Neetel Inside 文芸新都
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 ついに始まる。グロリアス飛躍の戦。ハンスを、グロリアスを俺が押し上げる。
 万単位の進軍という事で、進軍速度は緩やかだった。兵力二万。兵科はバランス良く編成されている。当然、俺の騎馬隊も組み込まれていた。率いるは俺とアイオンだ。
「ラムサス、内通の機は俺が作る。お前は頃合を見て、合図を下せ。タイミングを間違えるなよ」
 厳しい戦になる。俺がエクセラに居た頃は、戦とも呼べぬ戦ばかりだった。圧倒的兵力・武力で敵をねじ伏せてきた。だが、今回の戦は違う。まさに命を賭けて挑む戦だ。
「それは分かっているが、ルースは間抜けではない。妨害が予想されるぞ」
「そのルースってのは、エクセラの有能な内政者だな?」
「あぁ、そうだ」
「で、お前の予想では、今回の戦はルース本人じゃなく、ドーガとかいう頭の悪い軍神が来るんだろ?」
 おそらくそうだ。あいつは内政で忙しい。ルースが抜ければ、エクセラは傾く。戦には出れないはずだ。
「あぁ。おそらくだがな」
「なら問題無い。俺に任せておけ」
 何か妙策があるのか。アイオンの戦は見たことがないが、兵と兵のぶつかり合いよりも、知力を使った戦をする、とローレンから聞いた。計略。何かをたくらんでいるのか。
「反乱者たちは、まず一番にお前の姿を確認したいはずだ。ラムサス、悪いがお前には前衛を担ってもらうぞ」
 構わん。むしろ、その方が好都合だ。反乱者たちは、後衛で縮こまるラムサスを待っているのではない。勇猛果敢な軍神ラムサスを待っているのだ。
「総指揮は俺が執る。ラムサス、お前には前衛の指揮権を与えておくが、俺が指示を出したらそれに従うようにしてくれ」
「あぁ、わかった」
 真冬。寒風が吹きすさび、吐く息は白い。だが、心は燃え盛っていた。
 そして、ついに戦場に到着する。

「陣形を組めッ。エクセラはすでに布陣しているぞッ」
 アイオンが大声で指示を出す。
 ドーガ軍、圧巻だった。兵力八万。それだけではない。守備兵力を合わせれば、十万は堅いだろう。かつては、この大兵力を俺は擁していた。敵として見ると、まさに圧巻だ。対するグロリアスの兵力は僅かに二万なのだ。
 だが、勝つ。アイオンが内通を済ませている。内通が成功すれば、形勢は逆転するのだ。だが、これに対し、ルースはどう手を打っているのか。そしてアイオンは、それをどう食い止めるのか。両者の駆け引き。これが、この戦の命運を分ける事になる。
「前衛、陣は偃月(えんげつ)だ。大軍を恐れるなッ」
 前衛に指示を出す。偃月陣。逆V字型の陣形だ。攻撃力重視の陣形で、総大将が最前列に立つ。この陣は錐の先端のようなもので、総大将が強ければ強いほど、力を発揮する陣形だ。また、兵の士気も上がりやすい。総大将が真っ先に敵とかち合うからだ。相手は大軍だ。出鼻を挫いた方が良い。
 後衛は横陣だった。横一列に兵を並べる、最も一般的な陣形だ。二段に分けている。弓矢を交代で撃たせるためだろう。絶え間なく矢を降らした方が、牽制になる。
「ドーガは横陣か」
 様子見をするつもりだろう。あの陣形なら、即座に他の陣形に変える事もできる。
「ギリ、無理はするな」
 側に居るギリに声を掛けた。
「はい。ラムサス様も」
「俺は心配無用だ」
 ドーガを見る。相変わらずの髭面だ。あいつには借りがある。ランドを殺された。だが、抑える。これは私怨の戦ではないのだ。
 デンコウが興奮していた。久々の戦だからか。ドーガを目の前にしているからか。
「ランド、俺を見守っていてくれ」
 胸に下げてあるランドの短剣に、想いを馳せた。あいつの唯一の形見だ。
 心臓の鼓動が高鳴る。いつでも行ける。
 角笛が鳴った。開戦の合図。
「いけぇッ」
 駆ける。先頭。鞘から剣を抜いた。

       

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