Neetel Inside 文芸新都
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 全身が熱い。悔しさ、怒り、不安、さまざまな感情が入り交じり、身体の中を駆け巡る。
 落ち着け。何の事はない。落ち着け。自分に言い聞かせる。
「俺は、神王のために働き尽くしてきた。それが・・・・・・」
 大きく息を吐く。目を閉じた。
 ランドの事を思い浮かべる。あいつは、俺が出陣する前、ひどく慌てていた。まるで、今回の戦には行くな、と言わんばかりだった。
 何かを知っていたのだろう。こうなる事を、おそらく知っていた。俺が少数の兵力を率いると言った時、あいつは六万連れて行け、と言っていた。
 仮の話になるが、神王は俺を疎ましく思っていたのではないか。親の七光りと言えど、俺は軍神と持てはやされていた。自惚れになるが、俺より有能な将軍はエクセラには居ない。軍権も完全に掌握しているのだ。疎ましく思っていて当然だ。
 そうなれば、排除したい。だが、失態がない。だったら、作り出せば良い。
 神王は、軍の数の指定をして来なかった。これが罠だった。俺は、自分の力を示したかった。神王は、それを知っていたはずだ。だから、ここに罠を仕掛けた。そして俺は、それに見事に嵌った。
 そして、反乱軍との苦戦。これは、仕組まれてはいなかったはずだ。だが、監視されていた。ルースが、諜報員から聞いた、と言っていたのだ。
 どんな細かな事でも良い。神王は、俺の失態を手に入れたかったのだろう。
 ルース・・・・・・良い友人だと思っていたが、やはり神王を取るか・・・・・・。そしてランド、最後に怒鳴ってしまった。俺の事を心配していたと言うのに。
「すまない・・・・・・」
 もう口を利く事もできない。俺のために、ひどい目に遭っていなければ良いが・・・・・。
 追放。もう俺は、エクセラの将軍どころか、国民ですらない。兵たちに言わなければ。
「みんな、よく聞いてくれッ」
 原野。声がよく通る。
「さっきルース参謀が言った通り、俺はエクセラを追放されたッ」
 とてつもなく悔しい。これが、軍神ラムサスの言葉か。堕ちた。底の底まで堕ちた。
「だが、これは俺一人の問題だ。お前たちは、城に戻り、いつものように生活してくれれば良いッ」
 兵たちは真っ直ぐ、俺を見ていた。戸惑いなど、感じさせない。俺が鍛えた騎馬隊。
「今まで、俺に付き従ってくれた事、感謝する。だが、それも今日までだ」
 さらばだ、エクセラ。そして騎馬隊。
 その時だった。
「ラムサス将軍、いや、元将軍ですかな」
 ギリだ。前へ出てきた。笑っている。当然か。何しろ、追放されたのだ。
「私は、あなたにお供いたします」
 耳を疑った。何だと。
「ギリ、何を言ってる」
「元々、私はエクセラに反感を抱いておりました。いや、正しくは神王にです。大した能力もない癖に、アゴで人を使う。自分の手を汚さず、目的を達成する。反吐が出る人種ですよ」
「お前、処刑されるぞ」
「構いませんよ。もう私も、エクセラの民ではありませんから」
 ギリ・・・・・・。目頭が熱くなる。
「皆の者、聞いての通りだ。私は、ラムサス様に付き従う。私と同じように反感・疑問を抱いている者は付いて来いッ」
 兵は静まり返ったままだ。ギリの声が、原野全体に響いている。
「ラムサス様、早くここを離れましょう。神王のことです。大軍を率いてくるかもしれません」
「だが、ギリ」
 これは俺の問題なんだぞ。
「良いのです。私は、あの一騎討ちで心を打たれました。あなたこそ、戦神であり軍神です。それに付き従う。結構な事です」
 親の七光り。いや、もうエクセラを追放された。今この瞬間から、ラムサスという一人の男の人生が始まるのだ。
「分かった。後悔するなよ。俺は、戦が何よりも好きな男だ」
「承知の上です」
 ギリが笑う。俺はそれに対して頷いた。
「デンコウ、付き合ってくれるな」
 デンコウが首をぶるんっと振るわせた。
「よし、駆けるぞ。まずはここを離れるッ」
 かかとで腹を蹴った。疾風。肌を切り裂くその風は、勇ましい気持ちにさせてくれる。
「やぁ、ラムサス様、あなたの求心力は大したものですよ」
 ギリが笑っている。俺の耳に入ってくる馬蹄、地鳴り。
 不意に涙がこぼれた。
「必ず、必ず報いてみせる」
 涙で、視界が曇っていた。 

       

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