Neetel Inside 文芸新都
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 重い。だが、ランドを殺された。ランドが味わった痛みを思えば、こんな物。
「ハハ、ラムサス。ランドとか言ったか、あの従者」
 鍔迫り合い。目と目が完全に合っている。ドーガの目は殺意で満ち溢れていた。
「矢で射た時は最高だったよ。ぐったりとして、ラムサス様、だもんなぁ」
 血が煮えたぎった。怒りが全身を駆け巡る。
「馬にも乗れないヘタレが戦場に出やがって。お前の従者は糞以下だよ。ハハッ」
「貴様ぁッ」
 切り払う。ランドを、ランドを。
「侮辱するなぁッ」
 剣を薙いだ。戟の刃をすり削るがごとく、火花が激しく飛び散った。
「ラムサス、俺は貴様のせいで出世できなかった。強いのに、戦も上手いのに、貴様が、貴様が居たせいで出世できなかった。親の七光りが。父親が居なければ、何も出来なかった屑がッ」
 戟。身体をひねってかわす。強くなっている。前の戦の時よりも。憎しみが、怒りが戟に乗り移っているのが解る。
「お前を出世させれば、国が傾く。貴様は自分が悪だとわからないのかッ」
 違う。強くなっているのではない。殺意が増幅しているのだ。威圧。ドーガはそれを覚えた。人にはそれぞれ雰囲気というものがある。自信などが良い例だ。それを前面に押し出す事で、人に自分をより大きく見せることができる。だが、ドーガをまとっているそれは。
「殺意。貴様、それをどうするつもりだッ」
「全てはお前のせいだ、ラムサスッ」
 戟が飛んでくる。剣で受け流すが、不安感が全身を包み込んだ。お、俺が、俺がドーガに怯えているのか。そんな馬鹿な。
「どうした、ラムサスッ。反乱軍に寝返ってから、剣が鈍くなったんじゃないのか? そのまま死ぬか? 元軍神ッ」
 さばく。だが、反撃できない。反撃すれば、腕が、いや、首が飛ぶ。ち、違う。恐れているのだ。俺がドーガを。
「貴様、殺意に憑りつかれたかッ」
「違う、手に入れたッ。貴様を殺す術をッ」
 横から矢。仰け反ってかわす。さらに槍が飛んできた。剣の柄尻で刃を止め、力任せに槍ごと敵を引き寄せた。戟が飛んでくる。その敵を盾にした。首が宙を舞う。
「ラムサス様、戦況が変わりますッ。敵の本隊がッ」
 ギリの声だ。戦況。見失っていた。ドーガに圧されていた。確かに敵の中衛が合流している。ドーガが旗を振らせていたのだ。下がって、陣を組みなおすべきだ。鶴翼か魚燐。守りに徹した方が良い。
 ドーガのこの殺意。ランドを殺された怒りすらも飲み込んでくる。この男、やはり危険すぎる。神王、いや、ルース、一体何を考えているのだ。ドーガすらも手駒として利用しているのか。利用しきれるのか。
「ラムサス、死ねぇッ。ここで死ねッ。俺に首をよこせぇッ」
「ドーガッ」
 激突。全てを喰い殺さんばかりのこの猛虎を、ここで何とかしなければ、グロリアスごと飲み込まれる。
「ラムサス様、限界ですッ。指揮をッ」
 その前にこいつを。こいつを何とかしなければ。
「ラムサス様ッ」
 クソッ。
「旗を振らせろ、横陣。迎撃しつつ下がれッ」
 戟を押す。力勝負なら互角。技量も上だ。だが、殺意で全てを覆される。危険だ。ドーガは危険すぎる。
 騎馬隊が陣を組みなおした。少しずつ下がる。歩兵と合流すれば、何とかさばける。そこまで下がれば、矢の援護も入るのだ。
「アイオン、早くしてくれ。持ち応えられんッ」
 ドーガが迫ってくる。くそ、怯むな。ランドの痛みを思い起こせ。身体に、心にそれを刻み込め。
「ラムサス、ここで死ねッ」
 憎悪。ドーガが大きく見える。恐怖するな、見据えろ。戦え。ランドの仇を取れ。
「首をよこせぇッ」
 戟。デンコウが勇んでいる。デンコウ以外の馬なら、尻尾を巻いて逃げてもおかしくない。ドーガの黒馬にも殺意が乗り移っているのだ。
 ドーガと直接、刃を交えるのは不利だ。兵と兵のぶつかり合いなら勝てる。その証拠に、前半戦は圧倒的にこちらが有利だったのだ。
 逃げ腰になるな。自らを奮い立たせろ。俺はラムサスだ。落ち着いて対処すれば、何の事はない。
「デンコウ、お前の勇気をッ」
 反撃する。戟と剣が交わり、火花が何度も飛び散った。下がる。少しずつだ。歩兵が見えてきた。槍を出させれば。
「踏み潰せぇッ。ラムサスは俺様に怯えてやがるぞッ。臆病者の指揮する兵だ、踏み潰せッ、殺しまくれッ」
 騎馬隊が突撃してきた。何てことだ。どうする、歩兵が蹂躙されるぞ。
「アイオン、早くしてくれッ」

       

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