Neetel Inside 文芸新都
表紙

嘆きと理と遇想と
一話〜始まりの銃声〜

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 この世界では、過去に科学、魔法、理がそれぞれ栄えた時代があった。
 科学……これは説明するまでもないが、すでにある既存の物質を数学的に解明し、有効に利用した時代。
 魔法……科学とは違い、空間が存在するために必要であるある種の元素のようなものを利用し、収束や拡散、または循環等の物理的な作用によって人の手に余ることのないエネルギーとして存在させ、利用してきた時代。
 理……上記二つのものとは違い、既に存在する物質ではなく、存在『させている』側の力を借りるという、要は神様だのガイアだのそういった神格的な力を『借りる』ことで利用してきた時代。
 それらには全てに利点があり、それ故に違った時代で栄えていたのだが、過去に栄えたそれらの技術――正確には技術と呼ぶには相応しくないものもあるが――をサルベージすることで、完全ではないにしろそれらの長所のみを利用し、更に人類を繁栄させようという輩が存在した。
 もちろんそれらはよくいう科学者等にあたる者達なのだが、過去に原子力研究者の発明が世界大戦を過激にすることに繋がったように、新しい――過去にも存在したものだが、その時代の輩からすれば――エネルギー、つまりは力が見つかれば、当然それを悪しきに利用しようとする者も現れる。
 ここはそんな利用方法が、かの戦争時に核を保有するのが当たり前になった時のような扱いになった時代に建造された建物、いや校舎としたほうが適格かもしれない。
 その当たり前を当たり前と享受した人々の物語……。





 「……だから出てくるなと……まぁここからの呟きで聞こえるわけはないか」
 そう呟くと男は腰からハンドガンを取り出し、ライフルを解体する作業に取り掛かった。
 歳は若い。先ほどまでの蟲を踏み潰す時のような病んだ眼さえしていなければまだ成長期真っ只中程度であることは一目でわかるほど。しかし、銃を扱う姿勢はそうと感じさせない程慣れた手つきであった。
 「……」
 男は周囲を警戒し、つい先ほどまでスコープを覗いていた葉の生い茂った木の上から着地の音も静かに地面に降りたった。その両手には解体され片付けられたライフルと既に安全装置の外されたハンドガンが握られている。
 暫く走った後、男は建物――彼からすると校舎だが――に身を潜めた。だがそれも一時的に撤退のリズムを変えるためだけの行動だったのか、すぐにその場を後にする。
 その時、男の纏った重苦しい空気とは違い、場違いな程に素朴なチャイムが校舎から流れ出した。
 「……もうそんな時刻か……戻るか」
 すると男からはさっきまでの重苦しい空気とは裏腹に、歳相応――彼の場合そうは言い難いが――の雰囲気が感じられるようになった。
 何故急に緊張感がなくなったのか、その理由はこの場所にある。
 男は名を桜井 将一(さくらい しょういち)というのだが、将一がいるこの校舎は確かに、一応は学校としての意味合いと役割をもっている。ただ、その他に持たされた役割が主となるものではあるのだが。
 科学の発達した現在では、サルベージした新たな技術を万物すべてに利用させるには抽象的な概念が大きすぎ、上手く運用できないことが多かった。そしてそこで考え付かれたのが『オペレーション・イクシード』
 この計画は主に『魔法』、『理』の力を運用できる人間を育て上げるというコンセプトで考え出されたものである。
 しかし、抽象的故に理解というものが難しいこれらのものはそれらが『当たり前』の事象として享受できる者でなければ運用は難しい。そのため対象となるのは柔軟な思考を持つ子供が相応しい。
 その結果設立されたのがこの校舎のような建造物である。
 全世界的に似たような建造物はいくつか存在しており、それぞれの勢力によって細かい方針の違い等はあるのだが、基礎となることはあまり変わりがない。
 尚、将一の所属しているこの場所ではそれらの力が生き残るためには当たり前、つまり『当然必要な力』であるという認識を持たせることが力の運用への近道だと考えられており、それ故にバトルロワイアルのような殺し合いをいくつかのルールの下で義務化させている。
 そのルールこそが将一の纏う空気の変化に対する疑問の答えとしてそのまま挙げられる。
 基本的に周りの人間を殺すことが最低限のルールである。それによって報酬が手に入り、必要な武器、弾薬、生活用品等が手に入る。各個人はランク付けされているため、自分より上である人間であればあるほど多大な報酬が得られることになる。
 獲得報酬。日の平均殺害人数。殺害方法。等により定められたランク付けとなっており、不確定要素が多いため翌日にどのようなランクになっているかは大人たちにしかわかることはない。
 つまり子供達にとって分かっているのは人間をルールに基づいて殺せばそれだけ地位が手に入るということだけ。金が手に入り、ランクという明確に数値で表される。そして、更に敵が増える。そのためには当然力が必要になり、単純にも子供達はそれを当り前のように求める。
 しかし、覚醒――この場合魔法か理に目覚めた者の意――するためにはその力が当然という意識をしなくてはならない。そのためには絶望や諦めを誘発するような戦い――そのためにランクがある――等をさせず、他にも当然意識のある時に争わなければならない。よって時間的な縛りもある。将一の雰囲気が変わったのはこのルールにより時間外では殺し合いを行うことが確実にないためである。
 朝から夜までという単純なルールだが、これにより子供達は常に万全の状態で殺しあうことができる。
 そんな空間で将一は今まで生きてきた。
 「……帰るか」
 将一は歩を進める。
 照明の明かりが頼りなく灯っている。先ほどまでは点いていなかったが戦闘許可時間が終わったため、このように外は明るくなっていた。
 「今日は何人殺ったんだ?」
 「なんだ生きてたのか。今日は――」
 そんな普通に考えれば場違いな発言も飛び交う中、将一は一人各々に宛がわれている部屋に帰宅した。
 

