Neetel Inside 文芸新都
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「そうか、ラムサス達が」
 使いの者が報せを持ってきた。陣屋。まだローレンは伏せっている。
 アイオンとラムサスは勝っていた。エクセラ軍を火計で粉砕し、そのまま破竹の勢いで攻め上がっているという。ラムサスの糾合で兵力は次々と膨れ上がっており、それは十万に達しようとしていた。これは予想外だった。糾合してもせいぜい四万程度だろう、と読んでいたからだ。それほどまでに、エクセラは反乱分子を内包していたということか。
 しかし、ラムサスの人望は大したものだった。さすがに軍神と呼ばれていただけの事はある。親の七光りだと馬鹿にされていたという話だったが、やはり軍神は軍神なのだ。名声は人々の心に訴えかける最大の武器だ。 
「それで敵の動きは?」
「イドゥンで我らを阻むだろう、とアイオン様が」
 エクセラの喉元だ。ここを落とせば、エクセラの首に手を掛けられる。だが、それだけに守りは堅い。山々に囲まれた地形で、逆落とし(山の斜面を利用しての突撃)の威力は侮れない。糧道などもきちんと整備されている。隙はほとんど無い。
「落とすつもりなのか?」
「出てくる将軍によるかと思われます。ここはラムサス様の助言が鍵になるのではないでしょうか」
 ラムサスはエクセラの将軍だった。それだけに、敵の情報には詳しい。まだエクセラを離れてから、そんなに時間も経っていないのだ。
「飛躍の時が来ているな。まさに」
「はい。アイオン様もイドゥンは取れずとも、領地は今の三倍になる、と仰られておりました」
 領地が今の三倍になる。これはエクセラと対峙する事が可能になるという事だ。兵力も二十万は養えるようになる。エクセラと並ぶ事が出来る。そこからは長期戦になるだろう。互いに人材を確保し、何十年と先を見越しての戦いになる。
「それと、もう一つ重要な情報がございます」
「なんだ?」
「エクセラに潜り込ませている諜報員からの情報なのですが、内政者のルースという者が神王を殺害したそうです」
「なに?」
 耳を疑った。
 どういう事だ。内政者。ラムサスの友人なのか。神王を殺しただと。確かに神王のやり方はまずかった。神王のせいで、今エクセラは危機に陥っていると言っても良い。いずれは、誰かに殺されていたはずだ。だが、今のタイミングで殺すというのはどうなのか。余計な混乱を招く恐れがある。
「それで、どうなった?」
「ルースが王に君臨しました。そして驚く事に、見事なまでに人心を掌握しております。民衆は神王が死んだ事に対しても、新たな王の誕生に対しても、動揺を見せておりませぬ。むしろ、喜んでいると捉えた方が良いかもしれません」
「うぅむ」
 思わず唸った。
 国の頂点が消えた。それなのに、揺れ動いていない。最初から根回しをしていたとしか考えられない。そして、ルースという男が王として君臨し、民衆はそれを喜んでいる。それほどまでに、神王の人望は地に堕ちていたのか。いや、ルースの政治能力の高さを評価すべきだ。おそらく、この男がエクセラの政治権を握っていたのだろう。民にも人気だったはずだ。だが、人を殺して頂点に立つ男だ。それを差し引いても、民衆はルースは支持したのか。
「まさに乱世だな」
 戦国時代に戻ろうとしている。群雄割拠をした時とは違う形の戦国時代だ。今まではエクセラの頂点が神王だったからこそ、付け入る隙もあった。だが、それが入れ替わったのだ。ルース。どういう人間なのか。
「それでラナク軍も進軍を中断したのか」
 すでにラナクは軍を引き上げていた。罠地帯に足を踏み入れる前に、軍を下げたのだ。ひどく慌てている様子だったが、追撃はしなかった。するだけの余力も残っていない。しかし、これで色々と見えてきた。
「ラナク軍に監視を送った方が良いな。おそらく、ラナクはイドゥンに向かっている」
 私の予想が当たっていれば、ルースも戦に出てくるはずだ。戦を利用して、さらなる人望を獲得するつもりだ。政治も戦もできる。まさに最強だ。それを得ようとしている。民衆の人気は絶大な物になる。
「それと、ラムサスに助言を頼みたい」
 私はグロリアスの君主だ。ルースはエクセラの君主となった。だからこそ、見えてくるものがある。統治者として見えてくるもの。ルースをこれ以上、波に乗らせるわけにはいかなかった。

       

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