Neetel Inside 文芸新都
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なくしもの短編集(仮)
6月はカエル

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歩いていると、ある家の玄関に、蛙が入った虫籠が置いてあるのを見つけた。
蛙については詳しくないから名前は分からないが、
巨大だったから殿様か蝦蟇か何かだろう。

それを見て、私が大いにそれを欲していることに気付いた。
胃袋が活動しだすのを感づいたからである。
そういえば、ここ数日間、まともな食事をしていない。

ハラヘッタ、クイテェ

ガッと虫籠を引っつみ、グイッと蛙をつかみ出した。
木の枝に突き刺すと、何やら暴れだした。
持っていたライターで炙った。
どうやら、貫通した違和感以上に、火あぶりの方が強烈らしい。
燃えている部位は当初激しく動いたが、
縮み、狐色に変化する毎に、所作は無くなっていった。

いよいよ欲は止められなくなった。
かぶりついた。
うまい。


さて、完食した後で正気が戻ってきた。
飼い主が籠から蛙がいなくなっているのに気付いたとき、どう思うか。

そんなこと、どうでもいいではないか!
どうせ蛙は、飼い主の知的好奇心を満たすために、この家に連れて来られたのだろう。
飼育用だろう。もしかしたら、解剖されるのかもしれない。
だが、どのみち殺されるのだろう。そして、捨てられるだろう。

意図せぬ浪費は悪だ!それが命ならなおさらだ!
蛙自身の持つ生命力を、総て吸収していないではないか!
それならば私が行った、生命力総てを得る行動こそ正しいのだ!
私のように、蛙を食べる者がいる、という発見だって頭を刺激する材料ではないか!
何ら反省する必要は無い!あるものか!


そう結論づけたところで、何も問題がすべて解決するわけではない。
蛙は蛙でも、毒ガエル。
一命は取り留めたものの、カエるにカエれぬ状況に陥ったのは言うまでもない。

       

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