Neetel Inside 文芸新都
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 関所が見えてきた。深夜。星も見えず、雲が空を覆っている。当然、月明かりも無い。
「一雨くるかもしれないな」
 空を見上げ、呟く。
 雨、士気を低下させる要素の一つだ。季節も冬に差し掛かっている。寒さの中の雨は、体力と気力を奪うのだ。
「灯りは消させているのか、ローレン」
「当たり前だ」
 援軍は相手に悟られないほうが良い。それに今は夜間だ。これを利用する手は無い。
「夜間でよく見えないが、関所はまだ健在のようだな」
 目を凝らすが、よく見えない。だが、破壊はされているようだ。
「今は戦闘中じゃないみたいだ。関所についたら、クラインさんに詳しい状況を聞く」
 エクセラ軍、総大将は誰なのか。

「ローレン殿か、お待ちしていた」
 出てきたのは、壮年の男だった。なるほど、粘り強そうな顔をしている。
「クラインさん、状況はどうなのですか」
「関所はもうご覧になられたと思うが、かなり破壊されている。投石器が強力なのです」
 確かに、関所は半壊状態だった。
「所で、隣の偉丈夫はどなたです。エクセラ軍の将軍にそっくりですが」
「その将軍だ。名はラムサスという」
「ほう、あのローレン殿を打ち破ったお方ですな」
「変な言い方はやめてください。馬の差で負けただけです」
「それは申し訳ない。しかし、あの攻めは強かった。車輪の陣形ですかな。守りに徹していても、削り取られていく。たまったもんではありませんでした」
 この男の守りも堅かった。本当なら、もっと派手に押し込めたはずだった。
「クラインさん、エクセラ軍は?」
「関所の前に陣を取っています。しかし、あのエクセラ軍は手強い。睨み合っているのがやっとですよ」
 手強い。有能な将軍ということだ。だが、心当たりが無い。
「迂闊に出ない方が良いでしょうか」
「いえ、敵は油断しておるはずです。奇襲するのも良い手だと思います」
 クラインの言うとおりだ。
「夜間での戦闘は?」
「まだしておりません」
 奇襲した方が良い。相手は油断しきっているはずだ。昼に戦闘、夜は休む。これが習慣になりつつある。見張りは立てているだろうが、即座に対応するのは無理だろう。それに今は敵が優勢だ。油断に拍車をかけている。
「騎馬だけで奇襲をかけよう。ラムサス、お前の軍も出てもらうぞ」
 良い判断だ。騎馬は素早い。奇襲に最も適した兵科なのだ。
「わかった。陣形は?」
「僕の軍が左翼と中央、お前は右翼だ。前衛だけで構成する」
「わかった」
「クラインさんは、敵の動きを見ていてください。状況に応じて、兵を動かすようにお願いします」
「了解しました」

「開門ッ」
 ローレンが叫ぶ。門が開ききったと同時に、一気に駆ける。敵の陣を踏み潰す。
「デンコウ、抑えろ。まだだ」
 デンコウの息が荒い。兵たちも、久々の戦で気が漲っている。
「ギリ、遅れるなよ」
「はっ」
 門が開く。 
「いけぇッ」
 駆ける。デンコウ。先頭だ。陣、かがり火が焚かれている。見張りが慌てて駆け去った。
「遅いッ」
 背を向けた見張りの首を刎ねた。血を頭から被る。
「奇襲成功だ、一気に本陣まで攻め入るッ」
 ローレン、馬を並べてきた。白馬。デンコウに怯まずに向かってきた、あの白馬だ。
「かつての味方だぞ、ためらいは無いのか」
「無い。もう俺はグロリアスのために剣を振るう」
「なら、僕が言うことはないッ」
 ローレンが鞭を入れる。本陣。敵は完全に浮き足立っている。武器こそ持っているが、状況を把握していない。
「相手は大軍だぞ、慌てずに陣形を保持しろッ」
 ローレンが叫ぶ。その通りだ。暴れるだけ暴れて、相手が態勢を整えてきたら退く。そのために陣形は崩してはならない。
「ら、ラムサスだぁーッ」
 敵。俺の顔を見たのか。
「そうだ、我が名はラムサスッ」
 言った敵を輪切りにする。
「軍神ラムサスだッ」
 一人、二人、四人、敵の首を斬り飛ばす。蜘蛛の子を散らすように逃げる敵を、容赦なく叩き斬る。
「ラムサス、敵が状況を把握し始めた、戻るぞッ」
 ローレン。確かに敵が陣形を組み始めている。相手は大軍だ。兵力差で押し潰される。
「ラムサス軍、下がれッ」
 指示を出す。固まる。反転、駆ける。
「何ッ」
 目の前に、敵軍。三千程度だ。だが、いつの間に。後ろには陣形を整えた敵軍。まずい、挟み撃ちだ。どうする、ローレン。
「我が名はドーガ、エクセラ軍の新たなる軍神だッ」
 立派な顎鬚を蓄えた、色の黒い大男だった。

       

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