     

 部屋に戻る。そして将一はいつものように武器を外し、ジャケットを脱いだ。そうしてからまず行うことはすでに日課になっていた武器の整備である。
 この場所で将一はそれなりに高いランクに位置していることになっている。なっていると曖昧な表現がなされているのは将一自身がランクを確認しないため本人に自覚がないためだ。
 そのことから容易に予想ができることではあるが、将一は殺す相手のランクすら確認はしていない。そのときの気分で相手を選んでいる。この施設にいながら実弾兵器を使っているのにも拘らず生き残っていることからもわかる通り、実力はある。しかし、それ以上に彼には嗅覚のようなものがあった。本人に自覚のない無意識的なものではあろうが、傍から見て将一は、自分よりランクの同等以下の奴しか相手にしていないように見えただろう。
 この施設の運営者側としては、強者として戦わない。覚醒する必要性に目覚めず、科学的な兵器に依存している。そんな将一を快く思うものは少なく、本来ならランクを下げられるか消されるかされてしまうはずだった。
 だが、将一になんらかの手が下されていないのには理由がある。
 本来なら意図的ではないにしても、結果として強者とは戦わないもののランクは上がらない決まりである。ここに関係してくるものは、低ランク者が高ランク者を殺すことに成功した場合、低ランク者にはボーナスにあたるものが支給されることになることだ。つまり将一のランクを下げてしまうと、瞬く間に将一は高所得者となってしまう。そこに拍車をかける問題として将一の嗅覚が挙げられる。将一はランクを確認せずに相手の力量を自ら判断し、戦闘しかける是非の答えをだす。つまり、例えランクを下げたり上げたりしたところで将一の殺す相手のランクに大きな差は存在しないのである。よって、現状の彼のランクこそが上は将一より強く、下は弱いという状況なのだ。ずいぶんと前から将一のランクは大きく変化したことはない。
 そして、もうひとつ。何故秘密裏に消されたりせずに残されているのか……それは、彼の戦闘技術の高さ故でもある。
 スパス12等のショットガンによる接近戦からM14等のアサルトライフルによる中遠距離戦闘、果てやM24等による狙撃殲滅等も行うように戦闘の幅が広いとともに、他の者達からすればある意味畏怖の対象なのである。畏怖の対象がいるということは運営者や研究者からしても利点がある。そのため野放しにされているということだ。
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 将一は自室で未だにベレッタM92――要はハンドガン――の手入れを続けていた。
 先ほど使ったM24――狙撃用ライフル――とは違い、こちらはあまり使っていないにもかかわらずだ。個人に割り当てられている分には些か贅沢な――将一のランクのため――8畳ほどある1LDKのほぼ中央に位置する場所に置かれた机の上には分解されたベレッタが広げられている。その傍らには既に整備の終わったM24ライフルが置かれていた。
 「……また使う機会に恵まれなかったな……」
 慣れた手つきで整備の工程を一通り終わらせると将一はその場で立ち上がり、両腿にあるホルスターの片方から出し入れの素振りを始めた。これもいつもの習慣である。幾回か繰り返し、ホルスターを取り外して枕元に置く。そして、電気を消し、枕元に向かった。
 すでに周りの部屋から機械音や魔法等を使用した時特有の音は発生していない。そろそろ睡眠を摂らないと明日に――厳密にいえば今日――支障が出る。そう思いシンプルかつ、銃器以外に装飾物のない質素な寝床に潜ろうとした将一だが、ふと思い出したかのように部屋の隅に位置するタンスの前まで行き、一つ引き出しを引いた。
 消灯がなされ、すでに暗闇と化した部屋の中では普通複数存在する引出しから一つを正確に引くということはできないものなのだが、将一にとってはこの暗がりこそが恰好の狩り場となるのであって、そのための対策をしていないわけではない。
 将一の髪型は男としては長めな限りなく黒に近い紺色をしている。それでいて闇に慣れるため――厳密にいえばそれだけではない――に長い髪は右目を完全に覆ってしまっている。そのため、その目論み通りに右目は夜目に優れるようになった。
 開かれた引出しに目を向ける。そこには一丁の銃が入っていた。将一は銃器の使い手である。そんな彼の部屋の引き出しに銃が一丁入っていたからといって何の疑惑も普通ならないはずだ。だが、暗視スコープでも使わなければ見えないとは思うが、将一の表情は軽く憂いを帯びている。何か思い入れでもあるのだろうか。見る者にそう思わせるような、そんな表情だった。
 将一はしばらくその銃を見続けていたが、再び思い出したかのように動き出し、ベットの中で眠りに就いた。

