Neetel Inside 文芸新都
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「(やべえ・・・!)」

田村は焦っていた。アリウープが「掛かった」のだ。
この「ひどい掛かり癖」こそがジリ脚とともにこのスカイアリウープの出世を遅らせている原因であり、何人もの騎手を手こずらせた。
そして兄の有名さもあり、掛かり癖のあるこの関西馬に関西の騎手は誰も乗りたがらなくなり、名を売らねばならない年齢で、
「馬なら所属を問わず」乗る関東の田村がこの馬に乗ることになった所以である。

「(どうする俺?・・・)」
田村は手綱を引くが、アリウープは下がらない。むしろ前へ行く始末だ。
「(おい!下がれよ!)」
さらに強く手綱を引くが、アリウープは嫌がるばかりでついにハナを奪ってしまった。
「(・・・・・)」
「(・・・ここで粘るしかない!)」ここにいたるまで30秒、残り3000Mもある中で下した決断である。
そしてその後はよどみなくレースは進行していった。


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「(仕掛けどころだ!)」サイレントスナイプ鞍上、鬼塚竜彦は軽く手を動かし、サイレントスナイプはそれに応える。
すでに後続と5~6馬身離れて逃げていたスカイアリウープに鈴を付けるために、単独2番手に上がる。

「さあサイレントスナイプ鬼塚が上がってまいりました先頭はスカイアリウープその差が4馬身3馬身と縮まる
さあ直線に入りましたスカイアリウープまだ粘る差が縮まらなくなったぞ2番手サイレントスナイプどうした!!」

サイレントスナイプは加速がそれほどよい馬ではないが、それでも今は「不発」なわけではない。

スカイアリウープが「一杯」にならない上にさらに「伸びて」いるのだ。


「残り200Mスカイアリウープが粘る伸びるサイレントスナイプは後退か後ろからはタイガーボーイ
そしてさらにプログレスオリオン伸びてくるしかし差は縮まらない
なんと!スカイアリウープ今1着でゴールイン!」




終わってみれば2着に5馬身差をつけ、レコードタイでの決着となった。



田村はこの奇策の大成功に小さくガッツポーズをしたが、観客席から
  「田村空気嫁!」
と野次られ少しばつが悪くなり、さっさと検量室へと退散した。
ちなみにその頃、「入着までいければ上出来かな?」と思っていたアリウープの調教師の山下和彦も、
うれしいと思いつつも反面関係者席の空気が悪くなったのを感じ、トイレに逃げて一人で喜んでいた。

ただ、田村も山下も感じていたのが「この勝利が決してフロックではない」ということである。
そして、田村は勝利騎手インタビューで「力もあるし、まだまだ上を狙える」と言い、
山下は次走に阪神大章典(3000M・GⅡ、天皇賞の前哨戦)を打ち出したのである。



だが、阪神大章典では「世代最強長距離馬」である菊花賞馬・ズームフライトや様々な強豪が立ちふさがるのであった。

       

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