Neetel Inside 文芸新都
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 現場は、俺の通学路から少し離れた旧商店街地区の一角にあった。ちょうど無断駐輪禁止地域にある。俺は、旧駅前の古くなった駐輪場にチャリを止め、そこから歩いて向かう事にした。
 その名の通り、元々は二路線の合流地点であった大きな駅を中心に賑わっていた一帯で、その駅が市の北西部に移った今は、商店の跡が建ち並ぶゴーストタウンと化している。外縁部では住宅街への転換が始まっている一方で、駅に近いこの辺りは未だに当時の姿を残している。そんな感じの通りを、俺は目的地に向かってひたすら歩いた。
およそ十分程度歩いたところで、例の現場に到着した。一応ビニールシートで周囲を囲んであるが、付近に人が殆ど住んでいないため、かなり乱暴な囲い方だった。出入り口の、やる気なく垂れ下がったロープを跨いで敷地内に入ると、彼の見せた画像と同じ風景が広がっていた。大小さまざまなコンクリートの欠片と、折れ曲がった状態でむき出しになった鉄骨。その幾つかを観察してみると、確かに鋭利な切断面があった。コンクリートだけでなく、鉄骨の一部にも切り刻まれた跡がくっきりと残っている。
「これは疑いたくなっても仕方ないよなぁ」
思わず声に出して呟く。これだけ不自然な痕跡があれば、誰だって疑問を持つ。とはいえ、彼の言うように魔女の仕業だとは思わなかった。どうせ、誰かの悪戯か偶然起きた結果だろう。その時の俺はそんな風に考え、現場を立ち去ろうとした。
 ちょうどその時、倒壊現場の奥から猫の鳴き声が聞こえた。倒壊に巻き込まれでもしたのだろうか。俺は少し気になって、瓦礫の積み重なった奥の方を見た。姿は見えなかったが、やはり猫の鳴き声が聞こえる。俺は、声のする方に歩み寄ってみた。
「予感的中か」
ビルの残骸が軽く積み重なった中から声が聞こえていた。この程度の瓦礫なら、自力で排除できそうだ。俺はそう思って上に乗った瓦礫を持ち上げた。同様に数個脇へ退けたところで、黒猫の上半身が現れた。橙色の眼が俺の顔を見つめる。
「よし、今助けてやるからな」
俺は、猫に言い聞かせるようにそう言い、残りの欠片を慎重に取り除いた。そして助け出した猫を抱きかかえ、入り口付近で地面に下ろした。相変わらず俺の方を見つめている猫に、声をかける。
「じゃあな。これからは気をつけるんだぞ」
そのまま立ち去ろうとしたわけだが、何故かこいつは俺の後をついて来た。二度ほど走って引き離そうとしたが、走ってついて来る。
「おいおい…」
懐いてしまったというべきか。俺が困惑した表情を浮かべると、猫はこちらを見つめ、一声鳴いた。まあ、猫の一匹くらいは飼っても大丈夫だが、姉貴が何を言うかわからない。
「ん……。仕方ない、連れて帰るか」
俺は、駐輪場で足元に寄ってきた猫を抱え上げ、自転車の前カゴにそっと降ろした。そうして、いつもより慎重に自転車を漕ぎ、何とか日が暮れる前に帰宅を果たしたのだった。

       

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