Neetel Inside 文芸新都
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親の七光り
竜虎激突

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 全ての準備が整った。俺たち反乱軍、いや、グロリアスが飛躍するための戦がこれから始まる。
「全員、集まったようだな」
 ハンスの部屋。相変わらず質素な部屋だ。すでにアイオン、ローレン、クラインが座っていた。
「アイオン、戦略の説明を頼む」
 アイオンが立ち上がる。
「この戦略の概要は説明しなくても良いだろう。すでに個々の耳に入っているはずだ」
 戦略。辺境に飛ばされた、エクセラに不満を持つ者たちを煽り、決起させる。そのために必要な内通は、アイオンが済ませていた。そして俺がこの戦略の要だった。
「今こそ、グロリアスが飛躍する最大の機会だ。逃すわけにはいかん。よって、グロリアスの全兵力を出す」
 ローレンの表情が変わった。驚いているようだ。
「まず、軍を二分する。総指揮官はハンスさんと俺だ。兵力は半々」
 グロリアスの兵力は約四万という所だった。つまり、二万ずつに分けるという事だ。対するエクセラは二十万。兵力差は大きい。
「厳しい戦になる。兵力差はもちろん、相手方もこの戦で、形勢が大きく変わると睨んでいるはずだからな」
 ルースが居る。すでにこちらの戦略に気付いているはずだ。
「俺の下にラムサスをつける。ハンスさんの下にクライン、ローレン」
 アイオンの下か。アイオンとは始めて戦をする。
「そして、戦略の進め方だが・・・・・・」
 アイオンが地図を開き、説明を始めた。
 アイオン軍は南の辺境に出向き、扇動を行う。ここでは俺が要となる。密書で示し合わせているとは言え、全てが上手く行くとは限らない。ルースが監視を送っているはずだ。それらも踏まえて、扇動を行う。そして、反乱を起こしたエクセラ軍と合流し、一挙に攻め入る。果たして、どこまで行けるか。それはまだ分からないが、グロリアスの領地拡大は確実だ。しかも、かなり大規模な拡大になる。
 ハンス軍は、西の辺境での囮と自国の守備だ。だからこそ、将軍が多い。エクセラは強大だ。まともにぶつかっては、勝ち目が無い。戦力を分散させなければならなかった。そこで、ハンス軍が出る。兵力二万。無視できない数だ。エクセラはハンス軍に対して、戦力を割かなければならない。派手に戦をすれば、目くらましにもなる。
 そして、自国の守備。戦略が上手く行っても、本拠地が落ちれば無意味なのだ。当然、エクセラはこの事も視野に入れているはずだ。この対応も、ハンス軍が担う。臨機応変に動かなければならない。だが、ローレンが居る。守りの上手いクラインも居る。決して、不可能ではないはずだ。
「以上だ。何か質問はあるか」
「アイオンさん、良いですか」
 ローレンだ。
「なんだ、ローレン」
「アイオンさんはラムサスと戦をするのは始めてですが、そこは大丈夫なのでしょうか」
 確かに心配な点だ。人には相性というものがある。
「俺がコイツに合わせれば良い。それぐらいの器量は持ち合わせているつもりだ」
 アイオンが俺の方に顎をしゃくった。
 面白い奴だ。確かにこいつの下なら、上手く働ける。そんな気がする。
「それもそうですね」
 ローレンが苦笑する。
「心配するだけ損でしたよ」
「我がまま言いたい放題のお前とは、もう組みたくないがな」
「大きなお世話です」
 部屋が笑いに包まれた。
 居心地が良い。素直にそう思う。エクセラに居た頃は、こんな気持ちになる事は無かった。戦をして、敵を殺し、強さを確かめる。今思えば、俺の考えている事はそれだけだった。だが、グロリアスに来てから変わった。ギリと話す事が多くなったのだ。他の将軍の話、これからの話、昔の話、ランドの話。グロリアスが世を平定すれば、ハンスが政治を行えば、世に真の平穏が訪れる。だからこそ、今は軍神となる。グロリアスに勝利をもたらす、軍神となるのだ。
 俺は戦が好きだ。だが、それ以上に俺は平穏が好きになっていた。グロリアスに来て、ランドが死んで、俺は変わったのかもしれない。
 ふと窓を見ると、雪が降っていた。どこまでも真っ白な、淀みの無い雪だった。

       

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