Neetel Inside 文芸新都
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「アイオン、金が必要なくなった。返すぞ」
 言ったが、アイオンは背を向け、忙しそうに何かを書いている。
「金? あぁ、馬のか。本当に良いんだろうな。俺は知らねーぞ」
 まだ背を向けている。
「牧場ごと手に入った。その金は別の事に使ってくれて構わん」
「あ? 牧場? お前、頭大丈夫か?」
 アイオンが振り返る。しかし、視線はすぐに隣のリンに移った。
「何だ、その女は」
「牧場代だ」
 アゴをリンの方にしゃくった。
「失礼だな。ちゃんと紹介してよ」
「本当の事だ。俺はお前が妻だということに興味はない」
「妻? 誰の?」
「初めまして、ラムサス将軍の妻、リンです」
「ラムサスの嫁か?」
 部屋を出た方が良い。鬱陶しい事になる。そう思いつつ、ドアノブに手をかけた。
「アイオンさん、歩兵の装備ですが」
 ローレン。タイミングが悪い。
「ラムサス、その女性は」
 俺は諦めた。

 この後、ハンスやラルフ将軍、バリー将軍などを呼んで、皆に事の成行きを話した。それぞれがそれぞれの反応を示したが、大半は祝福と皮肉だった。
 そんな中、アイオンだけが偉く落ち込んでいた。理由は分からないが、察するに女から好かれないのだろう。何でも無理なくこなす男だと思っていたが、とんだ弱点があったものだ。とにかく俺は結婚などには興味が無かった。家に一人、共に住む人間が増えただけの事なのだ。
「そうか、ラムサスが結婚か」
「子供はどうする」
「ラムサスの子となると、男でも女でも鬼のように強かろうな」
 アイオンを除く全員が声をあげて笑う。
「からかうのはよしてくれ。俺はこれから軍事がある。留守にしていた時間の分だけ、仕事が溜まっているのだ」
「馬鹿言うんじゃない。カルサス将軍の息子の婚儀となったら、祭りをせねばな」
 バリー将軍。その髭、全てむしり取ってくれるか。
「おなごよ、よくもまぁ、こんな無骨で面白くもない男を婿にしたもんだな」
 今度はラルフ将軍か。勘弁してくれ。
「あら、ラムサス様は素敵よ。だって、デンコウに乗れるんだもの」
「これは参った。馬が二人の縁結びとはなっ」
 全員が声をあげて笑う。いや、アイオン以外の全員だ。
 ふと、ハンスに目をやった。目に活力が宿っている。こんな事で、ハンスに活力が戻るのか。
「わかった、わかった。みんながそう言うなら仕方ない。こうなったら、盛大に婚儀を挙げてくれ」
 ハンスのためなら。そう考えると、自然と居心地も良くなった。

       

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