Neetel Inside 文芸新都
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「駆け抜けるッ」
 ローレン。無茶だ。敵をしっかり見ろ。陣形は三段、敵の眼はこちらを見据えている。強行突破は無理だ。
「ローレン、早まるなッ」
「挟み撃ちで戦死するよりマシだッ」
 小僧が。小さくまとまり、突っ込んだ方が効果的だ。今の陣形で突っ込んだ所で、大きな岩に水をぶっ掛けるのと同じだ。砕け散るしかない。
「ラムサス軍、固まれッ」
 騎馬が集合する。グロリアスの兵は混じっていない。迅速な動きだ。
「ローレンの部隊と合流するぞ、遅れるなッ」
 駆ける。ローレンの部隊はすでに突撃している。敵とぶつかる寸前だ。
「ローレン、右翼を中央に寄せろ、壊滅するぞッ」
 馬蹄、金属音、喚声。声がかき消される。
「くそっ」
 ローレン軍と合流、敵とかち合う。
「殺せッ、前へ進めッ」
 剣を鞘から抜く。敵。胸を貫く。次、斬り殺す。
「乱戦だ、不利だぞ」
 矢、身体をひねってかわし、放ってきた敵をこちらの弓矢で射落とした。
「ギリ、ギリはどこだッ」
 槍、叩き斬る。間髪いれず、その敵の首を斬り飛ばす。
「ラムサス様、ここにッ」
「右翼の兵に伝えろ。こちらの軍と合流しろと。乱戦だ、固まって対処した方がいい」
「はっ」
 ギリが駆け去る。敵が弓矢を構えていた。ギリを狙っている。
「させるかッ」
 即座に弓を引き、その敵を射落とす。背後を見る。敵が陣形を整えている。すぐにでも突っ込んでくる態勢だ。挟み撃ち。これ以上ない最悪の状況だ。
「エクセラめ、いつの間に背後に回った」
 深夜。奇襲に最も適している時間帯だ。だが、それは敵にも言える事ではないのか。さらに、星も月明かりもない。これ以上ないほど視界が悪いのだ。そして、奇襲に夢中すぎた。聞かなければいけない、敵の馬蹄。それを聞き逃していた。
「敵の将軍、ドーガと言ったか。あの民殺しが将軍に上がるとは・・・・・・神王め、何を考えてる」
 ドーガは気性の荒い男だった。気に入らない事があると、すぐに民を、部下を殺す。だが、戦は上手かった。武芸もそこそこ出来る。だが、出世には縁がなかった男だ。民を殺す軍人など、出世するべきでもない。だが、将軍になっている。神王は何を考えているのだ。
 不意に、敵、ドーガ軍の背後から喚声が聞こえた。
「クラインかッ」
 敵。二人だ。まとめて首を斬り飛ばす。血しぶきが宙を舞う。
「押し込めぇッ、クラインが背後から援軍をよこしたぞぉッ」
 これで士気が上がる。俺たちも挟み撃ちにされているが、ドーガ軍も挟み撃ちになったのだ。クラインめ、良いタイミングで兵を出す。
「ラムサァスッ」
 このイガイガした、耳障りな声。
「ドーガかッ」
 黒馬。額に大きく斜めに傷が刻み込まれている。戦慣れしている馬だ。速い。こちらに向かってくる。
「反乱軍に寝返るとはなッ」
 戟(げき)。槍と剣が合体した武器だ。三日月の刃が、穂先の両脇についている。突く・斬る・薙ぐの三動作が可能な武器で、殺傷力も高い。
「ドーガ、貴様が将軍に上がるなどッ」
 剣で受け止める。重い。ローレンとは全く違う。ローレンは稲妻のようなキレと清廉さがあった。
「親の七光りの次は、反逆者かッ」
「うるさいッ」
 切り払う。デンコウ、飛び込め。黒馬に怯むな。
「貴様の墓場はここだ、ラムサスッ」
 火花。駆け抜ける。反転。その瞬間、矢が飛んできた。
「ッ」
 首をひねる。ドーガではない。右の敵。すぐさま射落とす。槍。
「ちぃッ」
 避けきれない。受け流すしかない。その瞬間だった。敵が馬から転げ落ちた。背には矢だ。
「不用意だぞ、ラムサスッ」
 若い声。ローレン。
「ドーガが居る、こいつの首をここで落とすッ」
 駆ける。デンコウ、突っ走れ。
「あの髭男か。僕もやるッ」
 白馬も駆ける。かつて刃を交えた者同士が、一人の敵に向かう。
「貴様のようなガキが将軍とは、反乱軍も堕ちたなッ」
 瞬間、火花が散った。

       

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