Neetel Inside 文芸新都
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 兵力十一万。圧巻の一言だ。
 みな、俺の糾合の元に集った兵たちだった。エクセラで不満を抱え、くすぶっていた者たちだ。
「お前の人望がこれ程とはな、ラムサス」
「アイオンか。俺自身も少し驚いている」
 俺の人望だけで集まった兵たちではない。アイオンの火計での勝利と、神王の人望の堕落が合わさって、この結果だった。ルースもこれは予想できなかったはずだ。
 世を平定できるかもしれない。この勢いが続けば、イドゥンも落とせる。イドゥンを落とせば、エクセラを落としたも同然だ。だが、そう上手くは行かないだろう。ルースが何らかの手を打ってくると考えられる。しかし、神王がそれを許すだろうか。神王は器量が小さく、思慮も狭い。エクセラの癌と言っても良い。その癌が、ルースの行動を阻むはずだ。そこから、イドゥン攻略の糸口も見えてくるだろう。
「アイオン様、ハンス様から使いです」
「ハンスさんからか。わかった、通せ」
「はっ」
 ハンス達は戦に負けていた。何重もの伏兵に蹂躙され、グロリアス軍は窮地に陥ったという。その中で、ローレン軍は壊滅した。敵の指揮官は誰なのか。詳しい報告は聞いていないため分からないが、戦の上手い人間なのだろう。
 そのハンスからの使い。国境を越えられ、国土を侵されたのか。アイオンが、使いの者からの話を真剣な表情で聞いていた。

「ルースが、神王を」
「俺も信じられんな。主を殺すとは。狂気じみてるぞ」
 ハンスからの使いは、エクセラで革命が起きた事を伝えに来ていた。
 神王が死んだ。そして、頂点が入れ替わった。ルースが神王を殺し、王となったのだ。俺は信じられなかった。あいつは神王に忠誠を誓っていたのだ。俺は神王に嫌悪感を抱いていたが、あいつはそれを不敬と罵ってきた事もあった。
「ラムサス、お前の友人ってのは、まさかとは思うが」
「ルースだ。だが、あいつは神王に忠誠を誓っていたはずだが・・・・・・」
「お前も馬鹿正直な奴だな。そんな証拠がどこにある。忠誠を誓っていたふりをしていただけじゃないのか」
 忠誠を誓っていたふり。有り得る話だが、ルースはそんな奴ではなかったはずだ。あいつは上からの命令は絶対服従でこなしていた。しかし、ルースが神王を殺し、王となっている。事実が全てを物語っていた。
「それと、お前に伝言だ」
「伝言? ハンスからか」
 アイオンから伝言を聞く。
 ルースが王となった事により、寝返ってきたエクセラ軍が不穏な動きを見せるかもしれないという。確かに有り得る話だ。寝返る最大の要因であった神王が死んだのだ。それを防ぐために、俺が一芝居を打てという話だった。
「俺が義だとか仁だとかを語るのか」
「仕方ないだろう。この戦での最後の仕事だ。やってこい」
「口ではルースに勝てんぞ」
「お前は大義を語れば良いだけだ」
 気の重い仕事だ。俺は口が回る方ではないのだ。だが、昔と比べて、考え方そのものは変化していた。戦ばかりやっていた荒武者の頃とは違う。そう考えれば、やれない事ではなかった。
「俺は砦を築いておく。寝返ったエクセラ軍を率いて、お前は地盤を固めて来い」
 アイオンとグロリアス軍は同行しない。つまり、旧エクセラ軍のみでルースと対峙するという事だ。俺も含めて、旧エクセラ軍は試されていると言って良い。グロリアスにとっては、大変な賭けだ。
 確かに、アイオンの狙い通りに上手く行けば、地盤をより強固にする事ができるだろう。しかし、失敗した時の代償も大きい。最悪の場合、寝返ったエクセラ軍が全てルース側についてしまうのだ。だが、裏を返せば、その程度で軍が揺れ動くのならば、最初から負けは確定しているという事だ。意思の強さ、それを測る為にも、ルースとの対峙は必要な事だった。
 ルースとは、半年振りになるのか。かつては、軍事と内政を二人で取り仕切っていた。良い友人でもある。エクセラを追放され、グロリアスに降った時から、いつかはこの時が来ると考えていた。敵として出会う。これが宿命ならば、俺は受け入れる。
「しかし、グロリアス飛躍の最後の戦いが、舌戦になるとはな」
 馬上で、俺は苦笑した。

       

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