Neetel Inside 文芸新都
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「ラルフ将軍は強い。だけど、僕の相手じゃなかった」
 全身、泥だらけのローレンが半べそをかいていた。
「さすがに歴戦の将軍だな」
 ローレンには悪いが、その姿は少し笑える。何度も何度も立ち向かい、その回数だけ倒されたのだろう。
 しかし、ローレンの武芸の腕は確かだ。そのローレンをこうも打ちのめすとは、さすがにラルフ将軍だった。
「その泥の借りは、この模擬戦で返せばいい」
「わかってる」
 すでに陣を組んでいる。五万対五万。その半数を俺とローレンで分けた。俺は騎馬隊の指揮を、ローレンは歩兵と弓兵の指揮を執る。エクセラの頃から、俺はずっと騎馬隊を動かしてきた。先ほど、バリー将軍の騎馬隊に打ちのめされたが、今度は負けん。俺自身が戦場に居るのだ。
「ラムサス軍、先ほどの屈辱を晴らすぞッ」
 兵の喊声。士気は悪くない。行ける。
「ローレン軍、ラルフ軍だけには負けるなッ」
 こちらも兵の喊声だ。声が若い。ローレンは若い兵に人気があった。天才は伊達ではない。
「ラムサス、バリー将軍に勝てるのか?」
「正直な所、やってみないと分からん。だが、負けるつもりはない」
 角笛。開戦の合図だ。
「騎馬隊、武器を構えろッ、突撃態勢ッ」
 剣を天へと突き上げる。
「ラムサス、やめろ。それじゃ、バリー将軍の思う壺だ」
「黙って見ていろッ」
 剣を振り下ろす。そして同時に駆けた。疾風が全身を掠める。
「このまま一気に突っ込むッ」
 木剣を構えた。鉛の輪をいくつか付けている。普通の木剣だと、軽すぎるのだ。勝手が違って使いにくい。
「デンコウ、駆けろッ」
 速度を上げる。バリーが後方で指揮を執っていた。やはりあそこを目指したいが、順序がある。
 一人目、すぐさま馬から落とした。その瞬間、敵の陣形が変わった。動きが早い。鶴翼。V字型の陣形だ。誘い込むつもりなのだろう。だが、それには乗らない。
「騎馬隊、下がれッ」
 横陣を維持しつつ、歩を揃えて下がる。反転はしない。背を見せる意味がない。その間、バリーは騎馬を右翼と左翼に分けていた。瞬間、空いた中央から矢が飛んできた。
「弓兵かッ」
 剣で払い落とす。だが、周囲の兵は次々と馬から落とされていく。
「鶴翼は囮だったのか、くそッ」
 歩兵と合流したい。盾で矢を凌ぐべきだ。だが、そんな余裕はない。間隔が空くことなく、矢が乱舞しているのだ。
「騎馬隊、鋒矢の陣ッ。防御力の高い兵が先頭だ、最前衛は俺がつとめるッ」
 兵が矢で落とされながらも、↑型の陣に組みなおす。同時に、敵の矢が集束してきた。俺に狙いが絞られている。望むところだ。全て払い落としてやる。
 瞬間、敵の騎馬隊が突っ込んできた。右翼・左翼からだ。中央を空け、一気に突っ込んでくる。その空いた中央からは矢の乱舞だ。矢を払うのに精一杯で、騎馬隊に対応しきれない。まずい。
「踏み潰される、ローレンッ」
 叫んだ。瞬間、後方から矢が飛んできた。両脇を掠めて矢が飛んでいく。次々と敵の騎馬が落ちていく。
「鋒矢の陣なのが救いだ。僕に任せろッ」
 次いで歩兵が前進し始めた。矢は上空に放たれている。放射線を描きつつ、敵の後衛へと降り注いでいるのが、こちらからでもはっきりと分かった。
 敵の矢の勢いが衰えた。
「歩兵、駆けろッ」
 旗。歩兵が一気に駆け出す。だが、敵の騎馬が陣を組みなおしていた。歩兵が蹂躙される。
「ラムサス軍、右翼と左翼に分かれろッ。ギリ、左翼の指揮を任せるッ」
「はっ」
「歩兵を援護だ、駆けろ、いけぇッ」
 このまま一気に踏み潰す。バリー、借りを返させて貰うぞ。

       

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