Neetel Inside 文芸新都
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「いやあ、本当にありがとうございました」

健二は、彼を性犯罪者の汚名から救ってくれた男に対して深々と頭を下げた。

「いえ、なに。人として当然のことをしたまでです。さっ、頭をあげてください」
「いえいえ、後一歩で僕のエリート大学生としての人生が、台無しになるところでしたから…
あっ、これ、よければ1つどうぞ。駅からのお詫びの品ですけど…」

健二は、ひよこサブレを男に差し出す。

「これはどうも、ありがとう。ところで……君に折り入って話があるんだけど、
ちょっと、時間のほうは、いいかな?」
「……ええ、実は僕も貴方に、少し聞きたいことがあるんです」
「よかった。それじゃ、そこのファミレスでも」

健二は、救世主である爽やかな若者と一緒にファミレスに入る。
はじめて声を聞いたときから、どうも引っかかっていたことがあったが、
いざこうやって呼び出されたことで、そのひっかかりが徐々に現実味を帯びていく。



「単刀直入に聞こう。君は、ベクトロンに改造された人間…だね?」
「……仮に、そうだとして、何故貴方がそれを知っているんです?」

相席でクールなアイスコーヒーをすすりながらとりわけクールな答えを返す健二。
彼が比較的冷静なのは、この男の正体に、大体のあたりをつけているからだ。

「君も、もしかしたらもう気付いているかもしれないが、
あの日、ベクトロンの動力炉をストップさせ、君を逃がす手助けをしたのは僕なんだよ」
「やっぱりそうでしたか。僕も、どこかで聞いた声だと思っていたんです」

「申し遅れたが、私はICPO特別捜査官、緑川修二というものだ。
秘密結社ベクトロンの悪事を密かに追っている」

緑川と名乗った男は、ICPOの身分証明を僕に見せる。
本物かどうかは見比べるべき対象を知らないのでなんとも言えないが、信用してもいいだろう。

「それで、そのICPOが僕に何の用ですか」
「君の、改造人間としての力を借りたい。
実は、今日の午後11時、横浜のM18倉庫でベクトロンと何者かの取引があるという情報を入手した。
それに協力して欲しい。君にとっても、自分の正体を問いただすいい機会になると思うが、どうだろう。
協力してもらえるかな?」

「……いいでしょう。僕も、奴らにはもっと礼をしたいと思っていたところです」

自分探しの旅に出ていた情けない過去を棚に上げ、健二は力強く応えた。
もう、彼は一人ではない。心強い仲間が出来たのだ。

「ありがとう。それでは、午後9時に例の倉庫へ…そこで奴らを待ち伏せする」

彼らは固い握手を交わした後、ベクトロンと戦うことを誓い合ったのだった。

       

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