     

 「ちぃ……面倒な奴だ……」



 翌日、将一はいつものように定刻前から身支度を整え、以前から決めていた狩り場へと足を運んでいた。以前というのは、将一は毎度毎度相手に戦術や奇襲タイミングを悟られないために同じ狩り場に連日足を運ばないために下調べを済ましてあるからである。そして前回とは違い木の上からの狙撃ではなく、建物を利用した中遠距離戦で一気に標的を殺す予定でいた。
 今回の標的の得意距離は遠距離――正確には広域――、ロングレンジでの魔法による殲滅だ。魔力素を凝縮させるなどの工程が必要ない分、扱いは簡単だが――多対一による運用に限り――使用する魔力素を集めるのに時間がかかるため、詠唱から発動までにそう表現するのも適切でないと言わざるを得ない程のタイムラグが発生する。もう一つの欠点として、広域型の魔法の行使にはどうしても術者にも影響が出るため、普通は術者自身の付近には魔法を使用しない。いや、無意識にそうしてしまうのかもしれないが、相当な魔法の使い手か、自らを省みないようなものでもない限りはそこに空間が出来上がる。いざとなればそこに踏み込むのもありだろう。だが、それは気付かれてしまった時の最後の手であり、そうならないためにもまずは中距離以遠から気付かれないように攻撃することに決めた。将一自身が魔法を使えないため――必要とも思っていない――概念を理解しているわけではないが、そんなところなんだろうとは思っていた。
 そこで問題が発生した。



 「ちぃっ……気付かれている以上狙撃は無理だな……もとより、あそこまで動き回るやつには端から効かないだろうが」
 将一の視界の中から人影が消える。再び視界に入る頃にはそれなりに大きくなっていた。それだけ素早い速度で移動しているのだろう。こちらの射撃を警戒してか、大きめに蛇行走行をしてくれているのが幸いしてか、将一が追い付かれるまではもうしばらく時間がかかりそうだった。



 将一は予定通り狩り場に到着し、物陰に隠れることで外敵からの脅威と時間から解放されていた。
 しかし、暫く経っても標的は現れなかった。いや、現れた。胴体と頭、四肢が切り離された無残な状態でだが。
 何も驚くようなことはない。標的にしているのは将一側の勝手な決定である。そのため、その標的が狩り場に近づく前に他の誰かに殺されていた。なんてことは茶飯事とは言わないまでも、今まで何度か起こっていた。
 将一は物陰に隠れたままでその場を離れようとする。
 だが、何かがおかしい。標的だったものが誰かに殺されたとして、何故・・・…。
 「ちぃっ……そういうことか!」
 将一の眼には何も映らなかった。校舎を後ろに携えている状態では前方しか道はなかった。少なくともそう思っていた。敵が来るとしたらその前方の道しかないのだと思っていたはずだが、将一の体は思うが先か動くのが先か、その方向に前転をしていた。
 後方の、つい先ほどまでいた空間には舞い上げられた砂や埃が宙に漂っていた。



