Neetel Inside 文芸新都
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 駆け抜ける。敵の騎馬を抑えれば、ローレンの歩兵が敵陣に切り込めるのだ。そこまで行けば勝てる。
「ラムサス、やはり槍は合わなかったか?」
 隻腕。右手に槍。
「ラルフ将軍かッ」
「ふん、若造がやるようになった。だが、将を倒されれば軍は瓦解するぞ」
 駆けてくる。良いだろう。やってやる。そしてそれは
「俺も望む所だ。デンコウ、駆けろ。ラルフを打ち倒すッ」
 方向を変える。ラルフへと一気に駆けた。陣形は崩さない。
 ギリの方を見た。騎馬をニ隊に分けているのだ。上手くやっている。心配しなくても良い。
「騎馬隊、ラルフ隊に突撃するぞッ。怯むな、喊声をあげろッ」
 喊声。天を突き上げる。
「ローレンという若造も良い筋だった。童の頃のお前と、よく似ていたぞ」
「俺はローレンとは違うッ」
 剣。激突。火花が四散する。
「騎馬隊、槍を突き出せッ。押し上げろッ」
「力任せで勝てると思うな」
「俺はそれで勝ってみせるッ」
 ラルフの槍。速い。いや、隻腕という事を考えると速すぎる。ローレンの稲妻の突きと見比べても、遜色が無い。だが、見える。かわせる。
 さらに槍。肩を削った。その隙は見逃さない。
「動きが荒い。一撃目を避けたからといって、攻撃に転じるのは浅はかだ。昔、何度もそう教え込んだだろう」
 瞬間、槍の柄でなぎ払われた。肩は囮か。姿勢が崩れる。デンコウの手綱を握り締め、何とか踏ん張った。
「終わりだ、ラムサス」
 槍。ラルフめ、俺を見くびり過ぎだ。もうガキの頃とは違う。今、それを見せてやる。
 飛んできた槍を剣で跳ね上げた。ラルフの肩が上がる。
「槍は落とさないか。さすがですよ、ラルフ将軍ッ」
 剣を突き出した。ラルフが身体をひねる。くそ、さすがに良い勘をしている。普通ならば、あれで心臓を突いて終わりだ。
「腕を上げたな、若造」
「将軍は逆に落ちたのでは? ちゃんと調練を積んだ方が良いかと思いますが」
「減らず口が」
 火花。やはり強い。ローレンが勝てなかったのも頷ける。ピンポイントで急所へと槍が飛んでくるのだ。しかも、その時で一番避けにくい急所を狙ってくる。この類の技術は、頭で分かっていても瞬間的には出来ない。経験が物を言う部分だ。さすがに歴戦の将軍だった。これで両腕ならば、俺はもう馬から落ちている。実戦なら死だ。隻腕でこれほど強いとは。年齢も四十を超えているはずだ。
 周囲を確認する。ローレンの歩兵が、バリーの陣へと食い込んだ。バリーの武芸はさほど脅威ではない。指揮で力を発揮する男だ。バリーの所まで押し込めば、ローレンが勝つ。そして戦に勝てる。
「下がった方が良いのでは、ラルフ将軍。ローレンは詰めの甘い男ではない」
 剣と槍が激突する。
「俺はバリーを信じる。まだまだ若造には引けを取らん。俺もバリーもな」
 瞬間、バリーの歩兵・弓兵が十隊に分かれた。それぞれがそれぞれの方向へ四散している。何をする気だ。バリーの居る隊は、ローレンへ向かって前進している。あのままかち合えば、ローレンが叩き伏せるだけだ。
 バリーとローレンがかち合う寸前、四散していた十隊が一斉にローレンへと矢を放った。全方面からの矢嵐である。ローレンの歩兵が次々と倒れていく。弓兵が決死に迎撃しているが、攻撃方向がバラバラのために統率が取れていない。
 立っている歩兵が僅かになった時、ローレンが白旗をあげた。
「あの馬鹿」
「どうする、ラムサス。続きをやるか?」
「ラルフ将軍との一騎討ちなら望みますが、兵の調練ではすでに勝ち目はありませぬ。降参です」
 まだまだ俺は青い。悔しさと共に、それを噛みしめた。

       

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