Neetel Inside 文芸新都
表紙

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 なんだろう……
 暗い……
 でも、とても暖かい……
 暖かいんだ…………

 そおっと、俺は、目を開いてみた。
 木で組まれた簡素な天井には、蜘蛛の巣が何張りもあって、捕まった虫がもがいていた。
 そこにゆっくりと、蜘蛛が近づいていって、獲物をこれまた緩慢な動作で、丁寧に糸でくるんでいく様が見えた。
 それを俺はじっと見ていた。
 コッコッコッ……
 どこかでめんどりの鳴く声がする。
 俺は、藁じきのチクチク刺さる感触を背中に感じながら、仰向けに寝そべっていて、動くことが出来ない。
 あれ……?
 俺……
 未亜ちゃんは……
 俺はその身を確かめた。
 確かに、俺の外側には、白くて固い殻があって、その中身もまだ外気に触れたことなく、だが、外気に触れるその日を、産まれてくる”未来”を待っていた。
 俺は……?
 突如、視界の全てが白くなる。
 そして真っ暗に。
 (うわっ!)
 一瞬、何が起こったのか、全くわからなかった。
 だけど、その闇の温もりに、俺をそっと慈しむように優しく包む、柔らかな圧迫感に、俺は即座に理解した。
 俺の上のその存在……まだ産まれていない俺に、いて当然の、一番俺に近い存在……
 (母さん……??)
 かあさん……本当に……母さんなんだ……
 俺の母さん……
 ねぇ、きいて、きいてよ母さん……
 ずっと悪い夢を見てたんだ……
 ずっと寒いところにいて……閉じこめられてて……
 イヤなことたくさんあって……痛くて……
 でも、少しだけ嬉しいこととかあって……
 ああ、あと、なんだったっけ……
 産まれたらいっぱい、いっぱい話すね……
 ああ、でも、それまでに…忘れちゃいそうなんだ……
 ここが、とても暖かいから……

 俺にのしかかる母さんが、ゆっくりと揺れる。
 波打つように、俺を押し出すように。

 なんだろう、それでは、母さんの下から、外れてしまう。
 俺の居場所はここなのに!
 ……いや、きっと、もう違うんだ。
 ここはもう、俺の居場所では、ないんだ。
 波打ち続ける母さんの腹。
 イヤだ! 辛い! ……だけど、俺は、やらなくちゃいけない。
 きっとこんなふうに幸せの中産まれてきた、あの子のために。
 母さんはだまって俺を押しだし続けた。
 そして遂に俺は、ぽっかりと広い空洞へと投げ出されてしまった。
 そこも確かに暖かかったが、漆黒の闇の中だった。


