Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 俺の軍が受け入れられたのは、次の日の朝だった。
「待たせたな。話し合った結果、お前をグロリアスに迎え入れる事に決まった」
 ハンスという男が、こう言った。情けない奴だと思っていたが、度量はあるようだ。元敵将を、あれだけの質問で迎え入れる。たやすく出来る事ではない。
「だが、やはり最初は誰かの下についてもらう事になるぞ」
「それは構わん」
「そうか。なら、アイオンの下についてもらう。上手くやってくれ」
 感謝する。目で言った。
「俺は戦ができれば、それで良い」
「血気盛んな事だな。エクセラでもそうだったのか?」
「そうだ」
「ラムサス、エクセラの情報を喋ってもらうぞ。僕らにはそれが必要なんだ」
 一騎討ちした男だ。こうしてみると、まだまだ幼い。髭も生え揃っていないのだ。
 だが、強かった。強さに年齢は関係ない。天才、ギリはそう言っていた。
「分かっている。俺はエクセラの軍権を握っていた。少しは詳しいつもりだ」
 軍神。エクセラではそう呼ばれていた。そして、十万という大軍を動かす事も出来たのだ。だが、今ではもうそれも地に堕ちた。だが、失意は無かった。新たな人生。今、それを歩もうとしているのだ。
「それじゃ、ここからは俺と話だ。ローレン、お前が居るとうるさい。兵の調練でもしていろ」
 長髪の男。ブロンドの髪の毛が、肩まで伸びていた。
「何を言ってるんですか、アイオンさん。僕も将軍です」
「お前はラムサスと遊んで欲しいだけだろう。話が終われば、いくらでも貸してやる」
 この男、口が悪い。これが俺の上官になるのか。俺は苦笑していた。
「決着をつけたいだけですよ。馬無しでやれば、どっちが強いかが分かりますから」
「それを遊びだと言っているんだ。ほら、さっさと調練に行って来い」
 アイオンは面倒そうに、出口の方へアゴをしゃくった。ローレンは不服そうな表情だ。
「わかりましたよ」
 出て行く。
「ガキの相手は疲れる」
「何歳なのですか」
「なんだ、敬語が喋れるのか」
 目を丸くして、聞いてきた。当たり前だろう。何を言ってる。
「ハンスさんに敬語を使わず、俺に使うとは変わった奴だな」
「そう言ってやるな。私は気にしていない」
 二人が笑い合う。エクセラとは勝手が違う。慣れだろうが、やりにくさを感じる。
「ローレンはまだ十七のガキだ」
 十七。十七歳で、あの強さなのか。末恐ろしい男だ。
「お前はいくつだ」
「私は二十歳です」
 アイオンが吹き出した。何がおかしい。
「敬語を使うな。お前ほど敬語の似合わない奴は見たことがないぞ」
 どういう意味だ。
「ラムサス、ここはエクセラと違う。上下関係はあるが、気にするほどのものでもない。自由の国だ」
 ハンスがなだめるように言った。ダメだ。勝手が違う。しばらくは、ストレスとの戦になりそうだ。
「わかった」
「で、本題だ。まず、エクセラの軍力は? 五十万だと推定しているが、どうだ」
 そんなものだろう。毎回、エクセラは反乱軍を万単位で叩き潰していた。見せていた軍力から推定すれば、妥当な数字だ。国土も広い。十分に養えると考えられる。
「二十万だ。お前たちが思っている程、エクセラの兵力は強大ではない」
「では何故、万単位で軍を出してくる? そんなに余裕があるとは思えんがな」
「分からない。だが、反乱軍を叩き潰す見せしめだ、と神王は言っていた」
 正直な所、神王は何を考えているか分からない時がある。特に軍事はそうだった。
「なるほど。所で、俺たちの作戦が看破されていたようだが、どこで漏れた?」
 作戦? 何の事だ?
「何の事だ、それは」
「あ? 西の軍は囮で、南から大挙して攻め寄せる。城までは攻められずとも、グロリアスの領地拡大は可能だったはずだ」
 初耳だ。そうか、それで三週間前の戦の時、作戦は失敗だ、と言っていたのか。
「いや、俺は知らなかった。そして、神王も知らないはずだ」
「話が噛み合わんな。ハンスさん、どういう事です」
「ラムサス、いつもは万単位で出てくる所を、あの時は二千五百だった。何故だ?」
 力を示したかった。神王に、エクセラに。親の七光りを返上したかったのだ。
「こちらの事情だ」
「言えないということか?」
「言いたくないんでしょう。プライドが高そうな男ですよ、こいつは」
 口は悪いが、よく見ている。アイオンという男、ただ者では無さそうだ。
「失礼致しますッ」
 グロリアスの兵だ。慌てているようだ。
「なんだ、今は話中だ。急用で無いなら、後にしろ」
「え、エクセラが、エクセラが攻めて参りましたッ」
 部屋中に緊張が走るのが分かった。

       

表紙
Tweet

Neetsha