Neetel Inside 文芸新都
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 戦線は膠着状態のまま、月日は流れた。しかし、確実に戦の時は近づいている。年を追うごとに、緊張感は増していた。
「ラムサス、前々からお前の言っていた騎馬の件だが」
 デンコウに跨り、調練を指揮している俺に、アイオンが話しかけてきた。
「金が無いのだろう。俺は政治は分からん。好きにしてくれ」
「バカか、お前は。金が出来たから、偉い偉い軍団長様に報告しに来てやったんだろうが」
 鼻で笑いながら、アイオンが言う。毎度思うが、この男は性格が悪い。
 俺は、騎馬を中心に軍を組もうとしていた。領土拡大前のグロリアスは山岳地帯が中心だったため、騎馬はさほど必要ではなかったが、今は違う。今は領土を拡大し、前線は平地ばかりだ。平地では機動力が物を言う騎馬が必須だった。騎馬が戦のカギを握っていると言っていい。しかし、金と時間が掛かる兵科だ。国の立て直しを図っていた今までは、騎馬に金を割く事が出来なかった。しかし、今それが出来るようになったのか。
「やっとか、アイオン」
「俺以外の人間なら、あと五年は掛かっていたぞ」
「感謝はしている」
「だが、馬の買い付けは自分でやってくれ。あいにく、俺も時間が無い。ハンス様もあの調子だからな」
 ハンスに老いが見え始めていた。身体は健康だが、覇気が無い。一方のルースは、天下統一を前面に押し出し、活力が満ち溢れている。それを補うべく、俺とアイオンが駆けずり回っているが、ハンスに変化は無かった。
「ハンスは君主だ。それを自覚してもらわなければ、どうにもならん」
「次期当主を決める時が近づいている。ハンス様は、もう統率者の椅子に座りたくないのだろう」
 しかし、ハンスには子が無かった。そうなると、誰が当主になるのか。アイオンが妥当な所だが、人望を盾に俺を推してくる可能性もあった。俺自身は死んでも統率者などお断りだ。俺がなるぐらいなら、ローレンにした方がまだマシだという気もする。
「とにかく、今のままでは国が揺れるぞ」
「俺もわかっているさ。まぁ、この事は良い。ラムサス、お前は早く騎馬を整えろ。早くしないと、その金は別の事に使うことになるぞ」
 それを聞いて、俺は思わず苦笑した。まずは目の前のことを片付けよう。そう思ったのだ。

「ギリ、悪いがしばらく空けるぞ」
「何を言っておられるのです。ラムサス様は軍団長ですぞ」
「馬を買いに行くだけだ」
「それならば、下の者に行かせれば」
「ダメだ。俺自身が見なければならん」
 馬は騎馬隊の生命線だ。兵の質の次に、馬の質が来る。いい加減な選別など許されない。
「ならば、私もお供いたします」
「いらん。かえって邪魔だ」
 早く帰れ、と口うるさいに決まっているのだ。
「……なるべく、早く帰って来られますように」
「わかっている」
 行き先は決まっていた。デンコウと出会った場所。今は、エクセラとグロリアスの国境間近にある牧場。
「お前の故郷に行こう。デンコウ」
 手綱を握り締め、俺は城を出た。

       

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