Neetel Inside 文芸新都
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その頃、当の本人であるタイガーバロンこと滝川健二は、自分探しの旅に出ていた。
わけのわからない団体に拉致され、わけのわからない手術を受け、はっきりと改造人間にされてしまった自分。
怒り任せに追っ手を破壊したものの、派手に破壊し過ぎて敵から色々聞き出すのを忘れてしまった彼は、
自分のするべきことを見失っていた。

「そうだ……旅に出よう……どこか、遠い遠いところへ…」

きっとそこには、改造人間の国とかがあって、俺を大臣待遇あたりで暖かく、
しかも尊敬の眼差しを持って迎えてくれるに違いない……フ、フフフ……。

彼は明らかに現実から逃げていた。

「そして、俺を助けてくれた謎の声……俺を勝手に改造した謎の声…
これらの手がかりも何か、つかめるかもしれない」

何かの間違いが起こらない限り、そんなことは絶対に有り得ない。
有り得ないのだが、家から出たらいきなり改造されてしまう世の中だ。その程度のことぐらいあっさり起こるはずだ。
彼は根拠の無い自信に満ち溢れていた。

「それにしても…」

通勤ラッシュの時間帯に列車に乗り込んだのは失敗だった。
いや、でもこれは仕方が無いんだ。家に帰ってきたのが朝の4時で、
それからちょっと寝て、決意したのが丁度そんな時間だったからで、
ほら、俺、自分の都合を周りの都合で変えるの嫌いだから。なんかこう、流されてるみたいで嫌なんだよね。

後悔をさえぎるために、健二は脳内で言い訳を続ける。
だが、いくら言い訳しても、車内は加齢臭と香水が織り成すフローラルな香りに包まれ、
人々のの毛穴という毛穴から噴出している汗は車内の温度を上げ続けていた。
そしてこの密着状態。お前ら、他にも交通機関はあるだろう。電車が無ければ何も出来ないのか、全く。

「きゃあああああああ!!」

突如、車内に響き渡るうら若き乙女の悲鳴。
ははぁ、これはあれだな。今流行りの痴漢という奴ですな。
これだからバブル世代のアブラギッシュどもは困る。
未だに世の女性がジュリアナ東京でブルマ天国だと思ったら大間違いだぜ。ふぅ、やれや……

「この人痴漢ですぅ!!」

痴漢された(と主張している)女性が力強く掲げたその腕は、確かに俺のものだった。

       

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