Neetel Inside 文芸新都
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 ローレン、何を言ってる。
 私は思わず、右翼に顔を向け、ローレンを探っていた。一騎討ちしろ、確かにそう言っていた。
「エクセラの総大将、答えろッ」
 まただ。ローレンの奴、何を考えている。
「触発されたか、ローレン」
 完璧に戦術が決まったと思った。前衛陣を囮にし、後衛の長弓部隊で敵を射落とす。右翼・左翼からだ。敵は背を向け、必死に逃げるしかないと思っていた。
 だが、違った。エクセラの前衛陣から、大きな茶色の馬に乗った、偉丈夫が出てきた。そこからは稲妻だった。瞬く間に、出すぎた兵を馬から落として見せたのだ。
 おそらく、これに触発された。ローレンはプライドが高い男だ。武芸に関しては、絶対の自信を持っている。
「まだ若すぎる。将軍にあげるのが早かったか」
 このまま距離を取って、長弓を射ていれば無傷で敵の数を減らせる。一騎討ちをする意味など無い。全体の情勢を見極めれば、簡単に分かる事だ。
「ローレン、抑えろッ」
 叫んだ。
「嫌です。ハンスさん、一騎討ちさせてくださいッ」
 思わず眉間にシワを寄せた。聞き入れない事は分かっていた。
「全体の情勢を見極めろッ」
「見極めてますよ。エクセラの総大将、答えろッ」

 白馬の男が、さかんに威嚇してきていた。
 一騎討ちしろ、と何度も叫んでいる。俺は、短弓で敵を射落としながら、白馬の男に目をやった。
「我が名はローレン、反乱軍、随一の武芸者だッ」
 名乗りを上げた。ならば、返すのが礼儀というもの。
「戦神カルサスの嫡男、ラムサスだッ。この軍神と剣を交えるかッ」
 弓を射る。もう二十人は馬から落とした。さすがにここまで落とすと、敵も距離を取り始めた。俺の弓の腕は百発百中だ。ミスは無い。
「ローレン、下がれッ」
 左翼からの声。低く、重みのある声だ。あの男の上官なのか。
 一騎討ち、それは願ってもいないことだ。緒戦は負けが決まっている。もうこうなってしまえば、関所まで一気に雪崩れ込むしかない。篭城戦になり得るのだ。
 だが、一騎討ちで勝てば、士気を一気に回復できる。逆に敵の士気はガタ落ちだ。勝てる見込みも出てくる。
「ローレンッ」
 あの上官は、若い男を抑え切れていない。情けない奴だ。部下も満足に扱えないのか。
「その勝負、受けて立つ。だが、条件があるッ」
 叫ぶ。エクセラに、俺より強い奴は居ない。エクセラは一大国家だ。辺境の軍の武芸者など、恐れるに足りん。
「軍を下げろ。でなければ、その申し入れは聞き入れんッ」
 若い男が口元を吊り上げた。笑っているのか。
「ハンスさん、軍を下げてくださいッ」

 ローレン、馬鹿な事を。
「お前が一騎討ちをして、我らに何の得がある。考え直せッ」
 もう関所まで僅かだ。このまま駆け続ければ、篭城線に持ち込める。関所を突破できるかもしれないのだ。
「もう作戦は失敗したも同然です。ならば、ここで名のある将軍をッ」
 そんな事を叫ぶな。エクセラの総大将に目を向ける。
「完全にやる気だな。当たり前か」
 総大将は、ローレンの目を睨みつけていた。
 確かに、もう我々の作戦は看破されている可能性が高い。何せエクセラ軍が少数で出てきたのだ。どこかで情報が漏れたのかもしれない。
 そう考えると、確かにローレンの言い分にも一理ある。だが、まだ若い。
「下げてくださいッ」
 仕方が無い。兵たちも一騎打ちを望んでいる節がある。ローレンめ、雰囲気を味方につけるのが上手い男だ。
「後衛、足を止めろッ」
 必ず討て。それが条件だ。

 反乱軍は軍を下げた。当然、俺の軍もだ。一騎討ち。何の邪魔も入らない、正当な命の奪い合いだ。
 若い男が、作戦は失敗した、と言っていた。これが気になるが、今は一騎討ちだ。目の前のコイツを殺す事だけを考えれば良い。
「僕は槍だ。お前は?」
「俺は剣で良い。槍に頼るほど、軟弱ではないからな」
 風が柔らかい。俺の軍は後方で陣を組み、相手を牽制していた。この小僧を殺した瞬間、雪崩れ込むためだ。それは相手も同じだった。
「僕が軟弱? あの程度の弓の腕で、よく大口を叩ける」
「やればわかる」
「フン」
 デンコウ、お前の方があの白馬よりデカい。威圧できる。俺も、あの小僧をすぐに斬り殺してやる。
「僕をなめるなッ」
 白馬が、若い男が槍を突き出し、駆けてきた。
 

       

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