Neetel Inside 文芸新都
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学籍番号01640 滝川健二



「ま、こんなもんでいいだろ」
滝川健二は、いい加減な字で書き殴ったプリントを満足気に読み返した。
城南大学に通う学生である彼は、先週の講義で出された課題のチェックをしていたのだ。
心理学の講義にて使うとのことだったが、こんなものを提出して自分のなにがわかるのか、
全く持って疑問だった。おそらく講義の大半は寝て過ごしているから、
こんなことを疑問に思うのだろうと自嘲気味に答えを出す。

「さて、講義に遅刻すると出席扱いにならないからな」
健二は颯爽と上着を羽織ると、重い足取りでマンションの外へ飛び出す。そう、健二は学問があまり好きではないのだ。

「…ん?」
ふと見ると、マンションの入り口に見慣れない車が止まっている。
ははあ、あれだな、違法駐車って奴か。それとも恋人でも待ってるのか?チッ、なら死ねよ。
邪推が混じった負け犬的思考。心の中で呪詛の言葉を吐き捨てながら健二は通り過ぎる。事・故・れ、事・故・れ。

「ああ、君。ちょっと、いいかね?」
何の予告もなしに車の窓は開き、何の前触れもなしに男が健二に話しかける。
「…あ、はい。なんでしょうか?」
「ちょっとアンケートに協力していただけませんでしょうか」
面倒な要請だ。お前のノルマがどの程度のものか知らないが、
俺は講義を受けるという学生の本分を果たさなければならないのだ。

「今ちょっと、急いでますので」
でき得る限りさわやかに断ると、健二は普段の倍のはやさで歩き出そうとする。嫌な奴だ。
「なぁに、ほんの3分で済む簡単なものですよ」
なんというしつこい男だ。うんざりしながら再度断ろうと振り向くが、

プシュッ!

これまた何の前置きもなしに車から煙がわあわあと立ち込める。
ま、まさかこれは毒ガス!こいつはきっとKGBのスパイで北方領土だけでは飽き足らず、日本全土を我が物にしようと――

健二のたわけた思考はそこまでだった。



       

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