Neetel Inside 文芸新都
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九月七日(THU)午後八時三〇分〜九月八日(FRI)午前零時二七分

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九月七日(THU)午後八時三〇分

 とく、とく。
 とく、とく。
 心臓の音が、ハッキリと聴こえる。
 ――お兄ちゃん。
 聴こえてる?
 あたし、とくとく鳴ってるよ?
「何見てんだよ?」
 御飯をその大きな口に入れようとしたところで、あたしに気付く。
 何に気付いたの? ただ、あたしがお兄ちゃんを見ているということに?
 それとも――音が聴こえたの?
「…見てんじゃねーよ」
 …はあ。

九月七日(THU)午後九時三十八分

 鈍い。
 お兄ちゃんは、鈍い。
 多分、インターネットブラウザの「お気に入り」に、チャットへのリンクを入れておいたのにも
気付いていないし(気付いていたら、何か言ってくるはず)。
 ていうか、PC使ってる? そういえば昨日触った時、妙に埃だらけだったような……
 うーん……
 ――たまには、ストレートも――
 …うん。
 そうだね、真琴さん。
 メールを打とう。携帯に。
 文面は――


  都子です。隣の部屋なのに、メールなんかヘンだって分かってる……ケド。
  でも、ちょっと、面と向かっては……
  …お兄ちゃんと、話したいことがあるんだ。
  メールだとめんどいから、チャットに来てくれないかな?
  PCを起動させて、「internet explorer」っていう青いアイコンをダブルクリックして(ゴ
  メンね、難しくて!)上の方にある「お気に入り」って書いてある星型のマークが付いてある  ところを(略)
  
  一生の頼みだから……来てね。
  あ、あたしのチャットでの名前は「miya」だよ!


 ――これでいいかな?
 お願いね、お兄ちゃん。

九月七日(THU)午後十一時五分

 チャットに入室して一時間以上経った。
 お兄ちゃんは来ない。
 来やしない。
 …もう、寝てるとか?
 いやでも、いつもは十二時過ぎても起きてて、なにかしてるし。
 ――あ。
 明後日から、修学旅行。
 ということは――今日辺りから、早めに寝ておくようにしたとか!?
 …違うよね。
 メール送ったのは、九時四十五分くらい。
 まさか、幾ら何でもそんな早く寝てるわけない。
 小学校低学年じゃあるまいし……
 …グダグダ。
 本当に。

五日目

九月八日(FRI)午前零時二七分

 …おーい。
 ったく。
 反応なしかよ。
 自分が誘ったくせして。
 …お?



和也:おーい。00:26
和也:いねーのか?
miya:ごめーん00:29



 …やっとか。
 PC消しちまう寸前だったぞ。



和也:おせーよこの
miya:ホントゴメンね
miya:でもさ
和也:でも?なに
miya:お兄ちゃんが遅いのも悪いよ
miya:そりゃ、あたしも悪いけど



 ――まあ。
 確かに、メールに気付けなかったのは、俺に非がある。
 だが、だがな――



和也:来てやったんだよ?俺は00:31
miya:んー、まあ
和也:そうだろ?
miya:そうだけど
miya:まあ、それはいいや
和也:だよな?
miya:話したいことっていうのはね
miya:ほんの、他愛もないことなの00:33



 他愛もない?
 それならさあ。



和也:他愛もないって、それなら別にこんなとこでなくてもいいじゃん
和也:普通に話しゃいいだろう
miya:そう言われるとは思ったんだけど



 言ってねぇよ。書いたんだよ。



miya:でも、ここで話したいの00:36
和也:なんで
miya:今日学校で何があったとか、親みたいだけどw
和也:くだらねえ
miya:とにかく、なんでもいいから話したいのよ!
miya:ね、とにかくなんか話そ!
和也:なら、お前が話題振れよな00:39



 それから、二時間弱、都子メインの話が続いた。
 最初から最後までくだらなかったものの、都子のことが、少し分かった気がした。
 
 分かったところで、何だよって話だがな。

       

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