Neetel Inside ニートノベル
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 相沢、井上、上田、奥田(ぼく)。出席番号で並べられた僕らの高校。なんとなくこの四人で仲がよかった。男子校で彼女も居ない四人は、いろいろあったけれど、まあいつもセットだった。進学で別々の場所に住むことになったときには泣いたし、就職でまた四人同じ東京近郊に住むことが決まったときにも泣いた。そんな僕を相沢は笑い、井上はもらい泣きし、上田は馬鹿だなぁと言いながら隠れて泣く。そんな感じだった。
 部活に精を出していた相沢や、バイトにあけくれていた上田と違い、僕と井上は帰宅部で趣味もなかなか合った。

「なあ井上、やっぱヒロインはあゆでも名雪でもなく秋子さんだと思うんだ…」
「まあ、たしかに、秋子さんはヒロインだな…」

 あゆと名雪、どちらがヒロインかという喧嘩のオチは必ずこれだ。
 残念ながら僕らの趣味は読書は読書でも絵がついているやつで、ゲームはゲームでもかわいらしい女の子が出てくるものだった。



「いったいどうしたんだよ。土曜日くらい寝ようぜ」

 僕は土曜の朝九時に井上のゲスっぽい作り声を聞いていた。着信音の『覚えてていいよ』は容赦なく僕を起こした。
 再会した井上はいつのまにか髪の毛を金髪にして、喋り方まで変わっていた。進学が井上を変えたのか、就職が井上を変えたのかわからない。どちらにせよサナギが蝶になるかのように、井上は脱オタをしていた。東京で再会したときに三人で、誰だお前、と笑ったら、井上はちょっとだけ本気で怒っていた。井上は怒ると自分で自分の靴を蹴る癖があった。癖だけは変わらないんだなと、ほんの少しだけ嬉しかった。

「ばっか、大変なんだよ、いいか、よく聞けよ。この間四人で呑んだとき、上田に彼女が出来たって言ってたじゃねーか」
「ん。ああ」

 面倒なので井上の主旨を三行で言おう。

 上田に彼女
 3:3で上田の彼女さんが合コンを開いてくれることに
 相沢、腹痛

 もう一行僕の感情を付け足していいなら、あれ、僕、数に入ってなくね?な。これが一番ショックだったわけだけど。

「とーにかくー。一人足りなかったら上田の彼女さん怒っちゃうかもだろ。だからお前来いよ」
「いやいや、唐突すぎるだろ」
 とか言いながらも頭の中で着る服を考える。馬鹿だな。男ってみんな馬鹿なんだろうな。そう信じたい。
「十時に新宿駅。とりあえず着いたら電話な」
 電話はそこで切れた。僕の家から駅までダッシュで15分。パジャマにしているTシャツを脱いで、クロークから洗濯してあるしわの無い服を探す。ストライプの地味なシャツ。ブランドは知らない。丸井で安かったから買った。そして何となく親戚の叔母におみやげで貰った香水をつけた。むせるような甘いにおいがした。僕にはまだつけ方がよく分からない。

「あれれ、奥田くんもしかして何か期待してるのかいっ?」
「あー…、そうかもしんない」
「この間失恋してめがっさ泣いてた奥田くんはなんだったのさっ?」
「あはは。それもそうだね」
「要するに奥田くんはコッチの世界しかないにょろよ」

 緑髪の少女は微笑む。

「でもさ、友達との約束は守りたいんだ」

 二本しかないジーンズの色が濃い方を選んではいた。いつものカバンに携帯電話をつっこんで斜めにかけた。
 玄関から見た緑髪の少女はまだ同じ方向を見て微笑んでいた。

「いってきます」
 いってらっしゃい、は聞こえない。

       

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