Neetel Inside 文芸新都
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デイドリーム
境目

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1.境目

 青白くて、でもぼやけていて、濁った様な景色。

「君は誰?」

 顔は真っ白で、何も見えなくて、薄青の髪が肩に掛かる程の少女。

「誰と言われたら、何と答えたらいいのかな?」

 薄っすらと口元が動いているように、それでも何も見えない白のように。
 君は何者?そう聞けばいいのだろうか。

「私は貴方の中にいる」
「僕の中? それはどういうこと?」
「私は貴方の願望、鏡、全て」
「よく分からないな……」

 表情一つ変えない。というのは僕の推測だが、何も見えないながらにも彼女は無表情だった気がした。

「分からない? 私は貴方が生み出したもの。それは貴方にしか分からないから、私も分からない」
「僕が……?」
「そう、貴方が」

 僕の作り出した夢?幻影?理想の――?
 何もかも分からない。けれど、はっきりしている。君は美しい。傷一つ無い滑らかな肌、直線の様に絡まる事の無い長い髪、華奢な様でバランスの整った体。全て僕の考えうる理想。
 宙に浮いているような浮遊感と高いところから飛び降り続けているかのような、そんな曖昧な感覚。現実とは思えない澱んだ景色、その全てが僕の五感を奪うようで気持ち悪くなる。

「ここは、夢?」
「夢? 夢とは何?」
「夢って言ったら夢だよ、現実でない場所」
「現実? 現実とは何?」
「からかっているのかい」
「分からないわ。夢と現実の違いが」
「僕の生きている場所が現実」
「どうして? 貴方は此処でも自由に動き、喋っている。現実との違いは何かしら?」
「それは……」
「夢が現実で、ゲンジツがユメだったら?」
「そんなこと……」

 微かに見えた不気味に笑ったような口元。僕は鳥肌が止まなかった。恐ろしいわけじゃない、引き込まれそうなその雰囲気に悪寒が走った。





 ――目が覚めると、既に昼を少し過ぎ部屋に暖かな日差しが射していた。

「夢か……」

 夢だった。そうだ。夢は現実と違う。こうして実感できることで僕はそれを認識しているじゃないか。胸糞の悪い、悪い冗談を聞かされたような夢だ。何かが壊れてしまいそうな、思い出すことさえ禁じえないような、それでも心に棲み付くような――。
 彼女はとても美しかった。手を伸ばせばまた届きそうなくらい近くに感じられる。……僕の中にいる。そういうことなのか?いや、たかが夢に何を。

 いつでも、今も僕は変わらない。変化の無い、そんな生活の中に居る。けれど、それを抜け出したいと考えることさえ億劫になる程現実は厳しい。現実っていうのはそういうものだろう。だから、せめて夢では僕の理想を描きたい。それが叶わないのも夢だ、好きな夢を見ることは出来ないし、恐ろしい夢だって見る。夢っていうのはそういうものだろう。そういう意味で言えば、夢も現実も何も変わらない。

 ベッドの上から起き上がることもせずに、僕はぐるぐると思考を巡らせた。変わらないさ、何を考えても。何をしても。この『僕』が今こうしているのだって、必然。こんな朝早くから頭を使うのも勿体無い。遂この間まで学校だったからか、どうしても早く起きてしまう。夏休みだっていうのに何の予定もないのだから、ゆっくり寝たいのだけども――。
 布団の中にある足元から振動がする。規則正しく刻むリズム。携帯が鳴っているみたいだ。バイブレーションなので鳴っているというのは少々表現が違うが。そもそも、携帯の着信音というのが鬱陶しくて、僕は常に携帯はバイブモードにしている。そのせいか気づかないこともある。
 携帯を手にとり、発信者を見ると『藤代』の文字。

「良介? どうしたの」
「あぁ、アツ? いや、今日暇なら映画でも行かないか?」
「映画か。まぁ特に予定ないし、いいけど」
「おっけい、なら十二時に渋谷のいつもの改札で」
「分かったわ。あぁ、遅刻すんなよ」

 時間にルーズな良介だ、どうせとは思いつつも念を入れとく。「はい、はい」と言い返され、通話は切れた。十二時か、まだあと三時間あるな。する事も無いし、少し寝よう。目覚ましを十一時半にセットして……。クーラーを入れて布団を被って。
 すぐに瞼は下りてきて、意識は一瞬途絶えた。



「また、来たのね」

 また、君か。現実から夢へ移行する境目はどこだろうか。分からない、けれどここが夢であることは分かる。君がいるから――。

       

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