数学教師栗栖トリ
第一話
栗栖は、人で賑わう繁華街の道のど真ん中を、何か得体の知れないものに追われているかのように必死で走っていた。
教師になってからというものの、大した運動もしていなかったため、すぐに息が切れ始めたが、そんな事で彼の胸の高鳴りが止まる訳が無かった。
そう、ついに見てしまったのだ・・・。
満面の笑みを浮かべ、街中を疾走する栗栖。思わず吐き気をもよおすほどの人ごみの間を、華麗なステップで切り抜けてゆく。
周りの人の目など気にしている余裕は無かった。
商店街を抜け、人気の無い住宅街へと走る。
ふと公園のど真ん中で立ち止まる。息が切れて少し苦しかったが、その目はカッと見開かれ、口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
体の中で、何かが変わっていくのが分かった。熱く、ゆっくりと体の芯から何かが変わって行く。
それまで空っぽだった心の中に、ふっと何かが入り込んだような感触があった。
そう。それが、彼の全てが変わった瞬間である。
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翌日、肉棒高校3年6組は新学期という事もあり、皆思い思いにこの春休み中にあった事について話に花を咲かせていた。
肉棒高校では、理系、文系ごとにクラスの選別が行われいて、1~3組は文系、4~6組は理系組である。
またそのクラスの中でも成績別にクラス編成が為されていて、4組から順に成績優秀者が入る事になっている。つまりクラスは定期試験ごとに変わって行くという仕組みだ。
文系組のように、将来の就職に少なからず不安を覚えており、つねに危機感を持って授業に臨むような向学心に富んだ学生は、理系組には極めて少ない。
「理系ならどうにかなるだろう」というような、そんな甘い見通しがそうさせているのか。
もちろん理系組にも成績優秀者はいるが、いたとしてもごくわずかで、全員4組に固まってしまっている。5組、6組はすでに大学進学など夢のまた夢というような生徒達で形成されていた。
特に6組の授業は際限なくやかましく、ベテランの先生ですら思わず顔をしかめたくなるような有様の授業風景となってしまう。
乱れ飛ぶ私語、先生の僅かなミスに対する鬼の首を掴んだかのような野次り、先生に見えないようにトランプで遊ぶ者達、携帯電話で他クラスの生徒と通話を始める生徒。
そんな荒くれ者が巣食う最低なクラスを、新任数学教師、栗栖トリは受け持つ事となった。要はとんでもないじゃじゃ馬クラスを押し付けられたのである。
朝のホームルームが終わり、生徒達はいつもの調子で1時限目が始まるまでの間、机の上に腰掛けて友達との会話にいそしんでいた。
突然ガラリとドアが開いた。
見慣れないハゲ頭の教師が入って来た。皆が怪訝な目で彼を見ている。中には眉間にしわを寄せてその教師を睨みつけている者もいた。
そのハゲは教卓の前に立つなり、こう叫んだ。
「んんーー!!座れー!!!!」
そのものすごい声量に、ほとんどの者はすぐに着席した。一部は「あぁ?なんだよてめぇ?」というような目でその教師を睨みつけていた。
その教師は彼らを一瞥すると、穏やかな笑みを口元浮かべると、おもむろにズボンをおろし、一気にしごき始めた。パンティーは何故か女子高生の物だった。
射精した。あっという間であった。
だがそこには恐ろしくも、美しい光景が広がっていた。
教室にいた誰もが自身の目を疑った。
その教師が発射した精子達は見事に黒板にぶちあたり、文字を浮かび上がらせていた。
暗緑色の黒板に、まるで白いチョークのようにはっきりと刻まれた精子の文字。
そこには端正な字体で
「栗栖トリ」
と書いてあった。
彼はズボンを一瞬で上げて、ニコリと優しくほほえむと、こう言った。
「みんな、私がこれからこのクラスの数学を担当することになりました、栗栖トリです。よろしくお願いね★」
と言った。
先ほどまで、獲物を睨みつけるような険悪な目をしていた者達の目は、すっかり畏敬の念を表したものへと変わっていた。感動し、素直に着席した。
栗栖はそんな彼らの様子を見ると、嬉しそうにつぶやいた。
「んん~~~いい子だねぇ~~可愛いなぁ・・・んん~~~今日もクリちゃんのシコシコ射精授業始めちゃうぞぉ・・・」
その誰に対してでもなく発せられた、不気味な、あまりにも不気味な呟きは、3年6組の生徒達を恐怖のどん底へ突き落とした。誰も這い上がる事など出来そうもない、深い深い恐怖の底へ。