 「気がついたか!!」
 醤油の声が意識に響く。
 俺は……気を失っていた?
 「ああ、悪かった、醤油」
 何か、夢を見ていた気がする。
 ここがとても暖かいから、安らかな夢を見ていたみたいだ。
 それもそのはず、俺というのは先ほどまで、とどのつまり、”要冷蔵”だった訳で、この36.5度の世界は俺に初めての経験となるのだ。
 だが、しかし、あらゆる恒温動物にとって、寒いより暖かい温度が心地いいという事を、俺でさえ本能的に知っていたようだ。
 そうか、ここが、未亜ちゃんの胃の中か。
 遂にここまで来た、俺の命の、ファイナルステージへと。
 「忘れちゃいねぇよな? 時間は短い」
 「ああ、大丈夫だ!」
 もう消化は始まっていて、俺の外側は緩やかに溶け始めてきた。
 急いで”チュウゴクセイ”を探し出さなければ未亜ちゃんが危ない!!
 とは言え、狭い子供の胃の中だ。
 「よぉ、ぼんず。よく来たな」
 果たして、捜し物はすぐ見つかった。
 あの三体の魔物達は、今は、もはやどれがどれともつかないほどぐちゃぐちゃに混じり合い、一つの巨大な魔物となった。
 そいつが、俺に語りかけてくる。
 「お前も一緒にやるか?」
 魔物の先には、未亜ちゃんの胃壁があり、彼らが殴り続けた為に赤く爛れていた。
 「止めろォッ!!」
 俺は、躊躇うことなく怒号を投げつけた。
 「はぁ? ナニいってんの、オマエ?」
 「俺が間違っていたんだ。俺は、未亜ちゃんを助けるためにここにきた」
 「は? あははははははは!!! オマエが!? オマエになにができる? さっきまでブルブルブルブル、ちびりそうなぐれぇ震えていたオマエが!! それにオマエ、人間への憎みはどうした?」
 「確かに、人間は憎い。生態系の頂点で怠惰を貪る悪意以外の何者でもない」
 「では、何故救う?」
 「その一方で、純粋な善意、”決意”をもって動くことが出来るのもまた人間だ。彼らが生態系の頂点にいる今、人間を変えることは人間にしかできない。勝手な思い込み、だが、未亜ちゃんならきっと、それが出来ると信じた」
 すっ、と息を吸う。
 「だから俺は、お前らを倒す!」
 「ふっ面白い」
 吐き捨てるように言う”チュウゴクセイ”。
 「俺たちがうまれたのもまた、人間の”悪意”によるものだ。お前が憎む、己の利益のみを貪る、人間の純粋な悪意。善意と悪意、どちらが”未来”で人類を待つのか……」
 鋭い闘気を放ちながら。身を屈める、”チュウゴクセイ”!
 「それを今、ここで決めよう!!!」
 ”チュウゴクセイ”が、その巨躯からは想像もできない程のスピードで、俺に迫ってくる!!
 (危なっ!)
 ギリギリで身を反らしたが、相手の掠めたわき腹(っぽい部位)のタンパク質が、融解していた。
 「俺の濃縮苛性ソーダパンチ。食らえば一発であの世行きだぜ」
 まさか、これほどなんて……。
 ダメだ、性能差がありすぎる。
 工業用に強化された相手に、天然モノの俺たちがどうすれば通用するのか。
 今のままの力では、敵わない事は明白だ。
 「おぃ、ふた口目が来るぜ!」
 醤油の声に見上げると、分かたれた俺の分身が俺の体に降り注ぐ。
 「醤油! パワーアップは!?」
 「ダメだ、まだモロミダイズド・フォームのままだ!」
 くそ、このままでは、勝ち目はない!!
 俺はどうすれば……。
 「はっはっは、威勢がいいのは口先だけか! では、こちらから行くぞ!」
 ”チュウゴクセイ”の魔物は、俺の首根っこ(っぽい部位)を掴み、そのまま胃の出口へと俺を力で押し出していく!
 「お前、この、胃と十二指腸の境界、何て呼ばれてるか知ってっか? ここはな、”幽門”ってんだ、その名の通り、行ったら二度とこっちに逆流することはない、まさに黄泉の国への入り口さ!」
 すごい力で俺は未亜ちゃんの幽門に叩きつけられた!
 徐々に開いていく幽門。
 マズい! このままでは……!!
 「逝っちまいなァァァァァァ!!!」
 その時、微かにまた、頭上からの光が!
 「三口目っっ!」
 醤油の叫び声と同時に、”チュウゴクセイ”の魔物を切り裂いて、何かが落ちてきた!!
 「来たぞ、ユナイト&チェンジだ! ちょっと語呂が苦しいが叫べ!! ”チェンジ! カツオブセイズド・フォーム!”」
 俺の中に再び湧き起こる強烈なうま味!!
 融合によって今までの何倍にも、それが跳ね上がった!!
 これは……そうか、かつお節だ!!
 「ごはんライダーRAN・カツオブセイズド・フォーム(Cuts of sized・Form)はソード・フォームだ。職人の技が光る、薄さ10μ~30μの”カツオブセイバー”が容易く敵を切り裂く。おぉ、しかもだ」
 醤油は続けた。
