Neetel Inside 文芸新都
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 くそ、エクセラがここまで強大とは。兵力八万、伊達ではない。ドーガの突撃号令で、その圧力は抗し難いものになった。
 ドーガが指揮する軍は、主の心そのものだ。ドーガの心境によって、兵の力が、軍の動きが変化する。良い意味でも悪い意味でも、軍とドーガは一体化していた。今のドーガは、強気を超えた強気だ。俺と刃を交え、奴は自分が上だと確信した。そして、それは事実だ。奴は憎しみと殺意を取り込み、それを力に変えた。
 ランドが死んでから、俺の中で何かが消えたのか。闘志か、殺意か。いずれにせよ、今の俺ではドーガに。
「ローレン、お前が居れば」
 思わず呟く。
 小僧と馬鹿にしていたが、あいつは不屈の精神を持っていた。俺が一騎討ちで勝利した時も、命乞いなどして来なかった。共に戦った時も、挟み撃ちという絶望的状況の中で、自ら先陣を切ってドーガ軍に突撃した。
 勇気。ローレンはそれを持っていた。俺には無い。勇気など持たずとも、俺は敵を殺せた。殺意と闘志だけで、敵を殺せたのだ。俺は強い。だが、ドーガは、戟を振り上げ、俺を殺そうとしているこの男は、俺よりも。
「くそ、認めるものかッ」
 戟を受け止める。切り払った。
「そんな軽い剣で、俺を殺せると思ってるのか、反逆者がッ」
「黙れッ、お前など、お前などッ」
 敵の騎馬隊の圧力が強烈過ぎる。今は俺の騎馬隊が受け止め、何とか踏みとどまっているが、相手は大軍だ。敵軍がもう一枚、覆いかぶさってきたら、一気に瓦解する。踏み潰され、歩兵が皆殺しだ。その勢いで後衛も飲み込まれるだろう。何とかしなければ。だが、どうすればいい。
「くそッ、踏みとどまれッ、ドーガ軍を調子付かせるなッ」
 無理だ。敵は大軍なのだ。俺が士気を上げなければ、踏みとどまる事など出来やしない。
 ドーガだ。ドーガを殺しさえすれば、形勢逆転できる。
「ラムサス様、ここは退くべきですッ。騎馬が次々と殺されていきますッ」
 ギリ。確かに言うとおりだ。だが、退けばアイオン軍が踏み潰される。そして戦に負ける。それだけはできない。
「ギリ、アイオンの旗を見ていろッ。あいつなら今の状況に気付いているはずだッ。すぐさま動けるように見ていろッ」
 これに賭けるしかない。兵力も無い、総大将を討つ術も無い。士気もガタ落ちだ。かろうじて、陣形を保持しているが、これも時間の問題だ。アイオンに全てを賭けるしかない。
「ラムサァスッ」
 戟。速い。いや、気を取られていた。急所だ。まずい、死ぬ。
 瞬間、デンコウが飛び込んだ。それに身体が反応する。脇をかすめる戟を剣で受け流した。同時に恐怖、動悸が襲ってきた。
「はぁはぁッ、な、なんだ、くそッ」
 なんだ、この感情は。父さん、何なんだ、これは。ハンス、ローレン。
「しぶとい奴が、死に腐れッ」
「うあぁぁッ」
 剣を薙ぐ。戟を切り払った。なんだ、何が起きている。まずい、混乱している。抑えていた全ての感情が解き放たれた。ドーガに、ドーガに屈する。
「俺は、俺はッ」
 槍。叩き斬る。その敵の首を薙いだ。身体は動く。矢。身体をひねってかわす。身体は動くのだ。だが、何かがおかしい。
「ギリーッ」
 叫んだ。どうすれば良い。どうすれば。
「腰抜けがッ、そのまま踏み潰されろぉッ」
 ドーガが、巨人に見えた。殺される。

       

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