こうして栗栖の恐怖の一時限目が始まったのだ。
今日は数学3の範囲に当たる、積分の話からだった。栗栖が教科書を開いた。生徒達も、誰も私語をすることなく、素直に教科書を開いている。
まずは説明のため、2次関数のグラフを描く必要があった。
栗栖は教科書を片手に、くねくねと奇妙に腰を動かすと、ズボンを脱いだ。
生徒達の目はギョッと見開かれている。皆、これから起こる事を頭の片隅で確実に予想は出来ていたが、誰もそれを信じたくなかった。誰がそんなオッサンの射精なんぞ見たいものか。
栗栖が奇声を上げながらシコり始めた。
「あう~~~あう~~~あうあうあうあう~~ないないあないあに!!!んん~~出ちゃうよぉ~~~二次関数出ちゃうよぉおお~~~」
ブビッ
出た。
目映い精子が黒板に見事な放物線を描いていた。つい先ほどまでオッサンの射精なぞと思っていた生徒達のうちの一部は、そのあまりにも艶やかな光景に感涙の涙を流し、その場にうちひしがれていた。他はすでに気が気ではない様子だ。発狂寸前。
栗栖はゆっくりと穏やかに説明を始めた。
「ん~ここがぁ~~~X=1だからぁ~~むふぅぅう~」
生徒達はすでに授業どころではなかった。
黒板に射精し、美しく自分の名前を描いて自己紹介をしただけでなく、図形までも描いて見せたのだ。感動し、涙を流している者までいた。
栗栖はそんな彼らをよそに、授業を進めて行く。積分の話なので、二次関数のある一定の部分を斜線で塗りつぶす必要があった。
栗栖は早速ズボンを降ろし、その面積一帯に精子をぶっかけるための準備に入った。
ところが、彼は何を思ったのか、それまで黒板にずっと向かいっぱなしだった上半身を生徒達の方に向けて、真顔でこう言った。
「マス(math)をしながらマスをかく。」
生徒達は全員真顔で、微動だにしなかった。
ブビフィッ
出た。
またも見事に斜線が引かれていた。一部の者は感動し、むせび泣いている。他の者はすでに、遠い目をしてこれが夢であるようにと祈っているようだ。
しかしまだ授業は残り20分。
栗栖は机の上に筆箱しか出ていない生徒を発見した。
「あーら~ちょっとぉおーだぁーめだよぉー?忘れ物しちゃぁあ~ぁねぇ?んふぅんふぅんふぅ・・・」
その生徒は何をされるかと、気が気でない様子だ。キョロキョロと周りの人に助けを求めるような視線を送るが、周りの人間もやはり自分が可愛いのだろう。無視している。その生徒すでに無人島に置き去りにされてしまった人のような顔つきになっている。
「じゃあちょっと教科書をコピーしてくるからまってて」
そういい残すと栗栖は教室を足早に出て行った。
教室に残された、その生徒及び他の生徒らは、頭はおかしいが、実は根はよい人なのではないかなどと話し始めていた。
やがて後ろのドアが音もなく開き、栗栖が戻ってきた。そしてその生徒に一枚のプリントを差し出した。
!?
それはおよそ教科書のコピーとは呼べるしろものではなかった。
その生徒と周りの生徒達は目を丸くして眉間にしわを寄せながらそれを凝視したが、そのプリントに印刷されたものが何であるかを理解した瞬間、唖然とした。
それはまぎれもなく栗栖のチンコのコピー、すなわちチン拓であった。くっきりと栗栖のチンコの形が印刷されている。
栗栖は、驚きを隠せない様子の彼らに暖かい微笑みを送ると、すぐに授業を再開した。
どれくらい時間が経っただろうか。栗栖の奇怪な喘ぎ声と、精子が黒板に当たるビチャリという音しかしない静かな教室に、突如として授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
授業が終わったのだ。
栗栖はすぐにナニをしまうと、足早に教室を出て行こうとした。
生徒達は終業だというのに、皆まだ静かに着席し、栗栖を目で追っていた。
栗栖は教室のドアを開けて出て行こうとしたが、ふと何かを思い出したかのように立ち止まり、とんでもなくでかい声で叫んだ。
「オナニーばっかりしてるとねぇ~!!!んんんふぅ~!!!先生みたいにハゲちゃうんだよぉ!!!!」
そう言うと、彼は教室を後にした。
こうして栗栖の恐怖の一時限目が終了した。
教室に残されたのは、そのあまりのキモさに絶望の淵に立たされた者達と、もしくはその艶やかな射精技に感動し、一生の忠誠を誓い始めた者達、そして栗栖の生臭い精子だけであった。
栗栖は廊下を歩きながら、小さく呟いた。
「にゃふぅうぅういしひっひいいいいしい・・・改革は始まったばかりだぞぉ・・・」
栗栖の目の奥が精子色に輝き始めた。