Neetel Inside 文芸新都
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 二千五百。
 当たり前だが、昨日の六万と比べると、いかにも頼りない軍勢だった。いや、軍勢と呼べるのかすらも怪しい。だが、進軍は素早かった。大軍になると隊列が乱れ、間延びしやすい。そして、その分だけ進軍が滞るのだ。
 軍は全て騎馬で固めた。圧倒的な攻撃力と素早さ。そして何より、俺自身が鍛え上げた兵科だ。父が鍛えた兵科ではない。父は、歩兵に力を入れていた。歩兵は全ての基本だ、と父が語っていたのを今でも憶えている。
 対抗心だった。父の兵科ではなく、俺の兵科で、少数で、戦に勝つ。
「ラムサス様、あと半日で関所に到着いたします」
「あぁ、分かった。ギリ、二千五百を五隊に分けろ。内ニ隊は弓を持たせる」
「はっ」
 ギリが駆け去っていく。
 ギリは俺の副官だ。戦は上手くないが、人望があった。そして何より、俺を戦神カルサスの息子としてではなく、ラムサスという一人の人間として見てくれていた。
 反乱軍。一体、どんな相手なのだろうか。進軍中にいくつも情報が入ってくるが、その八割は状況報告だ。相手の情報は数えるほどしか手に入らない。
 相手の軍は、騎馬を中心とした突貫型の軍勢という話だった。つまり、今の俺が率いている軍と同型という事だ。
「間もなく到着いたします」
「よし、陣形を組め。前衛と後衛で二段に構えるぞ。前衛は俺が指揮を執る。後衛はギリ、お前だ」
「はっ」
「右翼、左翼は槍。中央に俺が入る。俺の周りは近衛兵で固めろ。武器は剣だ」
 槍で圧力をかける。前に突き出すだけで、かなりの圧力になるのだ。俺の部隊を剣で固めれば、敵はこちらに向かってくる。向かってきた敵を、右翼・左翼で挟撃、そして中央隊で叩き潰せる。
「見えます。関所です」

「お待ちしておりました、ラムサス様っ」
 関所の指揮官だ。相手はたったの二千五百だと言うのに、必死の形相だ。
 神王は辺境の守りを手薄にしていた。反乱軍をおびき寄せるためなのかもしれないが、こんな無能な指揮官を置くぐらいなら、文官を持ってきた方がマシだと思える。
「状況はどうなっている」
 言いつつ、見晴らし場の方へ向かう。指揮官も、早足で追いかけてきた。
「関所は破損しておりません。ですが、すでに全兵力の半数が負傷兵です」
 情けない話だ。弓を射ていれば、敵は倒せるだろうに。
「敵は?」
「あの原野で陣を取っています」
 指揮官が指差す方向に、陣営があった。障害物はほとんど無い。
「なるほど。すぐにでも動けるわけだな、敵は」
「えぇ、そうです。我らが攻め入ったのですが、騎馬隊で蹴散らされるだけで」
 当たり前だ。関所を守っているのに出てどうする。あれが罠だと気付きもしないのか。
「兵糧は?」
 最も重要な点だ。食料が無ければ、飢えに苦しむ。そして士気に関る。
「蓄えは十分にあります」
「奪われてはないのだな?」
「それはもちろんです」
 さすがにそこまでの愚は犯していないか。
「所でラムサス様、今回は偉く少数のようで・・・・・・」
「二千五百だ。私はこれで十分だ」
 指揮官が目を見開いた。信じられない、とでも言いたそうだったが、放っておいた。
 国が大きくなると、数に頼る。数に頼れば、質が落ちる。先人が身を持って伝えてきた事だ。
「関所の戦える兵を、見晴らし場に上げろ。全員、武器は弓だ」
 本来なら投石器なども戦術として取り入れるが、辺境だった。弓矢しか無いのだ。
「我が軍は関所の前に出る」
 離れ際、敵軍の陣営に目をやった。陣形を組んでいるようだ。援軍を察知したのか。
「敵は無能ではないらしい」
 独り言だった。

「ラムサス様、敵軍が動きます」
 見晴らし場からの声。
「ギリ、矢の準備をさせろ」
「はっ」
 ギリが駆け去る。同時に大声で指示を出し始めた。
 土煙。
「槍を突き出せッ」
 同時に剣を抜く。一気に突撃してくるか。指揮官は勇猛果敢らしい。
「無謀とも取れるがな」
 独り言を呟いた。騎馬が見えた。突撃してくる。
「矢を放てッ」
 瞬間、敵軍から矢の雨が降り注いだ。
「なんだとッ」
 迫り来る矢を剣で切り払った。この程度、造作もない事だ。だが、敵の行動が早い。こちらの矢などお構いなしで突撃してくる。
「右翼・左翼、槍で牽制しろ。中央隊、前へ出る」
 剣を天に突き上げた。
「いけぇッ」
 剣を振り下ろす。右翼・左翼が飛び出した。続いて中央隊も突撃する。
「デンコウ、俺と一緒に敵を叩き潰すぞッ」
 愛馬デンコウがいなないた。足が速い。軍の先頭を突っ走る。敵。顔がはっきりと見えた。
「邪魔だッ」
 剣を横に薙ぐ。首が宙を舞った。すでに矢の牽制は無い。敵味方が入り乱れているのだ。逆に犠牲が出る。
「後衛は何をしてる」
 敵の槍を叩き斬り、身体をアジの開きのように真っ二つにした。
 関所の兵は弓矢を構えている。一度下がり、矢で数を減らすべきか。
「ちぃッ」
 槍が頬を掠めた。避け際に両腕を斬り飛ばす。
 一度下がる。いや、無理だ。敵の動きが思った以上に良い。関所に取り付かれれば、騎馬は使えない。
「兵科をミスったか。前衛、固まれッ」
 敵が陣形を整えている。その隙に、こちらも陣形を変えるのだ。
「クソッ。完全に後手だ」
 車輪のように陣形を組んだ。騎馬だからこそ出来る陣形だ。グルグルと円を描きながら、敵の前衛を剥ぎ取る。順番に攻撃し、徐々に数を減らしていくのだ。
 一度手合わせして分かったが、敵軍は個々の能力も高い。すでにこちらの兵、数十は死に、百少しの負傷兵が出ている。
「だが、まだこれからだ」
 円を描きつつ、敵の前衛へ突撃をかけた。

       

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