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そして・・・・・



皐月賞の興奮冷めやらぬ5月。

東京では青葉賞(GⅡ・ダービートライアル)が行われ、古城聖一とトリプルダブラーが先頭から先頭を
譲らず強い競馬で勝利した。デビューが遅れ皐月の舞台には立てなかったものの、その強さはすでに新聞等
で歴代のダービー馬と比較されるほどであり、本番では皐月賞馬・スピードウェイを越える単勝倍率が
予想されている。


しかし、この青葉賞はあくまで「土曜日」のメインレースであり、あくまで日曜日の「前座」に過ぎない。
では、この「本番」とはなんなのか?もうお分かりであろう。





「天皇賞・春(GⅠ・3200M)」





ある人は「菊花賞馬」の更なる躍進を、またある人は「地方の星」の悲願達成の瞬間を、
そしてある人は「血」の奇跡を目の当たりにしようとこの京都競馬場へ足を運んでいる。
―――有馬記念1・2着馬が共に回避し、天皇賞の格というものが改めて疑問視された背景はあるが、
それがかえって「自分らでも盾を狙える」と全国の調教師が総力を揚げて馬を仕上げ、
今日ここに16頭の先鋭達が集結した。

ここまでGⅡ3勝を挙げ、今日こそはGⅠを獲らんとすリトルフィート。
あのメイセイオペラに次ぐ第2の勲章を岩手に届けるべく挑戦者・キングソンバーユー。
栄光ある血統表に「第4の馬」として名前を刻まんとすスカイアリウープ。
「出来損ない」のサラ系から生まれた星・ユメデアエタラ。

そして、「躍進する菊花賞馬」ズームフライト―――そんな馬ばかりが集まった、最強古馬決定戦の
第一ラウンド―――それがこの天皇賞である。


それを見にきた熱心なファンは、パドックに他のレースより一際豪華な横断幕を下げ馬や騎手を応援する。
そんな中、パドックでズームフライトは小柄ながら阪神大賞典からさらに充実した馬体を披露し、
一番人気に応える準備は万端だとばかりに落ち着いてゆっくりと歩いている。
地方の星・キングソンバーユーは父トウケイニセイそっくりの好馬体を見せ、はるばる東北からやってきた
ファンたちの期待に応えんとしている。

そんな中で1頭、ファンを「お?」と思わせる馬がいた。スカイアリウープである。
この葦毛の巨漢馬の鼻の上に、体と同じ色の白いシャドーロールが乗っていたからである。
「この前余力を残して走るのを止めてしまったから・・・」山下は新聞記者にそう語っていた。
それは、誰の目から見ても「悪あがき」に過ぎないものであったが、「調教が良くなった」と田村も
絶賛していた。その田村自身、あの大賞典以来悔しさで眠れない日が続き、その末に自分に無かった
真摯さというものを少し手に入れ、騎乗命令がかかると以前より落ち着いてこの馬にまたがった。
そして本場馬入場。キングソンバーユーの出走もあり、地方からもファンが詰め掛け京都のスタンドは
田村が見たことの無いくらい人が詰め込まれていた(もっとも、田村が京都でGⅠに乗るのはこれが初めて
である。)







「さあまもなく今年も優駿16頭第○○回天皇賞・春の本馬場入場であります。
本場馬入場順に各馬と騎手の紹介をさせていただきます。」






「岩手の将軍、京都に現る!カク地初の芝の栄冠を手にすべく岩手よりやってまいりました
―――キングソンバーユー・鞍上は公営岩手のジョッキー・山崎祐二」

「前哨戦での不祥事はここで晴らす!栗毛の小兵は進歩の心を忘れません
―――プログレスマインドと中村良司」

「もうGⅡはいらない。強い馬が回避でもいい。俺がほしいのはGⅠの勲章だけだ!本日の2番人気
―――リトルフィートと鞍上・西信」

「天才・古城の手で復活はなるのか?2年前の春の天皇賞馬に初コンビ・1年の休養明けの不安は無し!
―――ミスターシームーンと平成の天才・古城聖一」

「母は牝馬でこのレース5着・今日勝って親の七光りとはもう言わせません。今年の大阪杯馬であります
―――シャイニンカープ・前田晃一」

「兄は昨年の天皇賞馬・スーパーアマゾンであります。兄の幻影に追いつくために俺は走る!
―――シルエットロマンス・兄と同じ金城修一ジョッキーとのコンビで挑みます」

「ダイヤモンドSで伏兵にしてやられるも、日経賞で真の実力を見せ付けました。4歳馬であります
―――サイレントスナイプと鞍上・鬼塚竜彦」

「さあそしてそれがその伏兵であります。4代連続天皇賞制覇を目指す葦毛のシャドーロール
―――スカイアリウープ・鞍上は田村勝明」

「未だGⅠ未勝利の鞍上に大輪の花束を渡すべく春の京都に現れました。AJCC牝馬であります
―――サンライトガーデンとジョッキーは阿部裕心(ゆうしん)」

「150万円のサラ系がここにいようとは誰が夢見たことであろうか。日本在来の大和魂を知る馬
―――ユメデアエタラと渡辺清」

「そしてついにやってまいりました。昨年の菊花賞馬は2つ目のGⅠ制覇に向かって今飛び立つ!
本日の1番人気―――ズームフライトと河村大輔ジョッキーであります」

「たとえ空気の読めない悪役と言われようが、俺は相手を叩き潰す!昨年のこのレース3着
―――バイスシティと太刀川和哉」

「夏には祖国へ帰る鞍上に伝統のGⅠの手土産を渡したいところです。昨年2着で今日が最後のレース
―――エルマタドールとデイビット・クラーク」

「2年目にして早くも鞍上はこの大舞台に立たされました。その手腕にこの馬が応えます。
―――ワカトラウェルズと矢野亜津史」

「老兵未だその力衰えること無し!経験で若武者達を倒すのは大賞典3着で昨年のステイヤーズS馬
―――タカノオブライエンと川崎悠介」

「最悪の大外枠を引かされましたが、そういう舞台でこそ俺は輝く!奇跡の準備は整った
―――ジーノキセキと鞍上・村田知弘」



―――――――以上優駿16頭により、天皇賞・春はまもなく3時40分より発走であります。




       

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