Neetel Inside 文芸新都
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「あのデクの棒がッ」
 思わず机を殴りつけた。
「ど、どうか冷静に、ルース様っ」
「部屋から出て行け」
「え、は?」
「ハラワタが煮えくり返っている。出て行け」
「は、はいっ」
 ドーガが反乱軍に敗れた。あのサルが。大口を叩くだけ叩いて、敗北だと?
 何をどうしたら負けると言うのだ。兵力差は六万。内通も防いだ。兵の質も悪くない。何をどうしたら負けるのだ。あの髭男の脳みそはどうなっている。
 発狂しそうだ。親指の爪を噛みながら、報告書を睨みつける。
「火計だと。こんな古臭い計略に掛かったのか、あの屑めッ」
 下準備をしていたはずだ。燃えやすいもの、油、もしくはその両方が戦闘中に配されたはずだ。何故、それに気付かない。相手は僅か二万の兵力なんだぞ。計略を仕掛けてきて当たり前だろう。あの髭男、こんな事も見抜けないのか。無能すぎる。ゴミだ。
「役に立たない人間など、大きな生ゴミも同然だ。無様に帰国してきてみろ、処刑してやるッ」
 怒りが収まらない。何故、兵力差が六万の戦で、完膚なきまでに敗れるのだ。理解ができない。しかも敗因が火計だ。フザけるのも大概にしろ。兵と兵のぶつかり合いだけで、戦が終わるわけがないだろう。何故、警戒できない。無能すぎる。あまりにも。
「ラムサスめぇっ」
 やはり軍神の名は伊達ではない。兵力差を恐れず、果敢に戦い抜いたという話だ。並の将軍なら、尻尾を巻いて逃げ出してもおかしくない。それをあいつは、真正面からぶつかった。
 だが、火計を仕掛けてきたのはラムサスではないはずだ。おそらく、反乱軍の参謀。
 冷静に分析する。
 ドーガはどうしようもない馬鹿だ。粗暴で暴れるしか脳のない動物だ。反乱軍の参謀が、これを知っていれば、全てが繋がる。
 第一段階として、ラムサスとドーガを本気でぶつかり合わせる。前衛に回した兵力にもよるだろうが、やがて押されるだろう。いかにラムサスであろうとも、兵力差六万は大きい。すると、ドーガは調子付く。ラムサスを普段から快く思っていなかった奴だ。躍起になる。
 ここを逆手に取られた。あとは火計の下準備を終わらせ、頃合を見てラムサスを下がらせれば、もう火を入れるだけだ。ラムサスという名の餌に、髭男は食いついているのだ。そして内通。どのタイミングかは分からないが、時期は見計らっただろう。
 侮れん。私がドーガを向かわせた理由に、ラムサス相手ならば力を発揮する、というものがあった。実際に奴は力を発揮した。だが、ここを逆手に取られたのだ。
「この私を出し抜くとは・・・・・・っ」
 ふと机に置いてある鏡を見た。自分の顔。怒りで目が血走っている。口の端から血が流れていた。唇を噛み切ったのか。かすかに鉄分を味として感じた。
 ラナクを呼び戻すしかない。せっかく、ラナクが緒戦に勝利したというのに、あの髭が。あの無能が。だが、今から呼び戻すとして、ラムサスを止める事が出来るのか。ラナクではラムサスの相手は無理だ。戦のレベルが違いすぎる。しかも、反乱軍の参謀まで付いているのだ。頼みの綱である計略も、見破られる可能性が高い。
「私が出るしかあるまい、不本意だがな」
 部屋を出た。神王に、豚に事情を説明する。
 あの豚の事だ。内政がどうのと文句をつけてくるだろう。しかし、そんな余裕などない。本国を攻め落とされれば、全てが終わる。私の野望が終わってしまう。
「諜報員、居るか」
 歩きながら呼んだ。私の諜報員は、常に身辺に居る。
「はっ、ここに」
「ラナクに使いを送れ。私が戦に出る。イドゥンにて合流せよ、とな」
「はっ」
 イドゥン。父ルーファスと、戦神カルサスが築いた砦だ。かつては、あそこを拠点にして国土を広げていった。エクセラの喉元でもあり、重要拠点のひとつだ。あそこを落とされれば、エクセラは一気に衰退の道を辿ることになる。だが、それだけに守りに適している。落とすには三十万の兵力を要するといっても、過言ではない。
 反乱軍はラムサスの糾合により、兵力を次々と増幅させていた。報告を受けている現段階で、すでに七万。これはさらに増えるだろう。それだけ、エクセラ内で反乱分子が潜んでいたという事だ。しかも、いつかこの時が来るかのように、反乱分子は各々で兵を隠していたのだ。エクセラの兵力は二十万だが、ラムサスの糾合で集った兵を計算に入れると、兵数が合わない。あの豚が。全ての原因は、あの豚の無能さにある。
「私が王になるしかない」
 あの豚が文句をつけて来たならば、殺してやる。私の野望は、ここで潰えてはならないのだ。

       

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