Neetel Inside 文芸新都
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「今日はここまでだ。炊事の準備、見張りを立てろ」
 ローレンが指示を出す。 
 早駆け、と言っても、騎馬と人が混じっていた。どうしても、人の速度に合わせなければならない。
「滞るな、やはり。間に合うだろうか。クラインさんなら大丈夫だと思うが」
「これ以上、進軍を早めれば、現地に着いた時に歩兵が疲弊しきっている状態になってしまう。今のペースで進むしかない」
「わかってる」
 グロリアス本拠地から国境まで、通常の進軍で七日といった所だった。早駆けで、それを五日まで縮められる。騎馬なら三日だ。ローレンの焦りはよく分かった。
「クラインさん、耐えてください。あと三日で、たどり着きます」
 ローレンが呟く。
 こうして見ると、エクセラはやはり強大なのだ、と思う。俺がエクセラの将軍だった頃は、反乱軍が国境に現れても、ここまでの焦りはなかった。万が一、本国まで攻め入られても、簡単に押し返せるのだ。兵力差がある。だが、グロリアスは違う。関所を突破されたら、一気に侵略される可能性がある。最後は兵力なのだ。だが、それを覆すのが兵の質であり、将軍の能力だった。
「今日はもう眠るぞ。戦地に着いた時、疲れていては話にならんからな」
「わかってる」
 もう陽は落ち、半月が雲から顔を覗かせていた。

 次の日の朝、クラインから、連絡が届いた。
「一刻も早く、援軍を」
 投石器を用い、関所が破壊され始めている、という事だった。破壊されてしまえば、守る意味がない。山間まで退いて、そこで敵を迎え撃った方が効果的になってしまう。
「投石器の数は?」
ローレン、声は落ち着いている。
「およそ、二十。火矢でいくつか燃やしましたが、敵の消火活動で思うように効果が上がりません」
「関所の兵は、どうなっている」
「弓兵が中心です。騎馬には強いですが、盾を持っている歩兵が迫り来ると、対処しきれません」
 騎馬なら、馬上から射落とすだけで良い。的も大きい。騎馬には弓矢が効果的だ。だが、歩兵には効果が上がらない。重装備であれば、それはさらに顕著になる。
「どうする、ローレン」
「進軍の速度をこれ以上、上げるのは無理だ」
 その通りだ。歩兵・弓兵が疲れきる。援軍の意味が無くなるのだ。
 俺ならば、騎馬隊だけを先行させる。少数でも援軍が来れば、兵の士気は回復するのだ。それに騎馬なら兵器を踏み潰せる。強奪も可能だ。
「あと二日、二日だけ耐えてくれ」
 何も策を講じないのか。
「き、騎馬だけでも援軍を」
「ラムサスが居る。僕が先行すると、ラムサスが反乱を起こした時に対処できなくなるし、ラムサスを先行させれば、挟み撃ちでクラインさんは戦死するしかなくなる。分かってくれ」
 なるほど、疑われているわけか。それにローレンには頼りになる副官は居ないようだ。
「出来るだけ、出来るだけ急いでください」
「わかってる」
 兵が駆け去る。
「ラムサス、本当にお前以外に有能な将軍はエクセラに居ないんだろうな」
「居ないはずだ」
 それに兵器ぐらい、誰にだって扱える。有能・無能のレベルではない。
「クラインさんなら、兵器を出してくる前に何とかするはずだ。それが出来ていない」
「何が言いたい」
「相手の将軍は兵器を出している所か、関所をも破壊し始めている。つまり、お前の言っている事が嘘という事になる」
 だが、本当に心当たりがない。ローレンの言っているように、クラインがそれをやれる人間ならば、確かに相手は有能だ。だが、誰だ。検討もつかない。
「まぁいい。とにかく駆ける。あと二日だ」
 微かな、胸騒ぎがする。

       

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