Neetel Inside 文芸新都
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親の七光り
二人の親の七光り、その進む道

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「陣を崩すな、槍を突き出せッ。敵も同じ兵科だぞ、当たり負けるなッ」
 騎馬隊が駆ける。丘の上で指揮を執っているせいか、デンコウが勇んでいた。戦列に加わりたい、と身体で言っている。
「デンコウ、落ち着け。これは調練だ」
 瞬間、騎馬隊が突き崩された。錐の先端の如く、陣を貫かれたのだ。攻撃力重視である逆V字型の偃月陣を貫いてきた。
「鋒矢の陣かッ」
 ↑型の陣形。突破力に優れている。これを機に一気に陣は乱れた。白旗を上げさせる。
「さすがと言うべきか」
 丘を駆け下りる。
「ラムサス、騎馬の扱いがなっとらん」
 白い毛が混じったあごひげを風になびかせ、壮年の男が兜を脱いだ。
「申し訳ありません、バリー将軍」
 反乱軍・グロリアスは、一気に飛躍した。僅か四万という兵力で、強大なエクセラを打ち破ったのだ。すでに兵力は二十万に達している。エクセラから数多くの兵が反乱軍に寝返ってきており、このバリー将軍もその一人だった。
「そなたの父、カルサス様はどの兵科を使わせても強かった」
 バリー将軍は父の代からの将軍で、騎馬隊の指揮を執っていた。幼少の頃、よく戦術を叩き込まれたものだった。
「父と私は違います」
「フハハ、お前は昔から、父と比べられるのを嫌がっておったな」
「武芸ならば、父にも負けませぬ」
「戦は一人でするものではない。エクセラのドーガも、武芸ばかりの男だった」
「分かっております。ですが、将が強くなくては、兵はついてきませぬ」
「分かった、分かった。ワシが悪かったわい。だが、騎馬の扱いはもっと上手くならんとな」
 バリーが声をあげて笑った。
 しかし、さすがに兵の数が五万を超えると、指揮系統に乱れが生じるようになっていた。数千ならば、誰とやっても負ける気はしないが、万単位、それも五万を超えてくると話が違ってくる。とにかく動きが遅いのだ。丘の上から指揮を執っていたが、これなら自らが先頭に立って指揮を執った方が良いだろう。そして俺はそれしか出来ない男でもあった。
「やはり、お前は自らが先頭に立った方が力を出し切れるらしいの。カルサス様は指揮が得意だったが」
「私は武器を振り回していないと、戦況を確認できません」
「馬鹿な事を」
 互いに笑う。
 すでに、バリーを始め、エクセラの旧将軍らはハンスと顔を合わせていた。そしてすぐに意気投合し、バリーらは俺たちに力を貸したい、と申し出てきた。これはありがたい事で、俺を含めてグロリアスには若い将軍が多い。つまり、歴戦の将軍という存在が欠落していた。アイオンやローレンは天才という言葉でそれを補っているが、やはり限界がある。兵たちの心の拠り所としては、頼りなさがあった。
「ラルフの方は終わったかの」
 槍術のラルフ。若い頃は槍の名手で、槍を使わせたら右に出る者は居ない、と言われていた。しかし、戦で左腕を失ってしまった。俺がまだ子供の頃の話だ。それからのラルフは、隻腕で戦を駆け抜けていた。
「ローレンは天才です。いかにラルフ将軍であろうとも、勝てはしませんよ」
「ラムサス、お前はどうだったんだ?」
「何がです」
「そのローレンとの勝負だよ」
「私は勝ちましたが」
 馬の差でだが。
「なら、ラルフは負けん」
 どういう意味だろうか。
「ラムサスよ」
「何です」
「お前とローレン、ワシとラルフで模擬戦をやるかの」
「別に私は構いませんが」
「うむ、それじゃ決まりじゃ」
 歴戦の将軍と、次代を担う将軍での調練。兵の質も、将の質も高められるだろう。
 そして何より、俺の血が騒いでいた。

       

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