 逃亡、諦め、作戦、絶望……どれも違う。いや、そんなことを考えている暇すらないのだ。
 先ほどまで同じ一階にいたと思っていたのに、次の瞬間には壁伝いに上階から突撃してくるような機動力に自信のある相手には狙撃などはもってのほか、拳銃による中距離戦すら挑みたくはないというのが将一の本音であった。
 「なら、少しでも……!」
 だが、ライフルよりはマシとはいえ、取り回しの悪い――いくら近距離の鬼と称されても、サイズの問題はある――散弾を使おうにも連射に向かないものでは一撃必中を狙わなければならない。自信がないわけではない。散弾の特性も手伝って、掠りもしないというのはありえない出来事ではあるだろう。しかし、あれだけの慙死を行い、あれ程の奇襲を行うような――おそらく近距離戦には慣れている――者を相手に、それだけで十分なのか……将一はまだその時ではないと考えていた。
 奴が警戒しつつ接近している間は、追いつかれることはない。建物の構造を利用されてでも捕まるようなへまはしないだろう。それに、ここまで警戒しながら接近してくるということは、向こうには現状を打破するような行動の選択肢はほぼないと考えても大丈夫だ。そう考え、将一はもうしばらく走り続けることにし、使い道のないであろうライフルを敵に投げつけた。時間稼ぎにならないことはわかっている。この状況下ではライフルを奪い取って攻撃されることもないだろう。慣れもしない輩がライフルを手にしたところで、まっすぐになど撃てずにその隙がこちらのチャンスに変わる。
 「……だよな」
 もちろん期待していたわけではない。奴は迫りくるライフルには特に目もくれず、こちらを見失わないようにか、最小限の動きで回避し追跡を続行していた。
 「見慣れない武器だな……トンファーのようなものか?」
 語りかけたわけではない。独り言で自らの疑問を体外に出す。
 見た目は、何かしらの金属でできているであろうが、トンファーが基本となっているようだ。しかし、通常と違っているのは、そこに鋭利な刃物が付いているということ。
 まるで手首から肘まである刃物そのもの腕の側面に付いているかのような、両腕がそのまま斧にでもなってしまいそうな装備だ。
 トンファーが基になっている分、取り回しはしやすいのだろうが、恐らく刃が安定しにくく扱いが難しいのではないか?
 ……そう考え付いてしまうと、相手の技量に対する推量が更に上増しされるような気さえしてくる。だが、逆にあれでは投擲武器としては使うことには向かないであろうと今の現状がもう暫く続くことに疑いを持たないことに拍車をかけてしまった。
 次にくるのは確かな違和感。そう例えるにしてはあまりに確かな。
 次の瞬間。体のどこからか感じる電気信号による違和感。頭の司令部から送られる危険信号。先ほどの自分の考えから浮かび上がる確かな疑問。自分だったらそうであるという、将一自身の考えに基づく短絡的な想像。
 「(奴はあれで全力なのか?)」
 否。理屈ではない。本能が、嗅覚がそれを告げている。思考に続く痛覚という感覚が体を巡るまでに身体がそれに気付けたことは偶然であり、奇跡でもあったのかもしれない。
 「くっ!!」
 途中から感じていた違和感は理解した。蛇行から最小限の回避への移行。これにより、均衡していた両者の速度に優劣が発生し、結果。背後からではなく、前方から斬撃を加えられるということになった。
 反射的反応で何とか致命傷にはならないものの、将一はトンファーのような得物で鼻先に斬撃を受けることになってしまった。
 周囲に紺がかった黒髪が舞い散る。
 鼻先に斬撃を受けたことにより、将一の右目にかかっていた前髪は宙に舞うこととなった。
 「へぇ。綺麗な瞳をしているんだね」
 「お、女だと!?」
 襲いかかった者の声を聞き、驚愕の声を発しながらも距離をとり散弾を撃ち込みけん制をする。もちろん女には当たらないが、思惑通り距離は離れた。将一自身にも、先ほどの瞬発力の差を見せられているため、この程度の距離では役に立たないことを承知してはいたが。
 見たところ、女は顔に仮面をつけているため、どのような外見かは想像できない。だが、一度冷静に確認してみると確かに若干女性的な雰囲気をしてはいる。だが、本体の発する殺気は口調とは違い、尋常なものではなかった。
 「話によると、力も何もなくて銃器だけで勝ってきてるんだってね」
 「……」
 速度で負けている分、僅かな隙が命取りになる。将一は言葉を返さない。
 「いつも右目が髪の毛で隠れてるのには疑問があったんだけど……そういう理由もあったんだね。明日から大変だよね。それ……もう……隠せないよ?」
 「……」
 二人の距離は五メートルとない。女の速度では一秒もかかることはないであろう僅かな距離。そんな距離であるからこそ将一は言葉を返さない。
 現在の状況で他の者にまで襲われたら……将一にはそれを回避する手立てはない。できるだけ迅速且早急に自らこの状況を打破しないことには明日の日の出は見れなくなってしまうかもしれない。
 将一の思考が高速で回転する。
 ない。わからない。思いつかない。無理だ。
 絶体絶命。
 そんな言葉が思考の間を駆け巡る。
 時間の問題とはよく言ったものだが、この場合は将一自身が一瞬でも隙を見せればすぐに事は終わりを告げる。、
 だが、将一はそこまで諦めがよくはなかった。だからといって何ができるわけでもないのだが、なんとか打開策の創造に努めた。
 「ホントに奇麗な瞳だよね……金色だなんて」
 次の瞬間将一の視界に入ったのは、急接近してきた彼女の顔と、次に得物であった。
 

       

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Neetsha