Neetel Inside 文芸新都
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俺の考えたことを童話にしてみた(自炊偏)
昔風醤油ラーメン

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 ビルという木が生えているその森は都会と呼ばれていた。森の中にハーメルンの笛吹きがいた。その笛吹きはラーメンというハーメルンの笛を使っていた。そのハーメルンの笛吹きが乗る馬車には馬がいない。どうやら、笛吹き自身が馬の代わりになるらしい。馬いらずの馬車には、ハーメルンの笛を製造するための銀色の用具が置かれている。そして、”お腹を空かせた現代人”という名の子供たちを”ラーメンの香ばしさ”というハーメルンの笛の音で呼び集めていた。
 その子供たちの中に、とある男がいた。少し黒ずんだ灰色のスーツを着込み、ところどころ日焼けした茶色いカバンを某国で握手すると嫌われてしまう方の手に持ち、汚れにも見える傷をつけた眼鏡を今はハーメルンの笛の音を嗅ぐための耳になってしまった鼻の上に添えている男がいた。ここにもし画家がいたとしたなら、”現代人”という絵を描いていそうなほど、この都会という森に似合っている男だ。
 笛吹きは顎に黒く夏の景色を映し出していたが、頭は何もない秋の景色を映し出していた。
「昔風醤油ラーメンください」
 男は笛吹きに対して、日の出のような明るい口調で言った。
「少々待ってくださいな」
 笛吹きはそう言いながらパイプ椅子を男の元へ用意した。
「明日はいよいよ祝日なんですよ」
 男はさらに明るく輝いた。
「このラーメンを食べると、少し昔に戻れるっていう話ですな」
 笛吹きは黄金に輝くハーメルンの笛を作りながらこう言った。
「まさか」
 男は夕焼けのような明るさで笑った。
「はい、お待ち」
 笛吹きは男の手元に、まばゆい光りを放つラーメンを用意した。
「では、いただきます」
 男は聞いたもの全ての口の中を涎という体液で満たす魔性の音を奏でた。



「おいしかったです。ご馳走様でした。また明日、仕事帰りに来ます」
 男はそう言い残して、闇夜の都会という森に消えていった。

       

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