 「スゲェ!! コイツぁ”枯節”だ!! 現存する食材の中で世界一硬いとされる、鹿児島枕崎産の最高級本枯節じゃねぇか!! いける!!! コイツぁいけるぜ!!」
 すごい!!
 すごいぞ!!
 これで俺は、間違いなく世界最強のソードフォームになっている!!
 少し離れた場所によろめいた”チュウゴクセイ”が体勢を立て直している!
 「貴様ら……! いくら足掻いたところで、この俺、人類の悪意の権化たる俺には勝てん!!」
 「畳み掛けるっ! いくぞっ、かつお節っ!!」
 かつお節にも協調を求める俺。
 だが!
 「……pataw……ako……ad……」
 な、何? 声が小さくて聞き取れない。
 「Patawad、Ako、a、ワタ、ワタシハ、KAGOSHIMA、Ipnanganak、ウマレデハ、ナイデス」
 こ、これはっ!!
 「タガログ語だっっっ!!!!」
 「なんだって! じゃあ、こいつはフィリピン産じゃないか!!」
 くそぉ!!
 こんなところにまで、食品偽装の波が来ているのか……!!!
 おのれぇ、何故だ、何故偽るんだ人間?!!
 「ふ、フハハハハ!! やはり、人間はこちら側の存在! 善意とは、駆逐され、悪意を満たす為だけに在るのだ!!」
 くそぉ……!
 「Akong may kasalanan……(私のせいで……ごめんなさい……)」
 「いや、君のせいじゃないさ、しかし……」
 その時、醤油が叫んだ。
 「そうさ、お前がカツオブセイズド・フォームであることに変わりは無ぇ! フィリピン産か……あまり使いたくなかったが、あの技がつかえる……行くぞ!」
 「あ、ああ!」
 醤油の後押しのまま、俺は”チュウゴクセイ”に突進していく!
 「無策での神風特攻か。フッ、どこまでもお前等は純日本製だな!!」
 「確かに、俺らは日本製だ。だが、無策ではないっ!!」
 油断した”チュウゴクセイ”の懐に、潜り込むッ!!
 輝きを放つカツオブセイバー!
 「アジアの力を今一つに! おおおおおおお!!」
 カツオブセイバーを、握る手にあらん限りの力を込める!!
 「食らえっ、”大東亜共栄剣”っっっっ!!!!!!!!!」
 懐から、斜め上へ、力の限りに剣を振りあげた!!
 「う、うあああぁぁっ!!」
 予想外の攻勢に、”チュウゴクセイ”はガードが間に合わず、横腹(っぽい部位)から肩(っぽい部位)まで一気に切り裂かれた。
 勝てるっ!! 勝てるぞ!!!
 「このまま一気に……」
 しかし、俺の気合いとは裏腹に、カツオブセイバーはその輝きを収束させていった。
 「なんだ! どうしたっ! どうなったんだ!」
 「無茶を言うなよ、ごはんライダー。あの必殺技は、そのネーミングのギリギリさ加減から、一度しか使えないんだ」
 くっ、醤油っ! そういう事は先にっ!
 「うっ、ううぅぅ……」
 ”チュウゴクセイ”は確実に弱っている。
 今、畳み掛ければ倒せる。俺だって……!!
 「うぉぉおおおおお!!」
 一気に”チュウゴクセイ”の巨躯のもとへ詰め寄る。
 「純正アミノパンチ!」
 俺の繰り出した拳(っぽい部位)がクリーンヒットする。
 だが、致命的な打撃には至らない。
 「ぐぅ、それしきの事なら、こうか!?」
 ぐあああっ!!
 これは、アミノパンチ!?
 「由来こそ違えど、組成自体はまごうことなくアミノ酸だからな!!」
 わかっているさ、だが、認めない、認められない!!
 結果、人体に害を及ぼす方法で、栄養素を作る、その行為に何の意味があるんだ!
 だが、強いっ……!
 抗えない。
 このままでは、人類は人類自身の手で、幕引きを行うことになる。
 「見たところ、かなり、ドロドロのようだな、ごはんライダー。その体、もって、あと一分ってところか」
 確か、俺の体はそのほとんどが既に消化されていた。
 ”チュウゴクセイ”の言うとおり、もう少しで、俺は動けなくなる……!!
 くう、最後、あと少しでいい、醤油……かつお節……そして……
 「未亜ちゃん……頼む、俺に、力を貸してくれ!!」
 その時、空から、また、一条の光が指す!
 「来たぞ、四口目だ!!」
 醤油が叫ぶ!
 だが、降ってくる食品は、俺ではない!!
 ”銀チャリ”に乗ってはいるが、分かたれた俺の分身ではない、まったくの別物だった! ダメだ、それではユナイトできない!!
 パワーアップが、間に合わない……!!
 「ふははは、カーテンコールだ!! 幽門の彼方へ消し飛……ぐああああ!!!」
 ”チュウゴクセイ”の後ろから、強烈な打突!!
 つんのめる”チュウゴクセイ”。
 これは、何だ! 強いぞ!!
 見るからに重たい一撃だ!!
 誰だっ?!
 「待たせたな、真打ち登場っ……」
 ふうっ、と体を起こす、新たなる勇者。
 「オメェは!!」
