時だからか行列になっている。
食事は諦め、誰もいない学校裏をぼんやりと回る。
暗闇に彷徨う亡霊、まずい今回は我ながら洒落になってない。
入り口が生い茂って入れない裏庭。塩素を失い黄緑に支配されるプール。
かつて学童農園だった草原に、巨大な主。前年度のひまわりの種が落ちたままだったのか。

『やっておしまいっ』
『あらほらさっさー』
 会場であるグラウンドから声が聞こえだす。
さて劇も幕を開けたようだが・・・。すまない言わせてくれ。

なんだこの中途半端なパロディは。受け狙いか?それで受けが取れると思っているのか?その上キャラクターを混同している。どれだけやっても芸人のネタがちらつく。わざとか?わざとなのか?いいのか?俺は演劇なんて中3以来やってないぞ?素人目でもこれはどうなんだ?そして今度はご当地ネタか。しかも駄洒落か。貴様ら、馬鹿にしているのか?こっちが滑ったみたいになってるじゃないか。その上時事ネタですか。不祥事ネタですか。いちおうちょっとしたブランドなのに偽装ネタは洒落にならないんですが。え、なに工作員?ガチで貶めに来たの?

『舐めてんのか大佐ァァァ!!』
「こっちの台詞だぁぁぁ!!!」

「・・・なにやってんの、君は」

 失礼しました。

 *

『兄さん・・・兄さんなのっ!?』
『おー、久しぶりじゃないか』
 久々にあった縁、なんとなく2人で鑑賞した。
「帰ってきてたんだ」
「まぁ夏休みだしねー。また誰かに会えるかと来てみれば、また君だけかい」
 意外と考えることは同じだったらしい。
「役足らずで申し訳ない」
「まぁいいけどー。・・・ちょっと、このBGM・・・。」
 某アニメ主題歌に、まさかのボーカロイド。
 みんな大好き、みんなニコニコ、でもこの場で聴くのはちょっと戦慄。
 なんつー劇だ。

  「「これが時代か・・・。」」

 その後、なぜかアニメ談義になったことは想像に難くない。私は想定の範囲外だったが。

『これは・・・飛行石!!』
『違ぇよバーローww』
 談義に耐えられず、茶番に目を向ける。
『えー焼き鳥おいしいよー』
『地元産の健康的なのだよー』
「・・・焼き鳥食べたい」
 きみはじつに単純だな。
「さっき偽装ネタやってたぞ」
「まじか、それはないわー」
 細々と突っ込みをいれつつ、淡々と鑑賞していたそのときである。
想定というものは、一度外れると幾度と外れ続けるらしい。
まずいものを見つけてしまった。
「ちょっと、アレ見てみ」
「え、なになに」
『あ、あなたは・・・』

『むしむし』
 
 やたらイケメンの団子虫が、舞台の上にいた。

 *

『オーム召喚!』
『フハハハハ、粉砕・玉砕・大喝采ィィー!』
 舞台は暖かい拍手で幕を閉じる。
上演時間、まさかの3時間。こんな時間までちびっこを拘束するのはどうかと思う。
カーテンコールも一段落し、彼女は駆け出した。
「なにしてんのさww」
「え、いや、だんごむし」
 大受けである。
探しても見つからないわけだ。旧友は舞台にいた。
今年入団したばかりらしい。道理で台詞と出番が少ないわけだ。
「それにしても、むしむししか言ってないじゃんかww」
「しかしやたらイケメンの団子虫である」
「いや、まぁ、ねぇ」
「背も高いね、ちょっとよこせっ」
 気づいたら私の身長より高くなっていたらしい。少々悔しい。
「じゃ、これから打ち上げだから」
「まじか、つれてけ」
 適当にあしらい、彼は去っていった。手には差し入れの酒。てめっ、未成年だろ

 いーなー、わたしも酒のみたい。傍らの彼女はぶーたれ続ける。
「・・・さて、晩飯食い損ねて腹が減ってしまった」
「まじでか、じゃ焼き鳥食べに行こうよ。君の奢りで」
 貴様、今何と言った。


「あのイケメンめー、女でもたらしこんでないかね」
「そういう貴女は男おらんのかね」
「ないない。君も無縁かね?」
「あー、じゃあ、つきあってください」

 彼女は、微妙な顔をして、冗談と判断して、差し出したその手へ焼き鳥串を刺した。

 *

  ここに記された物語は事実の側面もある。しかし創作の側面もある。

   SometimesFiction。 とある日の出来事も、淡い思いが紡ぎ出す。

       

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