Neetel Inside 文芸新都
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 ドーガが軍を引き上げた。
 シビレを切らして特攻を仕掛けてくるかと思っていたが、少しは成長したらしい。俺の知っているドーガは、なりふり構わず攻め上げてくる将軍だった。
 そして、俺とローレンもグロリアスの本拠地に帰還した。国境の守備は引き続きクラインで、兵力も増強した。追い返したといっても、エクセラは強大だ。すぐにまた攻めてくる可能性がある。
「ラムサス、話とはなんだ」
 ハンスの部屋だ。戦をする意味、それを聞こうと思った。
 ハンスはグロリアスの統治者だが、部屋の中身は質素だった。食事も衣服も豪華ではない。神王はその真逆だ。
「お前たちは何故戦う」
「唐突だな」
 目を見てきた。ハンスの目は安らぐ。そう思った。
「エクセラは世を平定するために戦をしている。お前たちは何故だ」
「お前たち、とは他人事のようだな。ラムサス、お前もグロリアスの民だぞ」
 思わず、目を伏せる。だが、そんなつもりで言ったのではない。
「私たちは、自由を勝ち取るために戦をしている」
「自由?」
「そうだ」
「どういう意味だ」
「エクセラは世を平定する、とは言っているが、実際は支配するためだ。あの国は独裁政治、いや、恐怖政治で国を治めているのは、お前も知っているだろう」
 恐怖政治。投獄や処刑など、暴力的手段で反対者を弾圧、目的を達成する政治だ。確かに神王は、自分に反対する人間をことごとく処刑していた。だが、政治そのものは無茶な事はしていない。ルースが内政権を握っているからだ。というより、ルースが神王の要望を、民に受け入れられるように工夫していた。それは父の代からで、軍事はカルサス、内政はルーファスと言われていた。
 神王の思想は危険だった。俺の父、カルサスと、ルースの父、ルーファスが病死してから時代は変わった。戦国時代から、世を平定する時代に変わったのだ。そして、俺とルースが実権を握った。その時、神王が俺とルースに説いた思想。
「意に沿わない者は殺せ。それが神王の思想だ。ラムサス、お前もそう言われたのではないのか」
「あぁ。だが、俺はそんな事はどうでも良かった。戦が出来れば、それで良かったのだ」
「良かった、とはどういう事だ?」
「縁故の者が死んだ。そして、戦は終わらせるべきだ、と考えた」
 ランドは俺のために死んだ。あいつは民だった。そして、苦しむのはいつも民だ。戦の時も、平時の時も。少なくとも、エクセラはそうだ。
「お前の言うとおりだ。確かに戦は終わらせるべきだろう。だが、ここで我らが降伏するわけにはいかん」
 確かにそうだ。グロリアスが降れば、エクセラが世を平定する。つまりそれは、神王の独裁政治を許す事になる。今でこそルースは重宝されているが、用が無くなれば左遷、いや処刑も有り得るだろう。そうなると、神王はやりたい放題になる。諌めをする者は居なくなり、神王を担ぐ者が次々と現れる。そして民が苦しむ。グロリアスは、降伏するわけにはいかない。
「だから戦う。エクセラがグロリアスを飲み込むと言うのであれば、それに立ち向かう」
「ハンス、エクセラを滅ぼすべきだ」
 ハンスの目に力が入った。
「そしてグロリアスが、お前が世を平定すればいい」
「ほう、意外だな。私はてっきり、グロリアスに降伏しろ、と言われるかと思っていた」
「神王は民の事など考えていない。世を平定した後、何をしでかすか分からん」
 ハンスがため息をついた。
「私が世を平定する、か。そんな器ではないと思うがな。アイオンらは私を担ぎ上げてはいるが」
「俺がその器にしてやる。エクセラを攻略する。俺はその方法を知っている」
 ハンスならば。俺はそう思っていた。

       

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