 醤油の、感嘆の声。
 新たなに登場した食品は、”チュウゴクセイ”に向けて威圧的なポーズを取りながら、叫んだ!!
 「ごはんライダーNATTOU、見参っ!!」
 見ると、彼も醤油の混じった”モロミダイズド・フォーム”を纏っている!!
 仲間だ!!!
 「醤油っ、彼も仲間か!?」
 「ああ、アイツも同じ、純国産ごはんライダー。しかも、オレらと同じ、いやそれ以上に強いかもしれない」
 な、なにっ!!
 それなら、間違いなくヤツを倒せるじゃないか!!
 「遅れて済まない、RAN!! グルタミン酸の熟成に、時間がかかってな」
 納豆は、よく混ぜることで納豆菌に酸素が行き渡り、グルタミン酸や、粘り気の元となるムチンの生成が活性化する。
 確かに、かなりよく混ざっているようだ!!
 「初めまして、NATTOU。だが、俺の体はもう完全に消化されてしまう……後を頼んだ」
 「まだだ、まだ早いぞRAN!! 耐えるんだ! 今、未亜ちゃんがあれを作っている!」
 「”あれ”?」
 「究極の”パーフェクト・ユナイト”……その繋ぎが」
 「えええい!! 小賢しいっ!!!」
 ”チュウゴクセイ”の起死回生の突進!
 俺とNATTOUは素早く左右へ飛び退く。
 しかし、……
 「ぐあああっ」
 俺の体は胃壁にぶつかり、思わぬダメージを受けてしまった!
 そこからドバッと出てくる大量の胃酸。
 「うわあああっ!!」
 ジュワワワと、俺の体から立ち上る水煙。
 もう、限界だぁぁぁ……!!
 「RAN!!見ろ、光だ!!」
 5口目……か……早く……消えてしまう……
 未亜ちゃん……俺は……君を……
 「終わりだァ!! 人間のちっぽけな善と共に、消え去れ! ごはんライダー!!」
 俺への”チュウゴクセイ”の突進と、”チュウゴクセイ”へのNATTOUの突進そして、6口目の食材が俺の体に降り注いだのは、全てが同時だった。
 全てがもみくちゃになり、一瞬目映い光に包まれた!!
 そこから吹き飛んだのは、”チュウゴクセイ”。
 間に……あったのか……?
 「き、貴様は……!!!!」
 俺は、まだ生きていた。
 「この力、”クサリダイズド・フォーム”か?!」
 ”チュウゴクセイ”の狼狽える声。
 だが―――
 「違う……俺は……」
 聞こえる……だが、静かに、力強く、醤油、納豆、様々な食材たちの声が、俺の意識の底、響いているッ!
 (ネギ・リエゾン、カツブシ・リエゾン、オンライン。今、二人のごはんライダーが一つに! もうオメェに敵うヤツぁいねぇ!!)
 そうだ。
 ――醤油。
 ――納豆。
 ――ネギ。
 ――かつお節。
 そして、俺、とき卵。
 全てが今、俺の力になった。
 そう、俺は……
 「アルティメットごはんライダー……」
 息を深く吸い、叫んだ!!
 「In Japanッ!!!!!!!」
 どぉ、と、衝撃に、全未亜ちゃんの胃が揺れた。
 「行くぞ”チュウゴクセイ”!!」
 「小癪な!! 来るがいい!! ファイナルラウンドだ!!」
 激しくぶつかり合う、俺と、”チュウゴクセイ”。
 だが先ほどの戦いで、”チュウゴクセイ”は疲弊の色を隠せない。
 確実に弱ってきている!!
 「うおおぉぉおおおおお! 様々なうまみパンチ!!」
 最早、単体の力ではない、グルタミン酸、アミノ酸、ナットウキナーゼ、タンパク質、様々な成分が相乗して爆発的に効果を上げている!!
 「ぐふぅ!!」
 ”チュウゴクセイ”は防戦一方だ!
 ガードを解く間もなく、連撃に連撃を重ねる!!
 「なぁ、醤油?!」
 「おぅ!!何だ!!」
 「この後、どうすればいい!!」
 「ありったけ、ヤツを弱らせろ!! そうすれば、ヤツはどんどん小さくなって、やがてヤツのコア、有毒成分のみに削り取られる。そいつに渾身の力でアッパーを決めろ! 食道弁あたりまで飛ぶくらいのな!!!」
 「OK!!」
 ラッシュを極め続ける俺。
 ”チュウゴクセイ”は手も足も出せないでいる!!
 そしてもう既に、”チュウゴクセイ”はかなり小さなサイズにまで縮んでいる!!
 「うおおおぉぉぉ!!」
 手を止めない俺。
 ”チュウゴクセイ”はひたすら避けようと、移動しつつ、ガードするのみ!!
 行ける、行けるぜ!!
 勝てる!
 もう、”チュウゴクセイ”は俺よりも小さかった!!
 今の俺の力なら、もうやれる。
 勝利への誘導灯が、未亜ちゃんの口、上の方へと点滅しているのだ!!
 今しかない!!
 フィニッシュブロウを極めるッ!!
 「これで……」
 最大限まで体をふりかぶり、拳に全エネルギーを込めた!!!
 「終わりだぁぁぁっ!!!!!!」
 渾身のアッパーが、”チュウゴクセイ”のジョー(っぽい部位)を捕らえた!!

