Neetel Inside 文芸新都
表紙

親の七光り
復活の軍神

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「数は?」
 アイオン。表情が真剣だった。だが、声は落ち着いている。
「お、およそ四万との事です。ですが、もっと多く居ると見た方が良いと、クライン様が」
「国境の守備はクラインだな?」
「そうです。早く援軍に行かなければ」
「慌てるな。国境は関所と山岳がある。守るだけなら、難しくない。クラインなら持ち応える。あいつは臆病だからな」
 アイオンが顎に手をやり、眉をしかめた。
「問題は、誰が行くかだ。ハンスさん、俺が行った方が良いですか」
「いや、ラムサスとローレンに行かそう。アイオン、お前はここに居ろ。万が一が有り得る」
 切り札、アイオンはそういう男らしい。しかし、俺が内通者とは疑わないのか。
 いや、それよりも、エクセラが自ら攻めてくるのか。俺が軍権を握っていた時は、こんな事は無かった。神王が行くなと言ったからだ。俺は戦がしたかった。だが、行くなと命令されたのだ。
 となれば、誰が軍権を握った? ルースは内政権を握っているが、軍事の方には疎い。と言うより、これから学ぶ所だったはずだ。一体、誰が軍権を握ったのか。
「ラムサス、エクセラでお前以外に有能な将軍は?」
 アイオンが目を見てきた。
「居ないはずだ」
 そう、居ないはずだ。だからこそ、誰が軍を動かしているかが分からないのだ。
「しかし、エクセラから攻めてくるとはな。俺がガキだった頃以来の話だ」
 父カルサス、戦神の時代だ。この発言の裏を返せば、グロリアスは父の軍からも国を守りきった事にもなる。落ち着いているのも道理という訳か。
「ここらでお前の真意を見極めるのも良いだろう。エクセラ軍を叩き潰せば、ひとまずは信用して良い事にもなる」
 当然、現時点でも俺は疑われている。だが、アイオンの言うとおりだ。エクセラ軍を叩き潰す事で、信用は手に入る。
「監視にローレンだな。奴は反乱軍の中でも疑心暗鬼中の疑心暗鬼だ。ま、窮屈かもしれないが、仲良くやれ」
「ラムサス、軍はいくら必要だ。お前の騎馬隊だけでは心許ないだろう。必要なら、私たちの兵を貸すぞ」
「必要ない。俺の騎馬隊だけで十分だ」
 地の利を味方に付ければ、どうとでもなる。俺の鍛えた騎馬隊だ。エクセラでも最強を誇る。それに、他の兵が混じると動きにくい。隊列が乱れ、阿吽の呼吸が生み出せないのだ。それなら、最初から俺の騎馬隊だけの方が良い。
「ローレンに多く兵を付けるか。ラムサス、お前には悪いが、ローレンの指揮下に入ってもらうぞ」
 小僧の下か。だが、仕方あるまい。
「あぁ、構わん」
「よし、すぐに準備を整え、出立しろ。私とアイオンも、戦の準備に入る」
 戦だ。そう思うと、自然と気分が昂ぶった。

「ギリ、戦だ。エクセラを叩き潰す」
「ほう、もう攻めてきたのですか。三週間前、戦をしたばかりだと言うのに」
 確かにその通りだ。度重なる戦は国力を削ぐ事になる。軍費に税が流れる。
「蓄えがあるのだろう。あれだけ広く、民も多い国だ」
「そうでしょうな。所で、我らは単独で動けるのですか」
「いや、ローレンの指揮下だ。だが、構成は俺たちの軍だけだ。グロリアスの兵は混じらん」
「ローレン、あの天才ですか」
「あぁ、そうだ」
 武芸に関しては天才だった。戦術については分からない。何と言っても、経験が物を言う分野だ。あの歳では、まだロクに戦の経験も無いだろう。
「すぐにでも出立されますか」
「あぁ。兵たちにも準備を急ぐように伝えてくれ」
「分かりました」
 ギリが駆け去っていく。エクセラ軍。今日からはもう敵だ。容赦なく叩き潰す。向かってくる者は斬り殺す。
「ラムサス、本当にお前の騎馬隊だけで良いんだろうな」
 ローレンがやって来た。
「あぁ、それで良い」
「なら僕から言う事はない。国境の守備はクラインさんが担当しているらしい。クラインさんなら持ち応えてくれるはずだが、早駆けする。援軍は早いに越したことは無い」
 ローレンの言う通りだ。特にエクセラは大軍だ。時間が経てば経つほど、兵力差は士気に影響を与える。
「出立は?」
「一時間後には出る。僕の軍は、歩兵・騎馬・弓兵とバランスよく編成する。数は六千だ」
 俺の軍と合わせて七千だ。相手は四万、もしくはそれ以上だ。
「地の利を味方に付ければ、追い返す事ができるはずだ」
「国境の兵力は?」
「六千。クラインさんは慎重な人だ。守る事に関しては上手い」
 ならば、俺たちに出来ることは一刻も早く援軍に向かう事だ。
「僕は戦の準備をする。先に隊列を組んで、待っていてくれ」
「あぁ、わかった」
 誰かの指揮下に入る。始めての経験だ。俺は初陣の時点で、総大将だった。
「エクセラ軍か」
 敵として戦うのは始めてだ。そして、誰が総大将なのか。だが、叩き潰す。これは誰であろうと変わらない。
 デンコウに跨り、俺は確かな昂ぶりを抑えていた。

       

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