Neetel Inside 文芸新都
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 エクセラは、かつての栄光を取り戻しつつある。内政をこなしながら、私はそう感じていた。
 ラナクに命じ、まずは人を集めた。身分や年齢は問わない。人が国を成すのだ。これは急務だった。最初の一年は募集をかけても微々たる集まりだったが、二年目で一気に人数が増えた。その中から、文官や武官、中には将軍を任せられる人材も見出した。
「五年後だな」
 反乱軍、いや、グロリアスと刃を交える。それまでは、両国とも自国の礎を築かなくてはならない。国力と国力の勝負だ。
 もう歳は二十五になっていた。ラムサスが追放された時は二十歳だ。だが、まだ私は若い。対するグロリアスの君主は、四十の後半だという。あとは死へと歩んでいくだけだ。だが、年の功という別の恐怖の存在もある。
「ラナク、私は間違っているだろうか」
 神王を殺し、私はエクセラの王となった。あれから、数年の時が経っている。良かれと思って、私は神王を殺した。だが、それは私の主観だ。
「ルース様のやることに、間違えはありませぬ」
「私はラムサスを国から追いやった」
「それは神王の命令でした」
「しかし、今思えば、私は心のどこかで、あいつを鬱陶しがっていたのだ」
 ラナクがうつむく。ラナクは、ラムサスを慕っていた。
「私は引き返せぬ。だから、エクセラで世を平定するという夢は変わりない。しかし、急ぎすぎたかもしれん」
「我らは、ルース様のために働きつくすだけです」
 目を閉じる。
 王となり、私は考え方が色々と変わった。ただの下僕、奴隷としてしか見ていなかった周囲の人間たちを、貴重な配下として見るようになったし、愚民と蔑んでいた民らを国の礎として見るようにもなった。つまり、私以外の存在が格上げされたのだ。これが良いことなのか、悪いことなのか、その判断はつかないが、見識は広がった。相手の立場、気持ち、感情が読み取れるようにもなった。
「ルース様は王となり、お優しくなられました」
「私は私だ。そして、私以上の人間など存在せぬ」
 本心ではない。そう感じた。
「フフ」
「何がおかしい、ラナク」
「いえ。さすがにルース様だ、と」
「もう良い。とにかく、反乱軍は急激に力を付けている。イドゥンがある限り、エクセラが落ちる事は無いが、巻き返しはせねばならん」
「はい。しかし、当分は反乱軍が動きを見せることはないでしょう」
「あぁ」
 反乱軍は連戦に次ぐ連戦だった。まさに破竹の勢いで、領土を拡大していった。結果だけ見れば、実に華々しいが、中身は凄惨な物だ。戦続きで兵は疲弊しきり、降参した兵らとは息も合わない。そして降参兵の忠誠心の有無の確認、質、占拠した地の情報など、未確認の部分が多すぎる。一気に領地を拡大するということは、同時にこれらのリスクを背負わなければならないのだ。
「今が機だ、と私は思うのですが」
「それは違う。確かに私が王となり、状況もひと段落ついた。だが、軍事面はまだまだ整っていないのだ」
 多くの人間を登用した。数だけ見れば、相当なものだろう。しかし、その質はまだ荒い。伸び白が有り余っていると言っていい。
「では、我らも」
「あぁ。国力を強化する。反乱軍と違って、我らには時がある」
 反乱軍の主は、四十代の後半なのだ。私が焦る理由など無い。
「ラナク」
「はっ」
「ラムサスが、エクセラに戻ってくると良いな」
 私は、不意にこう言っていた。

       

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