 「ウグアアアアァァァァァァァッァ!!!!」

 完全にバラバラになりながら、遙か彼方まで破片を吹きとばしながら、砕け散る俺の拳……俺の拳!?
 痛みに叫んだのは俺の方だ。
 何故ッ!? まだ5分経っていないッ!!
 「ふふふ、ごふっ、ごはぁ」
 吐瀉物を吐きながらも、”チュウゴクセイ”は膝をつかずその場でニヤついている。
 「本当に本当に、お前は強かった。アルティメットごはんライダー。オレも危ない所だったよ」
 小さくなった”チュウゴクセイ”が、身を引きずりながらもこちらにすり寄ってくる。
 さっきまで、ガードのみに徹していたその体には、ギリギリ最低限の力がまだ残っているように見える。
 俺は、動けなかった。というより、体がいうことを聞かなくなっている……。
 「だがな、見てみろ、ごはんライダー。お前自身の体を。卵に、納豆に、醤油に、食われる前からぐちゃぐちゃじゃないか」
 ――はっ、まさか……
 「その体、さぞ、消化もいいんだろうなぁ!! 安物のオレと違ってよォ!!!ひっひっひっひっひいいい!!」
 ちくしょう、性能を見誤ったか!
 「『勝ったと思ったときに一番隙が出来る』、オレの国の策士の何とか子が言ってたが、本当みてぇだな!! 後ろを見てみな!」
 これは、幽門!?
 そうか、さっきから動き回っていたのは、攻撃を避ける為じゃなかった……オレをここにおびき寄せるために……?!
 「……そこをどけ、ごはんライダー。オレはその門をくぐり、ミアの体に吸収される。そして血液に運ばれ、ミアの全身へと繰り出していく」
 静かな声色で、言い放つ”チュウゴクセイ”。
 奴は、最後のエネルギーをかき集めて攻撃態勢へと移行している。
 「オレが全身に行き渡るんだ、そうしてミアは”人間自身”の悪意によって朽ちる」
 俺も、この体に残る最後の粘性を振り絞り、胃の蠕動に耐え、幽門にしがみつく!
 くそっ!!
 「させるか……!」
 「あ?」
 「俺は、最後の欠片が溶けるまで……」

 「ここから、一歩もさがらないッ!!」

 「おもしろい!! オレも限界、次に放つのが最後の一撃!!!! 残った者がこの戦いの勝者だ!!」

 未亜ちゃん!!未亜ちゃん!!

 「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 遠くから、歌が、静かに聞こえてきた。


 ―――ハッピ、バースデイ、トゥユー

 ―――ハッピ、バースデイ、トゥユー

 ―――ハッピ、バースデイ、ディア……………


 ……………
 …………
 ……






       

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Neetsha